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抽出装置用温度計保護管部材の肉厚設計ミス事例

目次
はじめに:なぜ今、抽出装置用温度計保護管の肉厚設計が見直されるのか
製造業の現場では、時代が進んでも根強く残るアナログ文化や「昭和の考え方」が未だに見受けられます。
その一例が、部品の設計や選定基準における「過去の実績への盲信」です。
一方で、サプライチェーンの多様化、コストダウンプレッシャーの高騰、そして国際的な品質要求の高度化によって、現場には絶えず設計の見直しや最適化が求められるようになりました。
特に、抽出装置などのプラント設備に使われる温度計保護管(サーモウェル)部材は、その機能・安全性の根幹を担う重要部位です。
しかし、依然として伝統的な“勘と経験”に頼った設計が横行し、肉厚設計ミスによる現場トラブルが散見されます。
本記事では、20年以上の現場経験を基に、保護管部材の肉厚設計ミスの典型事例を掘り下げ、背景に潜む業界動向や現場特有の盲点を洗い出し、改善に向けた具体的提言を行います。
バイヤー志望者やサプライヤー担当者が押さえておくべき、本質的な現場目線に立ったノウハウを共有いたします。
抽出装置用温度計保護管とは何か?
温度計保護管(サーモウェル)の基礎知識
温度計保護管は、プロセス液体や蒸気のラインに直接触れずに温度センサ(熱電対等)を挿入するための保護筒です。
装置運用時の圧力・温度・流体力といった過酷な条件下でも、センサ自体や測定精度を維持し、同時にメンテナンスの容易性も確保する極めて重要なパーツです。
特に抽出装置では、溶媒や各種化学薬品、高温蒸気など多様なメディアに晒される場面が多いため、保護管部材の仕様選定や設計の巧拙が安全稼働を大きく左右します。
なぜ肉厚設計が重要なのか
保護管の肉厚設計は、その部品の強度と信頼性に直結します。
肉厚が薄すぎれば機械的強度不足や腐食・摩耗リスクが高まり、反対に厚すぎればコスト増、応答遅延、流体抵抗の増大など非合理的な側面が生じます。
適切な肉厚設計は、プロセスラインの安全と効率維持、ひいては最終製品の品質を担保する土台なのです。
「昔からの常識」に潜む危険:昭和的思考の罠
設計標準への依存が招く油断
製造業では長年の設計実績や標準化された設計指針(JIS, ASME, DINなど)を重視する傾向が強いです。
これは決して悪いことではないですが、現場で本質的なリスク評価や、時代ごとの装置スペック多様化への追従が不十分なケースが目立ちます。
「昔からこの肉厚で大丈夫だったから」「ベンダー推奨の定型品でOK」のような、いわば思考停止状態が、思わぬ不具合・事故の温床となります。
現場に根付く“伝承知”の落とし穴
技能伝承文化が色濃い現場ほど、「あの人が良いと言ったから」「長年これで事故がないから」といった口伝や慣習が設計や調達現場で幅を利かせます。
ですがプロセス流体や圧力条件、頻度利用の変化、新素材・新構造の導入など、昭和の常識が通用しない新たな変数が現代では激増しています。
一度設計根拠が曖昧なまま“定番化”したスペックが後世に禍根を残す事例は、少なくありません。
実例紹介:温度計保護管肉厚設計ミスの現場トラブル
事例1:費用優先による肉厚削減で配管破損
ある化学プラントでのトラブル例です。
経年老朽化した装置の更新の際、「コストダウン」のためベンダー推奨肉厚より薄い規格材(スケジュール40→スケジュール20)を無断で採用したケースがありました。
起動直後は問題ありませんでしたが、数ヶ月後の定期点検で保護管の有意な減肉とピンホール腐食が発見されました。
結果、設備の一時停止による損失、緊急修繕費用、関連ラインへの生産遅延など、「最安選択」が裏目に出た典型例です。
事例2:設計標準への過信が現場事故を誘発
装置メーカーの標準設計書通りの部材を使用したはずなのに、一年足らずで過酷条件下の一部ラインで熱疲労割れが発生。
調査の結果、実際のプロセス圧力・流速・温度サイクルが設計条件を大幅に超過していたことが判明しました。
現場ヒアリングで「昔からこれでやってきた」の思い込みが浮かび上がり、実プロセス情報のアップデートが全くなされていなかった事実が露呈しました。
事例3:製造時の肉厚誤差見逃しによる重大品質問題
最終検査で検出された保護管の“肉厚ムラ”。
一部ベンダーが仕様肉厚5mmのところを管理緩和により4.2mmで納品。
現場監督者が「僅かな違い」と見逃して出荷したが、後工程で曲げ応力下の破損クレームが発生。
小さな逸脱も累積すれば重大品質問題を招く象徴的な事案です。
業界動向と設計ミスの背景をラテラルに読み解く
コスト至上主義と短納期プレッシャーの高まり
グローバルサプライチェーン化の進展により、調達購買部門・バイヤーには徹底したコスト要求と短納期化プレッシャーが課されています。
ベンダーも「最安見積もり」主義で安易な肉厚削減や設計バリューエンジニアリング(VE)提案を行いがちです。
一方、最終責任を負う現場技術者や工場長は、「とにかく使える最小肉厚で」といった社内調整に煩わされることも増えています。
その結果、安全・品質本位の設計を十分吟味しないまま、条件付きの妥協設計や暗黙の規格緩和が増加傾向にあります。
現場データのアップデート不足によるズレ
設備・ラインの更新時、現場での稼働実態が設計部門や購買部門に正確に共有されていない事態がしばしば起こっています。
温度・圧力・流体の条件が新たに厳しくなっても、「過去と同じスペックで大丈夫だろう」と思考停止で設計継続。
これが肉厚設計ミスの根本的な温床になります。
現代ではIoTやデータロガーで現場実測が格段に容易になったにも関わらず、データ活用・フィードバックの運用体制が遅れています。
標準規格の限界と独自設計力の弱体化
JISやASME、DINなど、国際標準の肉厚規格は確かに参考にはなりますが、各現場・装置特有のプロセス変数までカバーしきれるわけではありません。
多品種少量生産やカスタム仕様が多い現代の製造現場では、標準規格+現場ノウハウによる微調整力が今こそ問われています。
しかし、組織の高齢化や設計部門の外注化、技能伝承の課題によって、この“勘所を押さえる設計力”が弱体化しているケースが目立ちます。
調達購買・バイヤーが知っておくべき現場目線のポイント
仕様根拠と現場データを徹底擦り合わせ
「設計図通り」「標準規格通り」ではなく、それが“なぜ必要か?”“どの運転条件か?”の根拠を必ず現場とダブルチェックしましょう。
導入後の具体的な運用データ(圧力・流体・頻度など)があれば、設計責任者とベンダー双方でレビューする習慣を作ることが効果的です。
ベンダー任せにしない、発注側の現場責任意識
安易に「ベンダー推奨の最安材」で妥協せず、発注元自ら現場課題・設計意図を明文化しましょう。
ベンダー側の設計担当にも実装現場情報をしっかり共有し、リスク評価やシミュレーションの実施を依頼することを推奨します。
微差が大差を生むことを常に意識する
肉厚の“わずかな違い”が、プロセス応答性、耐腐食性、溶接性、取り付け強度…多面的な品質指標に予想外の影響を与えることを忘れてはいけません。
特に「管理限界の緩和」や「リードタイム短縮」の名目で規格から逸脱していないか、調達現場でも現場監督者の声をすくい上げる体制づくりが大切です。
まとめ:現場目線×設計知見で肉厚設計ミスを撲滅する
昭和的思考に凝り固まった設計・調達現場では、標準規格や“昔からの勘”への過信が、見えないリスクを蓄積させています。
コストダウン・短納期圧力が高まる時代こそ、現場データと設計根拠の緻密な確認、ベンダーとの本質的な情報交換が不可欠です。
抽出装置用温度計保護管というニッチな領域だからこそ、真の製造業プロは“ミリ単位”の品質意識・リスク評価力を磨くべきです。
本記事の事例や提言が、調達購買担当・バイヤー志望者、サプライヤー各位の現場改善のきっかけとなり、日本のものづくり現場に新たな視点と地平線をもたらせれば幸いです。
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