投稿日:2025年8月31日

保証対象外の災害損害を巡り顧客と争った契約事例と解決方法

はじめに:製造業の現場で直面する契約リスク

製造業に長く携わっていると、予測不能なリスクが日々の現場に潜んでいることを実感します。

特に、天災や災害による損害は、いくら備えても完全に回避することは難しく、またその影響も多方面に及びます。

こうした災害による損害について顧客との契約でどこまで責任を負うのか、その線引きは経営の安定と信頼構築の上で大きな鍵となります。

今回は、「保証対象外の災害損害」をめぐる実際のトラブル事例や、顧客と円滑に合意形成へ至った解決方法について、現場目線で詳しく解説します。

サプライヤー側、そしてバイヤー側双方での考え方や注意点もあわせて共有します。

災害損害はなぜ契約トラブルになりやすいのか

製造業の契約における“免責事項”の重要性

製造業の契約書には、必ずといってよいほど「免責事項(force majeure)」が記載されます。

これは天災・地震・洪水・火災・暴動など、当事者のコントロールを超えた災害等に起因する損害については、契約上の債務不履行とはみなさない、という内容です。

しかし実際の現場では、災害で製品が納期に届かなかった、倉庫内の製品在庫が損壊した、設備や原料に甚大なダメージが発生したとき、契約書に「災害時の免責」が書かれていたとしても、損害責任や回復措置への認識にギャップが生じやすくなります。

バイヤー・サプライヤーの立場で異なるリスク認識

バイヤー(購入者)側は、供給停止や品質低下が自社の生産計画・利益へ直結するため、「どんな状況でも安定供給」を期待しがちです。

対してサプライヤー(供給者)側では、制御不能な災害リスクまでは責任を負いきれない、というのが本音です。

この認識のギャップが、いざという時にトラブルを深刻化させてしまいます。

実際にあった契約トラブルの事例

ケース1:洪水被害による部品納入遅延と損害請求

ある部品メーカーでは、集中豪雨による工場施設の浸水で生産ラインが停止、受注済み部品が納期通りに出荷できなくなりました。

バイヤー側では、「遅延により自社のプラント稼働が数日間ストップ。逸失利益分の賠償を求める」と主張。

一方サプライヤー側は、「工場地域全体が水没し、想定外の災害であり、契約で保証対象外と明記してある」と突っぱねる構図となりました。

ケース2:地震による完成品在庫の毀損と責任分界点

別のメーカーでは、大地震で物流倉庫が崩壊し、顧客(バイヤー)が発注した製品がすべて損壊。

製品の所有権移転タイミングが曖昧なまま、「保管中の商品はサプライヤーの責任」「いや、発注済みなので損害補填を求める」と両者で責任のなすりつけ合いになりました。

契約書の落とし穴―“想定外”をどう扱うか

免責事項は万能ではない

多くの契約書では、「不可抗力による損失は当事者いずれも責任を負わない」と一文で済まされがちです。

しかし現実には、「どの時点までがどちらの責任か?」「回復措置・協議方法をどうするか?」など詳細な規定が曖昧なまま業務が進むケースが多いです。

結果、いざ災害など起きた際に“契約書の解釈”をめぐり争いが生じ、関係まで悪化させてしまう危険性があります。

業界慣習も着目:昭和的な“口頭約束”のリスク

特に、日本の製造業界では「長年の付き合い」「阿吽の呼吸」で物事をすすめる文化も根強く残っています。

昭和的なアナログ業界ほど「まあ、なんとかする」で済まされてきましたが、近年はこうした“曖昧な同意”が後で損害賠償トラブルを招いています。

しっかりと書面化やデジタル記録を残すことの重要性は高まる一方です。

実践的な解決策:信頼とルールを両立させる

事例から学ぶ“明文化”の徹底

現場で繰り返されるトラブル対応の経験から、最も効果的と感じるのは「例外なく」契約内容を明文化し、事前に合意を得ておくことです。

●“どんな災害(類型と範囲)まで免責とするか”
●“免責発生時の連絡・協議・再納期目安・在庫引取り等のルール”
●“不可抗力時の保険適用範囲や第三者負担(自治体・共済など)”

お互いの期待や責任範囲を事前にすり合わせることで、後々の争いを防ぐことができます。

サプライヤーの主導で“リスク協議”の場をつくる

サプライヤー側は「どうせ他社も同じ書き方だから」と思い込まず、「自社の災害リスク説明資料」「過去トラブル事例の共有資料」などを持参し、リスク説明を自ら行うべきです。

ここで、万一の場合にどこまで対応できるか、対応できない部分は何か、それぞれ率直に議論して地雷を先に潰しておくことが重要です。

バイヤーから見ても、こうしたリスク共有ができるサプライヤーは信頼の高さや安定供給力に映ります。

保険やBCP(事業継続計画)の活用

大規模災害リスクに対しては、業務災害保険やBCP(事業継続計画)の備えも有効です。

サプライヤーが自社独自で多重防災策を整備し、バイヤーにも“どこまでカバーできているか”を丁寧に説明することで、リスクが顕在化した際の混乱を最小限に抑えられます。

現場目線で見直す「信頼」と「契約」の関係

お客様本位と自社保護のバランス

日本のサプライヤーは、つい「お客様第一」「どうにかして応えなければ」と無理をしてしまいがちです。

しかし、現場を守るためには「できないこと」「担保しきれないリスク」はきちんと提示し、対話で着地点を探る姿勢が不可欠です。

合意形成ができてこそ、その後の真の信頼関係につながります。

情報開示とコミュニケーションの積み重ね

気象データや地域リスク、サプライチェーン上流での障害頻度など、徹底的に情報開示を行い、「納品物の所有権がいつ移るか」など工程ごとの確認事項も端的に文書化しておくことをおすすめします。

また、「電話口だけ」「メールだけ」の約束ごとは見返せる記録として必ず残すクセをつけましょう。

まとめ:争いを“契約力”と対話力で乗り越える

災害損害などの不可抗力リスクを巡って、サプライヤーとバイヤーが争うケースは今後もゼロにはなりません。

しかし、その多くが“曖昧な契約”と“期待のすれ違い”から発生しています。

●契約書の免責条項を現実に即して具体的に修正する
●不可抗力発生時の流れや役割分担を事前合意しておく
●双方で情報・リスクをオープンに議論し、“何ができて何ができないか”を共通理解する

こうした実践的な取り組みが、双方の信頼と生産性の向上につながります。

アナログな文化や昭和的な“なあなあ”に甘えず、現場目線の契約力と対話力で困難を乗り越えていきましょう。

製造業の現場から得た知見が、新たな気付きや実務改善のヒントになれば幸いです。

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