投稿日:2025年8月20日

製造停止品の長期供給保証をめぐり顧客と対立したケーススタディ

はじめに:製造停止品の長期供給保証が生む現場の葛藤

製造業では「製造停止品の長期供給保証」がしばしば大きな課題となります。

一度製造を止めた部品や材料を、顧客から「今後も長期間、安定供給してほしい」と要望されるケースは少なくありません。

特に自動車や重工業、FA機器業界のように数年、時に10年以上の部品供給が要求される分野では、メーカー側の苦労は計り知れません。

この記事では、現場で実際にあったバイヤーとサプライヤー間の対立のケーススタディを紹介しつつ、その背景や実践的な解決策、そして今後のトレンドについても深堀りします。

製造停止品の長期供給問題の現状と背景

なぜ「停止」しても供給要請が続くのか

テクノロジーの進化やコスト圧力、グローバルな競争激化を背景に、メーカーは仕様変更やモデルチェンジを繰り返し、古い部品や材料は次々と生産終了となります。

しかし、納入先である顧客の設備や製品が長期間にわたるメンテナンスを必要とすることから、「たとえメーカー側で生産をやめても、引き続きその部品を提供してほしい」という需要が必ず残ります。

自動車産業では新車販売後でも10年以上、半導体装置や産業機器では20年以上もの間、消耗部品の供給責任を求められることもあります。

こうした背景には「顧客側の生産設備投資を長期間守りたい」「部品在庫のリスクを分散したい」といったバイヤー側の思惑と、「コストや効率を追求し旧モデルからリソースを引き上げたい」というサプライヤー側の事情があります。

昭和・平成から続く業界“慣習”と変化の足踏み

実は、この「アナログとも言える長期供給保証の押し付け」は、現場に根付いた業界慣習の色合いが濃いのが現状です。

バイヤーは「過去このやり方で守られてきた」という過信が、一種の“安全神話”となり、新しい部品提案や後継品切替を拒む傾向にあります。

一方、メーカー側も、「顧客との信頼関係を損ないたくない」「その場しのぎでも要求をのむ方がトラブルにならない」と保守的な姿勢に流されやすく、抜本的な構造改革が進みません。

こうした平成~令和の過渡期においても、新たなビジネスモデルやDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が、製造停止品の供給問題には十分及びきれていないのが現場の実感です。

実録:長期供給保証をめぐり顧客と対立したケース

ケース1:某自動車部品メーカーとバイヤーの攻防

筆者が工場長時代に直面した事例です。

自動車メーカーA社が特定の車種用に採用していたコネクタ部品。
モデルチェンジ後5年間の追加供給契約は終了。しかしA社の保守部門から「あと7年間分、年300個程度の継続供給」を要請されました。

自社としては部品材料の入手も困難になり、製造ラインも撤去済み。外注先も辞退。

コスト面でも採算割れで赤字必至。

この状況をA社の調達部門へ説明し、新型互換コネクタへの切替を複数回打診しましたが、「現場は変更を認めない」「保守品番の変更は社内承認に1年以上かかる」と強硬に拒否されました。

「A社にだけ損を強いられる筋合いはない」と役員会での決定で供給終了を再通告。

A社からの反発が強まり、社長同士の会談まで発展する事態となりました。

背景にある双方の「本音」と根強い不信感

A社バイヤーの言い分は、「今さら設計変更や設備改修は社内稟議が大変。社内他部署の説得も手間。現行維持の方が調達部門としては楽」という、いわゆる“現状維持バイアス”。

自社側は材料手配や品質保証体制を維持するための固定費圧縮・設備転用圧力にさらされつつ「顧客都合の要望で赤字事業をいつまで続けるのか」と現場で不満が噴出。

最終的には、両社の課長~部長クラスでの調整会議を重ねた末、
・A社負担による一定数の先行一括買い上げ
・その後の後継品切替を前提としたニーズ調査
・設計部門・調達部門巻き込みの承認プロセス共有
という施策で合意に至りました。

ケーススタディから学ぶ実務的解決策と現場ノウハウ

1. 早期のコミュニケーションが肝心

現場で最も重要なのは「生産終了・材料廃盤の予兆が出たタイミングで、即座に顧客バイヤーと状況共有する」ことです。

担当者レベルの水面下の会話ではなく、会議体や文書化された公式通知とし、両社の設計部門・購買部門・原料サプライヤーまで巻き込むこと。

「やれそうではなく、やることができるか事実を定量的に伝える」姿勢が、無用な対立激化を防ぎます。

2. 後継品・他社代替品の積極提案

サプライヤー視点では“供給できないリスク”を最小化するためにも、早い段階で
・自社他拠点での生産可否
・設計互換性のある後継部品
・場合によっては競合他社の類似品
まで網羅的に選択肢を持ち、顧客へカタログや仕様書とともに提案することが肝要です。

「うちとしてはこのアイテムしかありません」ではなく、「多方面での選択肢から一緒にリスク回避しましょう」という歩み寄りが、顧客との信頼構築につながります。

3. 「割増価格」の交渉と期日付き最終受注の徹底

現実問題として、低ロット・高コストの長期保守供給はメーカーに大きな負担です。

供給できる場合でも、材料再調達費・余剰在庫リスクなどを明確に積み上げ、「この条件なら続けられます」と割増価格での受注、あるいは期日指定での最終受注予約を徹底すべきです。

お互いが「持ち出しゼロで維持できる」仕組みを真剣に模索した方が、長期的な信頼関係につながります。

「昭和モデル」脱却のカギとは? アナログ抜本改革の壁

依然として「言えば融通してくれるだろう」「今までできたのだから」という、場当たり的な対応が現場には根強いのが日本の製造業です。

しかし、業界全体がグローバル調達・AI在庫最適化・IoT部品管理など、脱アナログ化を推進する中で、「昔ながらのやり方」は大きなリスクともなりえます。

製造停止部品の長期供給保証も、従来は暗黙の了解・“現場判断”で成り立ってきましたが、近年は二極化しています。
・撤退コストを割り切り、ビジネスルールで供給終了を徹底する先進企業
・受動的・前例踏襲しかできず、現場に皺寄せが残る企業

「設計段階からライフサイクルマネジメントを明記する」「生産終了案内の仕組みを自動化し、全関係者を一斉通知する」「先行需要ヒアリング・事前一括受注」など、仕組みとガバナンス強化が、アナログ脱却の第一歩です。

今後のトレンド:デジタル×長期需給の新時代へ

今や欧米・中国を中心に、EOL(End of Life)情報の自動配信や、部品交換・置換状況のデジタル可視化が進んでいます。

国内でも
・PLM(製品ライフサイクル管理)システムに基づく設計・保守最適化
・サプライヤー情報とのリアルタイム連携
・需要予測AIによる在庫マネジメント
こうした潮流が徐々に広まりつつあります。

昭和から続く「人頼み」のやり方から、「データで語り、数値で説明する」現場への転換ができれば、バイヤー・サプライヤーの対立構造そのものも劇的に変わることでしょう。

まとめ:現場視点と変革意識の両立が業界発展のカギ

製造停止品の長期供給保証をめぐる顧客との対立は、いつの時代も現場で繰り返されています。

一方で今、アナログな昭和・平成モデルにしがみついたままでは、企業の競争力そのものが失われかねません。

真のソリューションは、「バイヤーの本音」「サプライヤーの限界」「設計・生産・調達それぞれの事情」を現場目線で率直に話せる土壌を作ったうえで、データや仕組みによる構造改革へと舵を切ることです。

これからバイヤー・サプライヤーの立場を問わず、現場で悩む皆さまが、より健全で生産的な業界発展への一歩を踏み出されることを願っています。

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