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輸入通関で規制品と判断され差戻しとなった事例と契約条文の工夫

目次
はじめに:輸入通関における規制品のリスクと現場のリアル
製造業のグローバル化が進む現代、調達購買の現場では海外からの部品・原材料の輸入は当たり前になりました。
そんな中で避けて通れないのが「輸入通関」の壁です。
とくに規制品に該当した場合、たとえ工場で使うごく普通の部材や工具が、現場の常識とは裏腹に「輸入不可→返送」となる事例が後を絶ちません。
この記事では、私自身も何度も経験してきた「規制品による差戻し」の具体的事例と、アナログな業界体質でも知っておきたい契約条文の工夫について、現場目線で解説します。
調達担当者、バイヤー志望の方、またはサプライヤーの方も、それぞれの立場でなぜこんなトラブルが起きるのか、未然に防ぐためにはどう準備すればいいのか、是非参考にしてください。
なぜ“規制品”と判断されるのか?業界のアナログな落とし穴
「同じような物を去年も普通に輸入できたのに、なぜ今回は通関で止まるんだ?」——これは現場あるあるの一つです。
日本の輸入通関は書類ベースかつ、細かな規則に基づいて運用されています。
主な差し戻し理由は以下の4つです。
- 法規制(関税法、化学物質規制、輸出入貿易管理令、外為法など)
- 製品仕様・型番が変更され審査基準に合わなくなっていた
- 仕向国独自の前例主義や“空気”による水際規制
- インボイスやパッケージ表示の不備・誤記載
特に古い体質の業界では「昨年度と同じで」という曖昧な運用がまかり通っています。
しかし、通関では「完全一致でなければNG」というデジタルな判断をされるケースが多く、少しでも誤差があれば容赦なく差し戻されてしまいます。
【実例紹介1】真空ポンプの差戻し事例と対策
現場の混乱:型式番号の1ケタ違いが招いた通関トラブル
ある年、工場の生産設備更新に伴い海外製真空ポンプを輸入したところ、型式番号の1桁が旧モデルと異なり、化学物質の規制対象品であるか否かの判定が一変しました。
明らかに同じ設計思想の製品でしたが、通関担当者は「新型番の文言からは該当しない保証ができない」として、追加で成分証明書や安全データシート(SDS)の提出を要求。
最終的にはメーカーから直接証明書類を取り寄せ、再審査を受けたものの、納期は1カ月遅延し、結果的に工場の立上げ計画自体がずれ込んでしまいました。
教訓:製品仕様・型番に依存しすぎない
「前と同じもの」と思い込みで手続きを進めてしまうと、通関の現場では非常にリスクが高いです。
特に海外メーカーは頻繁に品名や仕様をマイナーチェンジします。
インボイス(請求書)、パッキングリスト、製品マニュアルなど、すべての書類で型番・仕様が一致しているか逐一確認しましょう。
また、輸入手続の時点で「型番が違っても本質的に同一機能・無害である」ことを証明できるよう、事前に証明書類を準備することが、現場の大きな助けとなります。
【実例紹介2】化学薬品の規制強化による“突然の返送”
埋もれた細則:毎年変わる規制リスト、現場の慢心が招いた損失
製造現場で使う潤滑油や洗浄剤などは、多くが化学品規制の対象です。
ある年、経済連携協定(EPA)のタイミングで、ある洗浄剤の成分の一部が新たに「化審法規制品」として指定されました。
これを見逃していた担当者は、従来通りの仕入先から従来通りの手順で輸入を進めてしまいました。
ところが、輸入港で違反が発覚し、全部返品。
当たり前に使っていた資材でも、規制リストの改訂・通告に現場が追従できておらず「慣例主義」が裏目に出てしまった典型例です。
対策:年次での法規制チェック体制が必須
アナログな業界文化では、こうした「慣例対応」が特に多いのですが、化学物質規制は世界的にも厳格化の流れです。
仕入品リストを毎年点検し、法規制担当部門、または専門商社の協力を得て定期的にアップデートする癖をつけましょう。
「過去の実績」よりも「最新情報」を重視する意識が、リスクの低減につながります。
【実例紹介3】作業工具の“不正用途”認定による差戻し
書類の曖昧さと申告ミスが致命傷に
あるバイヤーが手配した電動工具(グラインダー)は、本来工場メンテナンス用途でした。
ところが、インボイスの製品説明欄に“UNIVERSAL GRINDER, MULTI PURPOSE TOOL”と記載したところ、「不正改造や武器等に転用可能な工具では?」と税関で疑義が生じました。
外為法(キャッチオール規制)との兼ね合いで、製品詳細証明や用途・最終仕向地の証明、エンドユーザー証明(EUC)などの追加書類提出が求められ、返却費用と再審査の手間で大損害となりました。
教訓:インボイス記載内容は“現場目線×リスク目線”で
輸入手続に馴れていない現場バイヤーほど、インボイスや商品説明を簡略化しすぎる傾向があります。
「記載通りにしか判断されない」という点を踏まえ、「何に使う道具か」「工業用目的であり、それ以外の用途では使わない」旨を明記しましょう。
また、サプライヤー側もバイヤーの事情や日本独自の通関リスクを知っておくことで、より安全な書類作成ができます。
契約条文の工夫:規制品リスクに備えるポイント
1. インコタームズ(貿易条件)の明記と責任分担
大手企業の調達契約では多くがFOB(本船渡し)、CIF(運賃保険料込)などの貿易取引を採用しています。
しかし日本独自の細かい通関規制が予見される場合、「通関不許可時の費用負担」「返却条件」「代替品調達の責任分担」について明文化しておくことが肝心です。
たとえば、「輸入規制等による差止め時は、サプライヤーの費用負担で返送または廃棄する」と合意しておけば、バイヤー側の損失リスクが限定できます。
2. 製品仕様書・成分証明の義務付け
契約時に「化学物質一覧表」「SDS(安全データシート)」の提出を必ず義務づけ、型式変更や成分変更時にはサプライヤー側から速やかに開示する条項を盛り込むことが重要です。
書面だけでなく、双方の担当者レベルで定期的な確認会議の機会を設けましょう。
3. 法規制改定時の対応条項
輸入禁止・規制強化など、法改定で調達困難となった場合に備えて「互いに協議のうえ最善の解決策を取る」条項(いわゆるフォース・マジュールの拡大解釈)を盛り込む法人も増えています。
現場発想としては、「問題発生=自己責任」ではなく、「お互い情報提供し合い、持続可能なサプライチェーンを目指す姿勢」がますます求められます。
まとめ:現場主義と情報アップデートの両輪で乗り越える
差戻しや規制品トラブルは、決して「特別な人」だけが遭遇するものではありません。
製造業の現場で日々生じている、“昭和”由来の慣例主義や「前例踏襲」の隙間で、今なお多くの企業が損失を被っています。
これを防ぐコツは、
- 書類=「現場視点」と「リスク視点」両方で作成・チェック
- 最新法規制のニュースを継続的にウォッチする
- 契約条文で予見できる範囲のリスクヘッジを怠らない
- バイヤーとサプライヤー双方が“相手目線”を持つ
ことです。
今後もIoTやAI導入が進みデジタル化の時代になっても、こうしたアナログ課題と地道な工夫こそが、日本の現場力を支える土台となります。
皆さんも、自部門の現状をぜひ再点検し、一歩先行く調達・輸入管理を目指してください。
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