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共同投資した設備使用料を巡り対立したケースと契約設計の工夫

目次
はじめに
製造業の現場では、コスト競争の激化や市場環境の変化に対応するために、複数の企業が共同で設備投資を行うケースが増えています。
この共同投資は、単独では実現が難しい高額機材の導入や新技術への対応が可能となるため、業界にとって大きなメリットがあります。
しかし同時に「設備使用料」に関するトラブルや価値観の違いから対立へと発展するリスクも常に存在しています。
本記事では実際に現場で発生した対立ケースや、なぜそのような問題が起こるのかの背景を紐解き、契約段階で織り込むべき工夫について現場目線で解説します。
また、バイヤーやサプライヤーといった立場の違いから見える「考えのズレ」を具体的に紹介し、誰もが納得する契約設計のヒントを提供します。
共同投資が増える背景
市場競争の激化とコスト低減の必要性
グローバル市場で生き残るためには製造業も生産コストの削減が不可欠です。
従来は各社が独自に設備を投資してきたものの、最新のロボットやIoT化機材は高額になりがちで、単独導入はリスクも大きくなります。
このため、信頼できる取引先と共同で設備を導入し、その利用料を分担する動きが強まっています。
技術革新と設備集約
AIによる検査装置や自動搬送システムなど、先進的な設備は特定の部品メーカーだけでなく、多種多様な工程への応用が可能です。
従来の「自社専用」から「シェアリング・エコノミー」へのパラダイムシフトが、製造現場にも波及しています。
下請けと元請けの新たな関係性
従来、下請工場は元請から要求された仕様通りの設備を自社負担で用意することが一般的でした。
しかし、取引の継続性や資本力の問題から、共同投資型の設備導入が取引の新基軸として台頭しています。
設備使用料の発生起点と主な対立理由
使用頻度・占有率の定義と乖離
最も多いのが「実際の使用時間」や「ライン占有率」に関する解釈の相違です。
例えば、元請けA社と下請けB社が出資した場合、
– A社:月間500時間想定
– B社:月間300時間想定
この違いをどのように算定して使用料に反映するか、現場ではしばしば揉め事となります。
メンテナンス・消耗品費用負担での対立
設備は使いっぱなしではなく、定期点検や部品交換が発生します。
どちらがどの割合で、どの消耗部品に対し責任を負うのか。
こうした「運用中コスト」を安易に均等割りすると、不満や損得感情が先行しトラブルの温床となります。
稼働停止や優先利用時のルール決め
予期せぬ故障や生産計画の急変更があった際、「赤字の補填」「納品遅延時の責任」「優先権の行使」など調整が難航します。
元請・下請けという取引パワーバランスが現れる局面です。
設備償却後の追加投資・撤退時の扱い
耐用年数を過ぎた時点で「次の更新」をどうするか、「誰が撤退できるか」「撤退時の処分金額評価」は、契約書に明記されていない場合、大きな火種となります。
実際にあった共同投資の対立事例
ケース1:占有率計算の不透明化から紛争
ある部品メーカー2社が、最新のレーザーマーキング装置に共同出資しました。
当初は「見込み生産数で使用時間を割振り、費用も時間按分」と決めていました。
しかし実際には、納期遅延や製造トラブルから予定外にA社が追加で稼働することになり、
– 本来の案分を超えてA社が使い過ぎる
– 「追加分の使用料はいくらか」「B社が我慢した分の損失補填はどうするか」
という新たな問題が浮上。
両社間で計算の基準や、当初契約で想定していなかったパターンが論点となり、最悪一時的に設備稼働をストップする騒動となりました。
ケース2:設備保守料の認識違いで関係悪化
別のケースでは共同導入した成形機のメンテナンス費用が争点となりました。
A社は「月ごとの稼働実績で按分」と主張したが、B社は「常駐オペレーターの人件費や予備部品在庫も負担分に入れるべき」と訴えました。
細かなやりとりが重なるうちに、お互いの管理責任や信用に疑念が生じ、最終的には「次期設備投資からは共同出資をやめる」という結論に至ったのです。
なぜ問題が繰り返されるのか? アナログ現場のジレンマ
口頭・慣習優先の取引文化
製造業では今なお、口頭の約束や長年の慣習がものをいう場面が少なくありません。
昭和時代からの「阿吽の呼吸」が残る現場では、契約書に明記されていない事項は「何となく」「今までの流儀で」解釈されることが多く、思わぬ誤解や齟齬を生みます。
“やってみなければわからない” の前提
新技術導入時は実際に生産が始まるまで正確な稼働率・消耗度合が読めません。
工場自動化やデジタル化が進む一方で、完全なシミュレーションが難しいため、想定外の運用が発生しがちです。
これが使用料の分担ルールだけでなく、優先順位や業務範囲の混乱を招く要因となっています。
立場によるリスク感度の違い
元請(バイヤー)は「生産ラインの安定稼働・コスト予測」を第一に考えがちです。
一方、下請(サプライヤー)は「余剰在庫リスク」「責任範囲の曖昧さ」などを心配します。
双方の優先順位や価値観がずれていると、「お互い様」とはならず感情的な対立を招きます。
契約設計の工夫―対立を予防する実践的アプローチ
1.“詳細な帯域制御”型の使用料設計
単純な時間按分や生産量按分ではなく、「曜日・時間帯ごとの専用枠設定」や「臨時割増しルール」を明文化します。
たとえば
– 月間ベースの基本枠を設け、追加利用は10%割増しで使用料精算
– 生産計画変更時には双方の事前合意が必要、など
これにより計画変更時のイレギュラーも公平に扱えます。
2.“コスト見える化”と分担項目の明確化
設備購入費のほか、
– 定期メンテナンス(部品・人件費)
– 故障対応
– 消耗品
– 老朽時の処分・更新コスト など、
どこまでを分担するのか細かく定義して書面化します。
さらに「毎月経費を一覧で公開」「予算超過時は特別協議」とすることで、不信感や認識違いも防げます。
3.中立的な調整役の設置
元請・下請どちらでもない「設備管理責任者」か「業界団体」を調停者に指定し、日常運用・トラブル時のヘッジ体制を組みます。
社内の縦割り・力関係に依存させないことで、小さな火種も発見しやすくなります。
4.見直し条項の導入(契約期間ごとのリセット)
初回の契約内容が想定外にフィットしない場合もあります。
“半年ごと・1年ごとに見直し協議の場を設ける”といった更新条項があれば、問題が放置されるリスクも低減されます。
バイヤー・サプライヤーから見える「相手の考え方」
バイヤーが重視するもの
– 総コストの平準化や予見性
– 生産トラブル時のバックアップ体制
– 設備稼働率の最大化
– 「柔軟対応できる下請」の確保
サプライヤーが重視するもの
– 追加作業や変更時の補償
– 設備投資の回収期間の見極め
– 予想外の利用増・金額増リスクへの防御策
– 従業員への負担拡大や責任範囲の明確化
この優先順位やリスク観点のズレを、契約段階で「可視化」し、立場ごとの懸念まで配慮できる設計が理想です。
まとめ:未来志向の“共同投資文化”を築くために
設備の共同投資は、製造業にとって競争力を高める有効な選択肢です。
その一方、古い慣習や価値観の違いが残る現場では、設備使用料や運用ルールを巡り繰り返しトラブルが発生しています。
“契約設計はあくまでスタート地点”と捉え、
– 実態に応じた運用ルールの“柔軟な見直し”
– コスト・業務を常に“見える化”する仕組み
– 両者が譲り合い・協調できる風土の醸成
これらを意識することで、単なる”現場トラブル”から脱却し、持続的な競争力強化へと道を開くことができます。
現場のプロフェッショナルとして、私たち自身も一歩先の新しい製造業のあり方を模索し続けましょう。
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