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共同プロジェクトで宣伝権を巡り対立したケースと契約修正策

目次
はじめに:製造業における共同プロジェクトの重要性と宣伝権問題
近年、製造業界では異業種連携や共同プロジェクトによる新たな価値創造が急速に進んでいます。
AI・IoT技術の活用や、サステナブルなモノづくりを目指す動きの中で、一社だけでは実現できないプロジェクトが増えてきました。
こうした共同プロジェクトでは、企画段階から試作、製品化・実証実験に至るまで、複数の企業が自社の強みを持ち寄り、互いに協力し合います。
一方で、共同開発が成功に至った後、宣伝・広報活動に関する権利(宣伝権)を巡って摩擦が生じやすいのも実情です。
昭和時代から根付く「ウチの会社が主導した」という意識、プレスリリースのタイミング争い、クレジット表記の優先順位、さらにはSNS活用やオウンドメディア上で「自社の手柄」としてアピールしたい心理などが問題の根底にあります。
この記事では、実際に現場で起こった宣伝権を巡る対立ケースをベースに、発生しやすい背景、その解決策や予防法、そして今後の最適な契約修正ポイントまでを詳しく解説します。
宣伝権を巡る対立の現場実話
ケーススタディ:新技術発表の広報を巡るもつれ
実際に私が経験した事例を紹介します。
大手精密部品メーカーA社と、先進制御システムを持つ中堅B社が、それぞれの得意分野を持ち寄り「高効率化自動車用センサー」の開発プロジェクトを始動しました。
プロトタイプは従来比30%以上の省エネを達成し、二社で国際展示会への出展と同時に成果を広報しようという話になりました。
ところが、展示会直前になってB社の営業部門が自社のみで先行して新センサーのプレスリリース原稿を作成し、主要業界紙への独自配信を画策したことが発覚します。
「共同で発表する約束だったのに!」とA社のマーケティング担当は憤慨。
一方のB社は「開発リーダーは当社側で、他にも自社技術が多いので主導権は譲れない」と主張し、対立が生まれました。
結果的に、別々のリリースとなり、外部メディアからは「なぜ共同開発なのにバラバラなのか」と逆に疑念を持たれる形となり、両社とも印象面でマイナスとなってしまいました。
業界特有の“手柄争い”が生まれる背景
製造業の現場には、未だに昭和的な「うちの技術こそ」「開発リードは自社」という誇りが根強く残っています。
今でこそオープンイノベーションが叫ばれる中、「宣伝」という表舞台では自社アピールを最大化したい心理がどの現場にも存在します。
以下のような要因から宣伝権を巡るトラブルが発生しやすいのです。
– 販売実績や受注獲得への直接貢献を強調したい(営業部門の焦り)
– SNS時代の「速報性」を重視しすぎるあまり、相手先との調整が後回しになる
– 技術情報や開発ストーリーの発信範囲に対する認識違い
– 広報・マーケティング部門と技術部門間の連携不足
これらが複雑に絡み合い、共同プロジェクトの成果を“どの会社がどうアピールできるか”で思わぬ対立が起きやすいのです。
宣伝権トラブルのリスクとビジネス影響
共同開発の宣伝権に関するトラブルがビジネスにもたらすデメリットには、以下のようなものがあります。
1. 信頼関係の毀損と将来的な共創機会の損失
一度でも「約束が違う」「勝手に宣伝した」などの対立が社外にも知れ渡ると、“協業相手としての信頼度”が大きく低下します。
次の共同開発や、サプライヤー・バイヤーとしてのビジネス拡大のチャンスを逃すことになりかねません。
2. 市場・業界内でのブランド毀損
顧客やメディアから「一貫性がない」「情報が混乱している」と見なされると、ブランドイメージが損なわれる恐れがあります。
特にBtoBビジネスは長期的な信頼蓄積が重要なため、一度の宣伝トラブルが大きな損失につながります。
3. 法的リスクの顕在化
そもそも共同開発契約に宣伝・広報活動のルールが未記載だった場合、最悪の場合は損害賠償や調停・訴訟へ発展するリスクが出てきます。
法的にも解釈が分かれやすい領域のため、曖昧なまま進行してしまうと多大なコスト発生に繋がります。
実務目線で考える現場主義の契約修正策
では、こうした宣伝権問題を未然に防ぐ、もしくは実際に事件が起こった際に冷静に事態を収拾するために、どのような「契約修正」「条件見直し」が有効でしょうか。
私自身が調達/購買部門とマーケティング部門、そして工場現場責任者の立場で経験した実務事例をふまえてご紹介します。
1. 共同プロジェクト開始時に広報活動条項を必須化
共同開発や業務提携契約のドラフト時点で「宣伝・広報に関する条項」を盛り込むことが重要です。
以下の内容は必ず文書化しましょう。
– プレスリリース・記者発表会の開催義務およびそのタイミング
– 発表原稿内容の事前相互承認(必ず両社担当がレビュー)
– 公表日・公表方法(単独か連名か、どこまで情報を開示するか)
– ロゴ・名称・技術クレジットの表記順序やルール
– 発表後のSNS・自社HPなどの二次展開範囲・表現方法
この合意を「契約書」または「覚書(MOU)」、あるいは作業分担表(SoW)の付属資料として明文化することが、トラブル予防の第一歩です。
2. 緊急対応ルールを明記する
メディアからの急な取材、日本や海外の展示会での突発アピールなど、現場ではイレギュラーがつきものです。
こうした際の「最低限両社の了解取得ルール」「口頭/メール連絡の速やかな手順」なども記載しておくことで、責任の所在や社内報告のしやすさが格段に上がります。
3. 情報開示範囲と公表承諾フローの明石化
「どこまで開示して良いのか」「成果物に対する各社の貢献度強調割合」が実務的に迷いやすいポイントです。
できれば共同でプレスキットやQ&Aを事前作成し、広報窓口(または統一窓口)を一本化しておくと現場の混乱が減り、バイヤー/サプライヤー双方のストレスも低減されます。
4. トラブル発生時の是正処置・ペナルティ規定
万が一次回から付き合いを断ち切るほどの重大トラブルになった場合の「ペナルティ条項」も、あくまで契約文書として事前に記載しておくべきです。
一方で、単なる悪意のない“認識違い”であれば、「まずは共同で事実確認、その上で再発防止策実施」など段階的な対応策を規定しておくことで、実務上の柔軟さも担保できます。
アナログ体質からの脱却:ラテラルシンキングの視点で
「製造業は昭和から変わっていない」「契約や条項の細かい話より“現場の空気”や“社内の伝統”を優先しがち」という指摘は今も的を射ています。
しかし、デジタル化とグローバル化が進み、ビジネス環境も劇的に変化する時代では、こういった“慣習主義・空気読み”だけではグローバル競争に勝ち抜けません。
ラテラルシンキング(水平思考)によって、
– 「プロジェクトの“成果物”だけでなく、“広報/PR”自体も価値共有の一部である」
– 「広報戦略はコストセンターではなく、共創価値創出の“表現投資”である」
– 「どちらか一方の会社単独発表より、共同宣伝による市場エコシステム拡大メリットの方が大きい」
という発想への転換が今、真に求められています。
まとめ:宣伝も“共創価値”の一部として見直そう
共同プロジェクトの成果を世に知らせるための「宣伝=広報活動」は、単なる付随的業務ではありません。
実は製造業の現場にとっても、バイヤー/サプライヤーの関係性においても、「広報」という表現活動自体が新たなパートナー価値を生み、その先のビジネスや信頼連鎖を導く原動力となります。
昭和的な“手柄主義”から一歩進んで、宣伝権もまた「協働による資産」であると認識を改めましょう。
実務現場でのトラブル回避には、契約段階での事前明文化・運用ルールの策定、そしてチーム内・社内の相互リスペクトが不可欠です。
「宣伝の力」も“共創”の一環として重視し、持続的なパートナーシップ、ひいては日本の製造業全体の発展へとつなげていきましょう。
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