投稿日:2025年9月25日

ベンダー選定を誤り自社業務に合わなかったシステム導入事例

はじめに

製造業界では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せ、システム導入による業務効率の向上やコスト削減が至上命題となっています。
しかし、現場の実態を十分に踏まえず、ベンダー選定や要件定義の段階で誤った判断をすると、せっかくの投資が現場の混乱や生産性低下につながることも少なくありません。
今回は、実際にあったベンダー選定を誤ったことによる自社業務に合わないシステム導入事例をもとに、製造現場ならではの注意点や、本当に必要なベンダー選定の視点について深く掘り下げます。

昭和的アナログ文化とシステム導入のギャップ

多くの製造業は、長年にわたり手書きやExcel台帳による情報管理、紙書類による承認フロー、現場ベテランによる属人的なノウハウ伝承という「昭和的」な慣習が色濃く残っています。
このアナログ文化は現場力や品質対応力の源泉となっている面もありますが、一方で業務全体の見える化の遅れ、既存の業務フローがブラックボックス化しやすいという大きな課題を抱えています。

こうした中で「DX」「システムで一元管理」を標榜し、上層部の号令で業務システムの導入が決定する事例が増えています。
ところが、現場の実態や業務ごとのクセ、アナログ文化が根付いた背景とその価値を充分に理解しないまま、「業界標準」や「パッケージ製品」でシステム導入を進めてしまうことがトラブルの温床となっています。

失敗事例に学ぶ:ベンダー選定ミスで現場が大混乱

1. 要件定義が「現場抜き」で進む

とある中堅製造業では、新しい生産管理システムの導入プロジェクトが発足しました。
会社側は「これからはクラウド型で統一管理」「大手ベンダーの実績があるパッケージなら安心」という思い込みを持ち、調達購買部門と情報システム部門だけでベンダー選定を進めてしまいました。

現場ヒアリングや業務フローの棚卸しは十分に行われず、「今の業務はシステムに合わせてください」というトップダウン型の進め方でした。
結果、現場で日常的に行われていたサプライヤーとの調整、細やかな工程変更や品質トラブルの管理など、「Excelで回していた現場管理」にシステムが全く追従できませんでした。

現場担当者からは、「結局手作業やメール・紙伝票の方が早い」「システム入力に膨大な時間がかかって現場が回らない」という苦情が相次ぎました。
業務フローと実態が合わず、システム入力が形骸化、最終的には現場の反発でシステム利用が定着せず多額の投資が無駄になってしまいました。

2. パッケージ製品の「標準機能」の落とし穴

ある大手製造業の購買部門では、「大手ベンダーが業界No.1」「他社でも成功しています」という営業トークに乗って、パッケージ型の購買システムを導入しました。

導入当初は「標準機能で十分」と思っていたものの、実際に運用を始めると、現場特有の承認フロー(たとえば海外工場との時差調整や緊急時の特別ルート、サプライヤの個別事情)にシステムが対応できませんでした。

カスタマイズを依頼すると、追加費用がかさみ納期も大幅に遅れる結果に。
最終的に現場は、システムとExcelの「二重管理」となり混乱が拡大。
「システムを効率化のために入れたのに業務が余計に煩雑化した」という声が絶えませんでした。

3. ライセンス費用やサポート体制の見落とし

ベンダー選定の際、「初期見積もりだけ安く見せる」事例も多発しています。
ある現場では、安価なSaaS型生産管理ツールを導入したものの、現場ごとの細かいユーザーごとに全員分のライセンス費用が別途発生。
また、保守サポートが基本オンラインのみで、急なトラブル時に日本語対応できるエンジニアがおらず、現場の復旧が遅れるトラブルもありました。

ラテラルシンキングで考える、現場本位のベンダー選定とは

1. 「導入ありき」ではなく「本当に変えたい業務課題」に立ち返る

システム導入・刷新というプロジェクトの場合、どうしても「DXしなければ」「業務効率を上げなければ」という“目的が手段化”してしまいがちです。
ですが、現場目線で改めて考えてみると、何のための業務改革なのか?という原点に立ち返ることが不可欠です。

たとえば、生産ラインの遅れ管理、資材在庫の見える化、購買リードタイム短縮といった具体的な“現場困りごと”に対して、「アナログ時代は何が良かったのか?」を洗い出しつつ、「デジタル化によりどこなら一気に体験価値を上げられるか」を明確にすることが、ベンダー選定の第一歩となります。

2. 「現場巻き込み型ワークショップ」とベンダー見極め

成功しているベンダー選定の共通点は、現場最前線の担当者を早期から巻き込んでいる点です。
調達担当・生産管理担当・品質保証・メンテナンス現場など多ジャンルの「日常業務ユーザー」と一緒に、“手作業でやっていた本当に重要なポイント” “システム化してはいけない現場の創意工夫”まで洗い出します。

こうした現場ヒアリングやワークショップの場に、複数のベンダーを実際に呼び、目線を合わせてもらうことで、「表面上の標準機能」「安価に見せるカタログスペック」だけでなく、「現場の困りごとにどこまで寄り添えるか」を見極めることができます。

3. 「昭和〜令和」業務が入り交じるフローを柔軟に咀嚼できるか

日本の製造現場は、最先端IoTと紙伝票、熟練オペレーターのひらめきが共存しているのが特長です。
「アナログゼロ」や「完全ペーパーレス」では回らない現場も多く、システムにすべてを合わせてしまうのではなく、「残すアナログ」と「デジタルでしかできない部分」を明確に切り分けることが現実解です。

また、ベンダー自身が製造現場のリアルな工程にどれだけ精通し、現場ワーカーの立場でものごとを捉えられるか、ITありきでなくシーンごとに最適解を提案できるかが重要です。

失敗しないためのベンダー選定チェックリスト

1. 要件定義段階から現場担当者を必ず巻き込んでいるか
2. 現行業務フローの強みと弱みを正直に洗い出せているか
3. 業界標準やパッケージ適用時の「カスタマイズ」の範囲と費用を理解しているか
4. 現場ヒアリングで、ベンダーが現場言語で対話できるか、単なるカタログトークではないか
5. システム導入後のサポート体制(日本語対応・現場出張対応など)の実態も確認しているか
6. アナログ/デジタル両立業務に柔軟に対応できる設計思想があるか
7. システム導入にともない現場教育やマニュアル/伴走支援プランがあるか

特に調達購買、生産管理、品質部門など、日々変化にさらされる現場部門ほど、「現場シーンごとの課題」を深堀りし、ベンダー側の提案力と実行力を多角的に評価することが、ミスマッチ防止につながります。

バイヤーの立場・サプライヤーの視点の双方に立った考え方

調達購買担当(バイヤー)やサプライヤーの担当にとっても、ベンダー選定失敗事例は対岸の火事ではありません。
バイヤーは「コストだけでなく、現場価値や業務定着性」も重視しなければなりませんし、サプライヤーも顧客側の業務プロセスやベンダー選定の背景を知っておくことで、自社が納入する際のリスクや最適な提案の仕方を磨くことができます。

これからの時代、「現場に真に寄り添ったDX」「アナログの強みとデジタルの進化を両立」が、両者の信頼関係を構築し製造業の競争力を高めていくポイントとなるでしょう。

まとめ

システム導入は、社内DX推進の目玉である一方、「現場との乖離」「昭和的アナログ文化との摩擦」という落とし穴も多く潜んでいます。
ベンダー選定や業務改革は、現場の生の声・現場起点での“使い勝手”を最大限に評価軸としながら、本当に必要な部分だけに集中投資する視点が不可欠です。

日本の製造業は、現場力と変化対応力にこそ強みがあります。
「パッケージ化」や「ラベル」で片付けるのでなく、現場目線・ラテラルシンキングによる“地に足のついた”ベンダー選定こそ、昭和の遺産を活かしつつ令和時代に飛躍するカギとなるのです。

これからバイヤーを目指す方も、サプライヤとしてバイヤーの意図を洞察したい方も、本記事で紹介した失敗事例や実践的な視点をぜひご自身の現場改善・提案活動に活かしてください。

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