投稿日:2025年9月5日

品質保証条件が曖昧で顧客から過大請求された事例と改善策

はじめに:曖昧な品質保証条件がもたらす問題とは

製造業の現場では、「品質保証条件」が曖昧なままで商談や契約が進行することが少なくありません。
なぜなら、長年の“御用聞き文化”や業界特有の阿吽の呼吸がまだ根強く残っているからです。

しかし、昭和の慣習が色濃く残るアナログな業界風土こそ、今こそアップデートが求められています。
曖昧な品質保証条件のせいで顧客から不当な“過大請求”を受け、現場が疲弊する事例は決して他人事ではありません。

本記事では、私が現場マネジメントや品質保証の責任者として経験した失敗や気づきを交え、曖昧な品質保証条件による過大請求の実例と、そこから導き出した現実的な改善策を、現場目線で詳しくご紹介します。

品質保証条件が曖昧なまま契約した事例:どこから“過大”なのか

よくある原因:品質基準の認識ズレ

ある自動車部品メーカーで、量産切り替え直後のお話です。
顧客(完成車メーカー側)は「過去と同じレベルのキズやバリも全部NG」と認識しており、当社は「工程範囲内では許容される細かな外観不良」と認識していました。

ここでの落とし穴は、「品質保証条件」がメールや議事録で十分に明文化されていなかったこと。
結果、納品後に顧客の検査部門から「基準不適合品」と判定され、全量返品+多額の追加検査費用を請求されました。

この時、現場は「そこまで厳密に要求されるとは…」と唖然。
営業担当は「従来どおりで問題ないと思っていた」と認識ギャップにショックを受けました。

なぜ曖昧な品質保証条件が起こるのか

日本の製造業取引は、阿吽の呼吸や口頭伝達に依存する文化が根強く、
議事録や仕様書に「基準値」や「判定方法」、さらには「その時点での合意内容」が明記されていないことがよくあります。

それに、「顧客の期待値>納入側の品質保証範囲」というズレが現場では頻繁に生じます。
もし曖昧なまま量産を始めてしまうと、万が一NG品が見つかった場合、顧客サイドは「最初から分かっていたミスだから供給責任はすべて君たち」と言って過大な再検査や損害賠償を請求してくる場合も。

“請求されすぎた”実際のコスト負担

実際に経験したケースだと、数千点もの製品が一度の判定で全返品。
追加検査費用だけで数百万円単位、代替品の緊急生産にかかった費用はその数倍。
さらにはサプライチェーン全体が巻き込まれ、他部品メーカーへの迷惑料的な金銭負担さえも発生しました。

しかも、「なぜここまでの請求を飲まなければいけないのか」が社内的にもクリアにならず、それ以上交渉できませんでした。
結局、標準化されていない品質保証条件、現場で一貫したルールが存在していなかったことが原因です。

その時、現場とマネジメントはどう動いたか

泥縄式対応の危険性

最初は「品物を作り直せば済む話だ」と楽観的な見方がありました。
しかし、顧客の怒りが収まらず、追加で根本原因の調査報告書や、再発防止策の提出まで求められ、最終的には本社役員同士の謝罪会議にまで発展。

“まず現物対応、後で書類で説明”という日本型企業の典型的な対応は、場当たり的な“火消し”に終始し、長期的な信頼関係やコスト競争力を逆に損なうことになりました。

現場目線で見えた課題

・工程検査の基準が“ベテラン職人の肌感覚”に依存していたこと
・書類は存在するものの、実際のサンプルと合致していなかったこと
・「この程度なら大丈夫」という思い込み
・そもそも顧客とのコミュニケーション不足

こういった曖昧さが、顧客側の「全責任はサプライヤー側」という論理を許してしまい、過大請求を受ける温床となっていました。

現実的な改善策:現場主導の“見える化”とコミュニケーション強化

1. 「現物サンプル」で明文化された品質基準を必ず作る

工程で“見て覚える”職人技は大切ですが、品質保証条件となると必ず
・“外観合格品サンプル”
・“不合格サンプル”
・“作業動画”
をやりとりし、顧客・サプライヤーの双方同意のもとで明文化します。

有効なのは、サイン済みの品質協定書や検査基準書に「現物サンプルNo.○○」を紐付けて残すこと。
曖昧な言葉より現物・画像・動画による合意が、トラブル回避のカギです。

2. 品質条件交渉の「議事録」をルール化

顧客とのやりとりは全てメールかオンラインミーティングで行い、条件変更や追加要求が発生したら必ず「議事録」を共有し合意形成を取ります。

些細な部分でも都度議事録を挟むことで「言った言わない問題」を確実に減らせます。

3. 工程内検査と出荷検査の二重化と“見える化”

現場のQC工程表や検査リストを、標準化したフォーマットに統一。
“肌感覚”や“ベテランの経験”に頼りすぎず、誰が見ても“合格”と判断できるよう、検査成績書に写真付きで記録。

こうすることで、異常が出たときの“ブラックボックス化”を防ぎ、万が一のときにも「うちはここまでガイドライン通りやっていた」と堂々と交渉できる証拠にもなります。

4. コミュニケーションの“二段階認証”を徹底

現場・営業だけでなく、品質保証部門や管理者レイヤーも巻き込む。
顧客からの品質要求が変わった場合、必ず「Wチェック」体制で内容精査とフィードバックを実施します。

このダブルチェック体制によって、現場が「知らなかった」「聞いていない」となる事態を防止します。

5. サプライヤー側でも“交渉力”を持つ意識を

「顧客(バイヤー)が絶対」と考えず、「どうしたら双方Win-Winの関係になれるか」という視点で提案・条件交渉を積極的に行いましょう。

“下請け”意識が強い業界こそ、細かい品質保証条件や支払条件を自社の立場でも主張できるよう、人材教育と情報共有を進めておくべきです。

昭和・アナログ業界の現実:アップデートへの壁をどう壊すか

“昭和モデル”の現場は今も“挨拶回りと根回し”“座敷会議”が主流です。
しかし、これからの製造業で生き残るには
・人手不足・高齢化による「属人化リスク」
・世代交代による「スキル伝承の断絶」
・取引先のグローバル化による「品質要求の多様化」
など、アップデートが不可欠です。

理想と現実の間にあるギャップに悩みつつも、一歩ずつデジタル化(例:電子サイン付き品質文書、工程データのクラウド共有、AIを使った検査自動化など)を進める企業も増えています。
本質的には「情報の見える化」と「合意形成の仕組み化」こそが、時代に振り落とされない最強の武器になるのです。

まとめ:社内外に“品質保証の言語”を持とう

曖昧な品質保証条件は、想像以上に大きなリスクをもたらします。
それは単なる“現場のミス”ではなく、経営全体の信頼・利益・人材確保にもダメージとなります。

現場は「昔ながら」のやり方を否定しきれない一方で、その枠組みのままでは発展も生産性向上もありません。
サプライヤーであれバイヤーであれ、品質保証条件を“自分たちの言葉”に翻訳し、取引先・現場両者に伝わる工夫が求められます。

現場目線の改善策は、今後ますます複雑化・国際化する製造業界で、不毛な過大請求から自分たちを守る強い盾となるはずです。
「ものづくり」に関わる全ての人々が、品質保証のアップデートに今から着手し、明文化・合意形成・“見える化”を武器に進化していきましょう。

You cannot copy content of this page