投稿日:2025年9月7日

納期遅延の責任所在を巡り顧客と取引停止に至った事例と再発防止法

はじめに:なぜ納期遅延は起きるのか、そして取引停止にまで発展するのか

製造業に従事する方なら誰しも「納期厳守」の難しさと責任の重大さを痛感しているはずです。

取引先との信頼関係は、ほんの些細な納期遅延をきっかけに大きく揺らぎ、ときに取引停止という深刻な事態に発展することも珍しくありません。

この記事では、私が実際に現場で経験した「納期遅延の責任所在を巡って取引停止に至った事例」と、その根本にある構造的な課題について掘り下げます。

また、昭和時代から続くアナログな慣習に翻弄されながらも抜本的に改革するための再発防止法も、現場目線で丁寧に解説します。

事例紹介:顧客から突然の取引停止通告――その背景にあったもの

発端は「納期遅延」だが、根本要因は複雑だった

ある中堅自動車部品メーカーでの事例です。

A社(顧客)とB社(自社)の関係は、10年以上の取引実績があり、表面上は良好なものでした。

しかしある年、複数回にわたり部品の納期遅延が発生。

その度に謝罪と原因報告、再発防止策を提示しましたが、4度目の遅延の際、A社から「これ以上は信用できない。今後の発注は停止する」と通告されてしまいました。

表向きの理由は「繰り返される納期遅延」ですが、現場を深く掘り下げていくと、単なるスケジュールの問題ではなく、情報伝達や組織体制・アナログ業務の弊害といった本質的な「昭和的体質」が根底にあったのです。

属人化と紙文化がもたらした見落とし

B社では、受注から調達、生産計画、出荷管理に至るまで、多くのプロセスが紙の伝票と経験者の「勘」に頼っていました。

各部署の担当者が記憶や手帳、口頭伝達で情報管理をしており、調達リーダーが1週間休んだだけで、隠れた納期リスクが顕在化しませんでした。

また、サプライヤーC社への部品発注忘れを誰も気付かず、結果的に工程の遅れを招いたのです。

このように、表面上「納期遅延」でも、その背後ではアナログ業務×属人化の罠が大きな事故を招きます。

責任所在を巡る不信――顧客の立場と供給者の立場のギャップ

A社としては「B社がきちんと管理さえしていれば起きない遅延」と見なしていました。

一方B社側では「予期せぬ人員交代や仕入先のトラブルだからやむを得ない」と捉えていました。

この「責任所在」の認識ギャップが、決定的な不信感を生み出し、A社はB社とのサプライチェーン維持にメリットを感じなくなった——これが取引停止という結末です。

納期遅延の責任はどこに帰属するのか?業界に蔓延する“あいまいさ”

契約上の明確化不足と“暗黙の了解”の危険

日本の製造業は「信頼」「経験」「人間関係」を重視する文化が強く、納期遅延に関する責任の所在が契約上あいまいなケースが少なくありません。

特に中小企業同士では「何か起きれば融通する」のが常識とされ、トラブル時に初めて問題が”表面化”します。

この“昭和型商慣習”が、デジタル時代に通用しなくなっているのです。

バイヤーとサプライヤーの温度差を知ろう

バイヤー側は、数百・数千点もの部品管理と生産計画に追われ、ひとつの遅延が全体の生産ラインを止めてしまうリスクに常に晒されています。

サプライヤー側が「これくらい大丈夫」と思っていても、バイヤーは「遅れ=業績に直結」と認識しています。

この立場の違いに気付かず、旧来の“なあなあ”で対応してしまうと、信頼損失は取り返しが付きません。

アナログな業界体質が生むトラブルの“あるある”

FAXと電話、エクセル手打ち……情報不整合の温床

現在でも多くの現場で「FAX受注」「手書き伝票」「エクセル手打ち台帳」が使われています。

これらは人に依存する部分が多いため、ヒューマンエラー、情報伝達ミスが起きやすいです。

例えば「FAXの受信紙が裏返っていて誰も気付かなかった」「手書き数字を読み違えた」「エクセルのファイルが上書き保存されて消えた」など、アナログによる事故は意外なほど多く、発覚した時には納期がすでに過ぎていることも少なくありません。

上司や現場リーダーの“経験”頼みのワナ

昭和型の工場運営では、経験者やベテランが仕組みの“穴”を勘や裏技でカバーしていました。

しかし人の異動や世代交代、コロナ禍のように突然人手が大きく減る事態では、一気に属人化リスクが表面化します。

ルールが明文化されていない、マニュアルが手元になくて対応ができなかった、などの“抜け”が納期遅延に波及します。

再発防止策:現場で実践できる納期管理のデジタル改革とコミュニケーションの刷新

Step1:全プロセスの「見える化」とデジタル管理への転換

サプライチェーン全体の情報をオープンに「見える化」できているかが最大のポイントです。

1. 受発注から出荷までを一気通貫で連携する生産管理システム(ERP/MES)への移行を検討しましょう。
2. サプライヤーからの納期回答や工程状況もシステムで自動共有化します。
3. 紙伝票やエクセル台帳、FAXは極力廃止し、クラウドベースのツール(GoogleスプレッドシートやTeams等も有効)へ移行することで冗長なアナログ業務を減らせます。

こうしたデジタル化は初期コストもかかりますし、前例主義の抵抗勢力もいます。

しかし「どこで情報が止まっているか」が瞬時に分かる仕組みを整えることで、属人化由来のミスを9割削減できた現場実績もあります。

Step2:部門横断で責任所在を明確化、ロジックでトラブルを潰す

納期遅延時、“どのプロセスの、誰のアクションで遅延が発生したか”を明確にできれば、「責任のなすりつけ合い」になりません。

工程ごとに
・誰が
・何を
・いつ
行ったか/行わなかったか
をチェックリストや業務ログに記録し、部門横断(営業・購買・生産管理・物流)で振り返りをする仕組みを定例化しましょう。

また、遅延発生時は
・顧客への第一報(遅延早期連絡)
・最悪の場合のバックアッププラン
を即座に判断できる「現場対応マニュアル」を整備することを推奨します。

Step3:バイヤー視点を理解するコミュニケーション刷新

サプライヤー視点では「仕方がない」で済ませがちですが、バイヤーは
「なぜ、どこで、どうして」
をとことん知りたがります。

・遅延の可能性が生じたら“即座に”報告する
・バイヤー担当者がサプライチェーン全体のリスクを把握できる情報をセットにして伝える
・「担当者しか知りません」ではなく、会社として情報開示する

こうした姿勢が、バイヤーが信頼し続けてくれる条件になります。

「言い訳せず、事実をデータで端的に」「再発防止策も一緒に提示」できるかがポイントです。

令和の製造業で「脱・昭和」するための新たな取り組みとは

部門融合と現場リーダーの「ラテラルシンキング」強化

工程全体でトラブルを未然に察知するためには、「部門融合」(サイロ化脱却)と「ラテラルシンキング」(横断的・複数視点で考える力)が必要です。

調達現場が生産計画/営業と連携し、変化に応じてフレキシブルに体制を組み替える。

現場リーダーには自分の持ち場だけでなく「全体最適」の視点が求められます。

AIやIoTといった最新技術も、この思想の下でツールとして有効活用すれば人為的ミスの抑止と工程の可視化が進みます。

プロのバイヤー思考で“言い訳される側”から“信頼される側”へ

顧客志向のバイヤーは、リスクを早期発見・共有して解決する“パートナー”を重視します。

サプライヤーも「自分ならバイヤーになって何をされたいか?」を突き詰めて考えましょう。

・工程の異常や懸念事項はバイヤーと即シェア
・責任を曖昧にしない体制づくり
・“人”のミスもカバーできる標準化+自動化

こうしたマインドチェンジが、最終的に“選ばれるサプライヤー”への道となります。

まとめ:納期遅延トラブルからの脱却は、業界全体の変革チャンス

納期遅延という現場のトラブルは、単なる一社一現場の問題ではなく、昭和から続く業界文化や情報管理の遅れと深く結び付いています。

「なぜ」「何が」「どうして」起きたのかをロジックで追い、デジタル化・マニュアル化・コミュニケーション刷新を地道に続けることで、再発防止と信頼回復は必ず実現できます。

私たち製造業従事者は、共に時代の変革とラテラルシンキングで新しい“現場力”を築いていきましょう。

製造業に関わる全員が、“納期遅延”を「過去の遺物」とできるよう、今こそ一歩踏み出す時です。

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