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海外顧客との契約で準拠法を曖昧にした結果生じた訴訟リスク事例

目次
はじめに:グローバル製造業と準拠法の重要性
グローバル化が進む現代の製造業では、国内取引だけでなく、海外顧客との契約が当たり前のように日常業務に組み込まれています。
その中で「この契約、どこの法律に従うのか」という”準拠法”の設定は、決して形式的な条項ではなく、契約の根幹をなす極めて重要なポイントです。
昭和時代から長らく日本の商習慣に浸かってきた工場や中小企業にとって、海外との契約では「とりあえず相手の言う通り」になってしまうケースもいまだ多くあります。
しかし、安易な対応の代償は小さくありません。
ここでは、私が製造業の現場で目撃・体験してきた、準拠法を曖昧にしたことによる訴訟リスクやその実例、業界動向を交えながら、現場目線で分かりやすく解説していきます。
準拠法と管轄裁判所:基礎知識をおさらい
そもそも準拠法とは何か
契約書に記載される「準拠法(Governing Law)」とは、契約の成立や解釈、履行、違反時の対応方法をどの国・地域の法律に基づいて判断するかを定めるものです。
日本で製造した部品を欧州や米国、アジアの顧客に納品する際、顧客側から「契約準拠法は自国のものに」と求められることが少なくありません。
一方、管轄裁判所(Jurisdiction)は、何か問題が起きた際、どこの裁判所で争いを解決するか、というルールです。
この2つをセットでしっかり押さえておく必要があります。
契約書に準拠法・管轄裁判所を記載しないとどうなるか
商談現場で「準拠法はどちらも同意できないので、ひとまず記載しなくて良いですか?」という不安も聞かれます。
しかし、未記載の場合、実際に紛争が起きた時「どこの法律で争うのか」で双方が激しく主張し合い、膨大なコスト・時間を費やす羽目になるリスクが増します。
特に欧米メーカーや巨大サプライヤー相手だと、英文契約書で”何となく”“とりあえず”サインしてしまいがちですが、安易な判断は現場の地雷です。
実例で解説:準拠法曖昧=訴訟リスク拡大の罠
事例1:「グローバル顧客の求めで契約書未記載」トラブル
中堅部品メーカーが、米国自動車OEM向けに部品を輸出していた事例です。
契約段階で「アメリカ側リーガルとも交渉が難航している」「今回は契約書に準拠法・管轄を書かなくても現実的な問題は出ません」と言いくるめられてしまいました。
その後、不良率を巡って大規模なリコールが発生。
米国側は自国の法律を盾に巨額の損害賠償を請求、日本側は自国内の解釈で反論。
しかし、準拠法未記載のまま国際仲裁に突入し、膨大な弁護士費用と数年単位の係争、先に資金難に陥った日本メーカーが極めて不利な立場に追い込まれた例です。
事例2:「安易な妥協が業界標準リスクを生む」
産業機械の制御装置メーカーでの実話です。
顧客が”中国の企業”だったため「中国側に配慮しておいた方がビジネスに支障がない」と、準拠法:中国法・管轄:中国裁判所で合意。
そのまま納品業務を進めましたが、後日スペック(購買仕様)未達を巡って訴訟に。
中国の裁判所は外国企業に不利な判決が多く、現地に詳しい日本人弁護士も見つからず、結局大幅な減額と「顧客要求をすべてのむ」合意で手打ちとなりました。
このケースがメーカー間のクチコミで拡がることで”日本メーカーは中国準拠法で妥協する”という誤った業界標準が出来かねない、という現場の危機感もあります。
ラテラルシンキングで考える契約リスクの新たな地平線
昭和的精神論や根回し文化では対応できない現実
これまでの多くの製造業では「人と人の信頼」「現地の顔の利き」「雰囲気で決める」といった昭和的な商習慣が強く残ってきました。
しかし、グローバル経済下では相手は必ずしも”信用できる”とは限りません。
多国籍企業のリーガル部門や弁護士はターゲットを最大限”自社有利”なポジションに持ち込むべく動きます。
根回しや雰囲気で結ばれる契約は、リスク管理の観点で最も危うい対応です。
「準拠法交渉」を業務プロセスに組込む意義
営業や購買、サプライチェーン部門では、契約交渉=価格や納期だけと考えがちです。
ですが、現場の実務として”契約書のレビューポイント”に必ず「準拠法」「管轄裁判所」の項目を入れること。
さらに「なぜこの準拠法が必要か」「どんなリスクがあるか」を現場担当もきちんと議論に加わる仕組みを作ること。
これが、安定したサプライチェーンと長期的な取引関係を築く強力な武器になります。
ラテラルシンキングで「第三国案」も積極的に検討する
日本法vs相手国法で合意できない場合、最近では”中立国の法律”(例:シンガポール法、イギリス法など)を準拠法とし、国際仲裁機関(例:シンガポール国際仲裁センター”等)で解決する方法も注目されています。
両者にとって一定のフェアネスを担保できる方法です。
このような新しい発想も現場に紹介することが、次世代の製造業経営には不可欠です。
これからの製造業現場が取り組むべきアクション
契約担当・現場責任者も「法律リテラシー」を身につける
法務部門任せ・外部弁護士頼みだけでは、商談現場の流れについていけません。
最前線のバイヤー、調達購買、工場長、中堅マネージャーこそ、契約書の基本ルール・リスクポイントを理解する素養が必要です。
現場研修や社内勉強会などで「準拠法・管轄が曖昧だとどんな不利益が起きるか」を実例ベースで学ぶこと。
現場力が、グローバル競争における真のリスク耐性となります。
「相手が強い」「うちは小さい」こそ標準化・ガイドラインの構築を
圧倒的な資本力や交渉力があるグローバル顧客を前にすると、つい妥協しがちな日本の中小・中堅メーカー。
しかし、現場レベルでも「これだけは譲れない」というガイドライン(例:日本法以外を認める場合は要役員承認、など)を用意し、例外対応を標準化しておくこと。
また、自社だけでなくサプライヤーやパートナーにも「契約交渉における法的リスク」の指南をすることで、産業全体の底上げにつながります。
まとめ:現場目線×ラテラルな発想で訴訟リスクを回避しよう
製造業におけるグローバル展開は、チャンスと同時に巨大なリスクも孕んでいます。
準拠法や管轄裁判所の設定を曖昧にすることは、「予期せぬ巨額訴訟」という”見えない地雷”を仕込むのと同義。
今こそ、現場視点で・ラテラルな思考で、新しい業務プロセスや教育、交渉手法を定着させることが求められます。
契約のリスクとどう向き合い、どう最小化して自社の持続可能な成長とパートナー関係構築に役立てるか——。
それがこれからの製造現場リーダー・バイヤー・サプライヤーに求められる最重要スキルなのです。
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