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下請先の再委託による品質事故の責任所在が曖昧だった事例と改善点

目次
はじめに
製造業の現場では、日々さまざまなトラブルが発生していますが、その中でも下請先の再委託によって発生する品質事故は、責任所在が曖昧になりやすい重大な課題です。
私自身、長年にわたり調達購買や品質管理の現場で多くのケースを見てきました。
そこで今回は、実際に起きた責任所在の不明瞭な事例をベースに、なぜ問題が起きやすいのか、そして現場目線で実践可能な改善点について掘り下げていきます。
なぜ下請先の再委託で品質事故が起きるのか
再委託の構造的問題
一次請負業者(1次サプライヤー)が自社だけで業務を完結できず、その一部または全部を別の下請け(2次サプライヤー)や孫請け(3次サプライヤー)に再委託する現象は、昭和の時代から製造業界では「あるある」の話です。
現代でも多重下請けの構造は根強く残っています。
理由は、突発的な受注増や人的リソース不足、コスト削減プレッシャーなど、多様です。
このとき、元請企業(バイヤー)は直接的なコントロールが及ばなくなる一方、サプライヤーも再委託先を十分に管理できていないことが多いのです。
情報伝達と現場意識の分断
再委託が発生すると、図面や仕様、工程指示、安全基準などの「品質を担保するための情報」が、サプライチェーンを下流に流れるごとに希薄になる傾向が強まります。
たとえば
– 「ここは重要な公差」
– 「この材料指定は絶対条件」
– 「この工程チェックを省略すると重大な不良につながる」
といった、本来なら現場オペレータまで徹底されるべきメッセージが、省略や誤解釈、口頭伝達のミスで失われやすくなります。
実際にあった曖昧な責任の事例
事例概要:自動車部品の溶接強度不良
ある自動車部品メーカーでは、溶接箇所の強度不足によりリコール寸前のトラブルが発生しました。
事の発端は1次サプライヤーが急な受注増に対応しきれず、2次サプライヤーへ工程の一部(溶接)を再委託したことにあります。
2次サプライヤーはさらに専門の小規模町工場(3次)へ溶接を依頼。
品質管理要件や溶接条件、完成品検査の基準も明確に伝達されないまま、作業が進められました。
責任の所在が曖昧になる理由
事故が発覚し、元請メーカーが調査を開始したところ
– 「2次サプライヤー任せで進捗報告もなかった」
– 「3次サプライヤーには詳細な工程指示が渡っていなかった」
– 「どこまで誰が何の責任を負うのか、契約に明記がなかった」
など、曖昧な取り決めや指示、省略された文書管理の実態が明らかになりました。
元請は1次サプライヤーを責め、1次は2次に問責し、2次は3次を非難——という責任の押し付け合いが泥沼化し、一時はサプライチェーン全体の生産がストップする最悪の事態にも陥りかけました。
これまで業界で見落とされていた背景
「なあなあ」で進んできた下請け構造
昭和の時代から製造業界では
– 「顔なじみだから大丈夫」
– 「今忙しいから〇〇工業さんに振っておいて」
– 「現場で何とかやってくれるだろう」
といった“なあなあ”な商習慣や信頼ベースの取引が横行してきました。
また、再委託先の“現場感覚”や“まかせきり文化”が根強く、生産効率やコスト優先で品質・安全面の管理が形骸化しやすい実態もあります。
特に中小サプライヤーや職人気質の町工場では
– 「口約束で済ませる」
– 「図面の裏書き事項をちゃんと見ていない」
– 「検査記録も自己流」
という場面が、今なお多く見受けられます。
現場目線で実践するべき改善点
1. 再委託可否と範囲の明確化
契約時に「再委託可否」と「再委託時の手続き」「品質責任の範囲」を明文化することが不可欠です。
元請側は
– 「特定工程(溶接、熱処理など)については自社加工のみ」
– 「再委託する場合は事前承認制」
– 「サプライヤーが再委託した場合も、元のサプライヤーが全責任を負う」
など、契約書や業務委託書、品質協定書に明記します。
この一手間で、本来不要のトラブルを防げます。
2. 情報伝達の多重チェックと“現場への落とし込み”
単に品質要件を書面で渡すだけでなく、「現場で実際に伝わっているか」を多重にチェックします。
– 再委託先現場でのキックオフ面談や現場説明会を設定
– 重要事項は必ず文書化し、サイン取得
– サンプル製品を初回納入前に実地で確認
また「現場の言葉に訳す」こともポイントです。
たとえば
– 「この部品は表面にヘコミやキズを絶対に作らない」
– 「最後は目視検査必須」
と、現場作業員が直感的に理解できる形で伝えます。
3. 検査体制・記録・トレーサビリティの強化
工程ごとの検査ポイント、合否判定基準、記録方法を、再委託先までもっと厳格に運用する必要があります。
– 受け入れ検査、抜き取り検査頻度を再委託レベルで細かく指示
– 不良発生時の通報・報告ルールを徹底
– ロットごとの作業者/加工者の記録(トレーサビリティ)を義務化
デジタル化が浸透しきれていない現場では、「日報を現場写真付きでLINE報告」「簡単なエクセルで記録」「現場監査はスマホの動画で共有」など、無理なく始められる省力デジタル活用もおすすめです。
4. サプライヤー監査と改善の“継続”
1回きりの立入検査や監査で満足せず、抜き打ち監査や周期的な現場レビューを継続しましょう。
「合格だから終わり」ではなく、小さな指摘も繰り返し教育しています。
これが工場現場での“意識改革”と“本質的な改善”につながります。
5. サプライヤーの“自主管理意識”の醸成
現場を「管理されるもの」「指示待ち」から、「自主的に品質確保するパートナー」に転換する啓発活動も大切です。
– 工場長や現場リーダーを集めた品質塾を開催
– 品質天井チェックコンテスト(最も良い・悪い現場を表彰)
– 重大事故の事例共有会、KYT(危険予知トレーニング)の全社展開
こうしたソフト面のアプローチも、長い目で見れば最高のリスクヘッジになります。
デジタル化の流れと今後の展望
“ヒト”と“情報”の垣根を越えるDX
一部ではAI・IoT技術を使った工程監視や、クラウド型のトレーサビリティ管理が導入されています。
今後はもっと現場の作業員が「簡単に使える」デジタルツールが主流になってくるでしょう。
– 品質記録(検査結果、工程写真)の自動アップロード
– NG品履歴や工程異常を、サプライチェーン全体で見える化
– チャットボットによるQ&Aサポート
など、デジタルが苦手な現場にも浸透させることがポイントです。
“昭和の常識”からの脱却
「長年こうやってきたから」「知ってる業者だから安心」という昭和型の人間関係ベース・アナログ取引を、今こそ見直す必要があります。
物理的距離も、情報の壁も超えて、誰がどの時点で何をしたか“証拠”を見える化しておくことが、これからは標準となるでしょう。
まとめ:製造業の現場力を未来へつなぐ
下請先の再委託による品質事故は、「間」で起きる問題です。
「誰かがやってくれる」「これまでは大丈夫だった」という慣習や油断が、事故・損失を生む温床となります。
現場目線で見れば、再委託の透明性、情報伝達の確実性、検証体制、そして継続的な教育・監査、このどれもを怠らないことが品質リスクを最小化する絶対条件です。
これまで昭和から続くアナログ文化の中で培われてきた“現場力”を、次の時代にふさわしい仕組みへ進化させること。
それがこれからの製造業や、サプライチェーンを担う全ての現場人の使命だと私は考えます。
製造業の皆さん、ぜひ“最新の危機管理”と“現場の知恵”を掛け合わせて、より強いものづくりの現場を築きましょう。
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