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製品保証範囲が不明確なまま輸出しリコール対応に発展した事例

目次
はじめに:製品保証の曖昧さが招くリスクとは
製造業のグローバル化が進み、海外市場への進出は避けて通れない時代です。
しかし、海外に製品を輸出する際、見落とされがちなのが「製品保証範囲の明確化」です。
日本国内での慣習や曖昧な社内手順で対応してきた現場も、「とりあえず出荷」では済まされません。
ここでは、実際に製品保証範囲が明確でないまま輸出し、最終的に大規模なリコール対応に発展した事例をご紹介します。
同じ轍を踏まないために、現場目線で押さえておきたいポイントも詳しく解説します。
事例紹介:保証範囲の認識ギャップが引き起こしたリコール
背景:アナログな調達・品質管理の限界
ある日本の中堅製造業A社は、長年にわたり国内市場向けに部品を供給してきました。
国内では「曖昧な保証範囲」や「暗黙の了解」のもとに、お客様との信頼関係を構築してきました。
昭和から続くアナログ管理が根強く残っており、製品保証に関する書面も「ざっくり」で済ませることが多かったのです。
新規に参入した欧州市場で、同様の認識のまま現地の大手メーカーに部品を輸出しました。
その際、契約書の和文案を英訳しただけで終わりにし、 製品保証条件の詳細な擦り合わせ、現地法規制への確認は十分ではありませんでした。
トラブル発生:異なる保証認識・環境条件の差
現地ユーザーの使用環境は、日本と大きく異なっていました。
とくにEU圏では極端な温度変化や強い紫外線、高湿度環境での使用も多く、A社の部品の一部が数ヶ月で不具合を起こしました。
現地メーカーから「全量無償交換と損害保証」を強く要求され、A社は当初「そこまでは保証できない」と主張しました。
ところが現地契約書には、「通常使用範囲での性能保証(Standard conditions)」の文言が曖昧なまま記載されており、現地の法律では消費者保護が強いことから最終的にA社側の責任となりました。
リコールの連鎖:管理コスト・信頼失墜の代償
A社は、現地で販売されたすべての製品にリコール通知を出し、自社および顧客工場への出張サポート、現地在庫品の一斉回収、物流・入替えの人件費など、多大なコストを負担しました。
また、現地販路の信頼も一時的に大きく毀損し、競合他社への取引移行が相次ぎました。
販売価格に対してリコール損失は約20%にも及び、バイヤー(調達担当)は「品質重視・契約重視」を前面に出す欧州ならではの対応に苦しめられました。
現場目線で読み解く要因分析
1. 契約書・仕様書の曖昧な部分が命取り
製品保証範囲が明記されていなかったことで、顧客側と納入側の「想定」が食い違ってしまいました。
とくに日本企業に多い、“阿吽の呼吸”は海外では通用しません。
現場ではつい「前例踏襲」「これまで大丈夫だった」の発想になりがちですが、相手国の商習慣や法的要求、消費者保護法まで含めたリスクヘッジが不可欠です。
2. アナログ管理・属人化による情報の分断
A社では、調達部門・開発設計・品質保証部門の連携が十分ではありませんでした。
紙の帳票や口頭伝達のままで、情報の部門間共有が遅れたこともトラブル拡大の一因です。
例えば、新しい市場ごとに「品質保証条件チェックリスト」や「契約内容照合シート」をデジタルで共有する仕組みがあれば、リスクの早期発見・部門横断の対応が取れたはずです。
3. サプライヤーとバイヤーの立場の違いを意識した交渉不足
バイヤー(顧客調達担当者)は、いざとなれば自社の法務部・品質管理部を後ろ盾にしてリスク回避を徹底します。
一方、サプライヤー側(A社)は「この取引を失いたくない」という意識から、相手の要求に呑まれてしまいがちです。
サプライヤー視点でも、「どこまで対応できるか、何が保証外なのか」を早い段階で説明し、交渉文書に明記していく勇気が必要です。
リコール経験から得た教訓:バイヤー・サプライヤー双方が気をつけたいポイント
保証範囲の明文化・擦り合わせの徹底
輸出前に、保証の適用範囲、免責事項、保証期間、適用外となる使用条件、現地法への適合チェックなどを具体的に明示することが大切です。
曖昧な文章・日本語的表現も海外では誤解の元なので、プロのリーガルチェックや現地語への適切な翻訳も不可欠です。
現場レベルから管理職層まで横断したリスク管理体制の構築
アナログな部門間の壁は、デジタルプラットフォームやワークフローシステムの導入で乗り越えられます。
現場担当者が「この内容で大丈夫か?」と疑問を持った際に、すぐに管理職や法務部門と情報共有し、問題点をすり合わせる社内文化を醸成しましょう。
サプライヤーだからこそ強気に交渉する姿勢が必要
バイヤーの「できる限り広い保証を要求する」意識は、むしろビジネスリスクを増大させます。
サプライヤーは、どこまで対応できるか/できないかを技術・コスト・現場目線で根拠立てて説明し、リスクをシェアする意識を持ちましょう。
そのためにも、「現地カスタマーと自社の継続的な対話」を多層的に持つことが肝要です。
製造業が今後直面する保証・品質リスクの新潮流
グローバル規制強化、リコールの社会的影響増大
昨今は、世界的な製品安全監督庁の設置、環境規制の強化、SNS拡散による欠陥情報の瞬時拡大など、一度リコールが発生すると「一企業の問題」では済まされません。
保証の異文化リスクを今こそ再認識し、「昭和流からの脱却」が問われています。
デジタル活用と新しい品質保証体制の構築
業界の中にはAI・IoTを活用したトレーサビリティや品質監査、ERP・PLM(製品ライフサイクル管理)によるグローバル一元管理を導入し始めた企業も出てきています。
紙とFAXに頼ったアナログ業務から一歩踏み出し、自社にとって最適な「保証・品質管理のDX」を進めましょう。
まとめ:昭和の慣習から脱却し、グローバル基準の保証へ
製品保証範囲が曖昧なまま輸出し、リコールに発展したA社の事例は、製造業における保証や品質の考え方そのものを見直す契機となりました。
今後は「明文化・デジタル化・部門横断的な協働」が不可欠です。
バイヤーを目指す方は、「自社とサプライヤーの立場とリスク」を冷静に比較しながら、グローバル基準・現地法を学び続けること。
サプライヤー側は、「保証や免責の交渉力アップ」と「自社での保証範囲明確化体制構築」が重要なキーポイントです。
過去のアナログ慣習にとらわれず、新たな挑戦者として一歩前に踏み出す皆様へ、この記事が未来へのヒントとなれば幸いです。
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