投稿日:2025年7月11日

JIT生産でリードタイムを短縮する導入事例と成功ポイント

JIT生産とは何か?現場の実態から見たその意義

JIT(Just In Time)生産は、「必要なものを、必要なときに、必要な量だけ」生産するという生産方式です。

日本の製造業、特にトヨタ生産方式に代表されるこの考え方は、現場でのムダを徹底的に排除し、効率化を追求してきた昭和の日本の現場から生まれました。

一見シンプルに思えますが、その裏では精緻な工程管理やサプライチェーン全体の高い連携力が求められます。

今なお根強く残るアナログ的な生産現場において、なぜJITがこれほど注目されるのか。

それは、単なる在庫削減だけでなく、現場力を底上げし、リードタイム短縮による競争力強化に本質があるからです。

リードタイム短縮の重要性とJITの関係

リードタイムとは、発注から納品、あるいは生産開始から出荷までに要する全ての時間を指します。

製造業においてこのリードタイムが短いことは、多くのメリットを生み出します。

顧客ニーズへの迅速な対応や緊急オーダーにも柔軟に応じられ、余剰在庫や倉庫コスト、キャッシュフローの改善にもつながります。

JITは、そのリードタイム短縮を実現するため、工程ごとの在庫削減、段取り替え時間の短縮、サプライヤーとの情報共有強化など、あらゆる現場活動の改善へと波及します。

特にリードタイムの短縮は、バイヤーにとってもサプライヤーにとっても大きな武器です。

実践現場でのJIT導入事例

部品調達のJIT化:自動車部品メーカーの事例

ある大手自動車部品メーカーでは、数千点に及ぶ部品調達をJIT化する取り組みを行いました。

これまでは「経済的発注ロット」を採用し、多めにまとめて仕入れることで発注コストをさげ、切れないよう在庫を持っていました。

しかし、市場の需要変動や顧客からの小ロット短納期要求の増加で大きな在庫がリスクとなり、JITへの転換が急務となりました。

まず大きく変えたのが、サプライヤーとデジタル発注システムを結び在庫状況を共有する仕組みです。

毎朝、工場全体の在庫残数と生産計画が自動送信され、各サプライヤーが自分の受け持ち部品を「今日必要な分」だけ工場に納入する形に切り替えたのです。

これにより仕掛品在庫が従来の1/3に減少。加えて、構内運搬や現品票のデジタル化も進め、現場でのロスやムダ取りも加速しました。

組立ラインのスループット(通過量)は20%上昇、リードタイムは実に半減という効果を生みました。

加工工程におけるJIT:中小製造業のアナログ突破事例

一方、町工場のような中小製造業でもJITの導入は進んでいます。

例えば、板金加工を主力とする工場では、職人気質の現場が根強く残り、口頭や紙伝票での工程管理が当たり前でした。

ここでJIT導入のカギとなったのは「見える化」と「標準化」。

作業者一人ひとりが「今、何をどこまで進めているか」「待っている工程や対応が必要な遅れは何か」をホワイトボードで可視化し、共有。

朝夕の短いミーティングで工程を確認しあい、ムダな段取りや待機時間を減らしました。

次いで、生産指示をシステム化して、必要部材のピックアップと配送順序も自動最適化。

導入当初は「これまでの方がやりやすい」と反発もありましたが、自らの作業に「なぜそれをするのか」の意味付けが浸透し、工程リーダーが能動的に改善案を出すようになりました。

結果として、納期遅延は大幅に減少し、ムダ取りの意識改革が現場の風土ごと変えたのです。

JIT生産の成功ポイント

1. サプライヤーとの信頼と協業体制の構築

JITは、自社だけで完結できるシステムではありません。

サプライヤー、物流、外注先までを巻き込まないと、全体最適とはなりません。

“サプライヤーにしわ寄せを押し付ける”ような関係では、直ちに破綻します。

成功する現場は、サプライヤーとこまめな情報共有を行い、発注前後のトラブルを未然に防いでいました。

また、何かあれば直接現場に足を運び、現物現場現認で課題を確認し、互いに腰を据えて議論・改善を繰り返していました。

JIT導入には、信頼とフェアなパートナーシップが最も重要です。

2. 工程の見える化と、柔軟な段取り替え

JIT導入成功の現場では、「今、どこの工程が詰まっているのか」「未着手、仕掛中、完成品、それぞれの状況」が現場で共有できています。

段取り替え、切り替え時間削減の改善も止めません。

設備の多能工化やチーム編成の見直しなど、「直ぐに動けるフットワークの軽さ」が求められます。

「カイゼン」が現場の日常となれば、更なるリードタイム短縮も実現できます。

3. トップダウンとボトムアップのバランス

JITは経営層の強いリーダーシップだけでは現場で定着しません。

現場管理者や作業者が「なぜJITが必要なのか」「どうすれば自分たちの業務がラクになるのか」を納得し、自発的に動く必要があります。

「今日からJIT」と号令をかけても、ベテラン作業者はすぐには動きません。

小さなカイゼンから始めて成功体験を積み上げ、やがて現場がJIT化の主役になる形が最も上手くいきます。

JIT導入時の失敗あるあるとその回避策

JITは導入すれば全てがうまく回るわけではありません。

現場ではよく「在庫が無くなりすぎて工程が止まった」「急な需要増に対応できない」といった問題が発生します。

また、購買部門と現場、生産管理との連携ミスによる手待ち、段取りミスも多発します。

失敗を避けるためには、最初から全ての在庫を減らさず、工程ごとに「必要最小限は残しておく」ことが重要です。

最適なリードタイム短縮ポイントや適正在庫量を絶えず現場で検証し、PDCAを高速で回すことが失敗リスクを下げる秘訣です。

また、工程のボトルネックをしっかり特定し、JIT化において最優先で力を入れるべき点も把握しましょう。

今後のJIT生産はどう進化するか

2000年代以降、国内工場でもIoTや自動化がJITをさらに進化させています。

リアルタイムの設備モニタリング、センサーによる自動発注・部品供給、AGVによる自動搬送などが普及し、リードタイムは今もなお短縮されています。

一方、デジタル化の波になかなか乗れないアナログ現場では、「小さく始めて成功体験を現場全体へ広げていくこと」が大切です。

ベテラン作業者が持つノウハウと、若手が持つデジタル感覚が融合することで、新たな地平線が切り開かれます。

また、調達の現場からバイヤーを目指す方、サプライヤーの立場でバイヤーの本音を知りたい方にとっても、「JITの目指す現場生産のお手本」を体感することは大きな武器となります。

まとめ:JITが製造業にもたらす本当の価値

JIT生産は、単なる在庫削減の手法ではありません。

現場力を底上げし、サプライチェーン全体でムダを卷き取り、素早いリードタイムでお客様の求めるものを届ける土台となります。

昭和時代の日本が築いたモノづくりの粘り強さと、令和の今求められるデジタル活用を組み合わせ、新しいJITの活用に挑戦することが、製造業の未来には欠かせません。

今日から一歩踏み出し、あなたの現場の「ムダ」と「モタつき」を見直し、小さな改善からJITの実現を目指してください。

その積み重ねこそが、現場にしかないリアルな競争力となるのです。

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