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キッティング組立委託の発注フロー高速化で製品立ち上げ期間を短縮した事例

目次
はじめに:キッティング・組立委託の発注フローにおける課題
製造業において、新製品の立ち上げ期間をいかに短縮するかは、競争力を左右する重要な要素となります。
特に、キッティングや組立作業を外部委託する場合、発注から納品までに多くのプロセスややり取りが発生し、思いのほかリードタイムが延びてしまうケースが少なくありません。
かつての日本のモノづくり現場では、「丁寧さ」「間違いのなさ」が重視され、電話やFAX、手書きによる発注書のやりとりが王道でした。
しかし、これら昭和的なアナログ文化が根強く残る現場では、せっかくの技術革新や外部リソース活用の恩恵を十分に受け切れていない現実があります。
本記事では、20年以上製造業の調達購買・生産管理・品質管理を推進し、現場改革を体現してきた筆者の経験をもとに、”キッティング・組立委託の発注フロー高速化”でどのように新製品の立ち上げ期間を短縮できたのか、具体的な事例を交えながら、今後の業界動向や現場目線のソリューションについて解説します。
キッティングと組立委託とは?現場に与えるインパクト
そもそも「キッティング」とは
キッティングとは、一連の部品やユニットを必要なタイミング・数量・仕様でピックアップし、組立や検査作業がスムーズに進むように”セット化”する工程を指します。
IT業界ではパソコンの初期設定や周辺機器セットアップを示すことが多いですが、製造業においては部品の選別、小分け・採番・ラベリング、さらには簡易な前組立まで含む、幅広い意味で使われています。
一方、組立委託は、社外のサプライヤー(組立専門業者やEMS)に部材供給と工程管理を任せ、検査済みのユニットや完成品として納入を受ける外注形態です。
キッティング・組立委託の加速で生まれる現場メリット
キッティングや組立工程を巧みに外部委託することで、工場の内部工程を圧縮でき、生産立ち上げ時の工数・人員・スペースの問題が大きく解消されます。
また、複雑な多品種小ロット案件や、コア技術以外のノンコア業務の外部化、需給変動・サプライチェーンリスクへの柔軟な対応がしやすくなります。
しかし現実には、発注や情報伝達の不備、承認遅延、不透明なコスト構造、トラブル発生時の責任範囲の不明確さなど、調達購買の現場目線では”高速化”と”信頼性”の両立が難しいのが実態です。
よくある発注フローのボトルネックと、その背景
アナログ業務と部門間調整の壁
工場現場に古くから根付いた調達・組立委託の発注フローでは、以下のような課題が散見されます。
- 発注・依頼内容の伝達方法がFAXや手書き書類、非効率なメールベースに留まっている
- 設計変更や部材手配、納期調整などと複数部門(設計・生産管理・品質管理)のタイムラグが多発
- サプライヤーとの「口頭伝承」や「暗黙知」への過度な依存
- 変更履歴やコミュニケーション履歴の属人化・ブラックボックス化
- 発注承認や緊急変更時の意思決定プロセスが遅い
これらが積み重なり、せっかく委託先を活用しても、本来期待したスピードや柔軟性がなかなか実現できない現場も多いのが現状です。
なぜ業界は変わりにくいのか?昭和型アナログ文化からの脱却の難しさ
この背景には、「前例踏襲」「紙の帳票が絶対」「上司の印鑑がなければ進まない」といった文化や、安全志向に陥った心理的ハードルが根強くあります。
また、「現場をよく知るベテランの勘や人脈が最強」という神話、サプライヤー側のデジタル対応力の遅れ、不透明な下請け構造、責任転嫁文化…こうした複合要因で、過去のしがらみや現行システムからの”脱皮”に強烈な抵抗感が存在し続けているのです。
発注フロー見直しによる高速化と、新製品立ち上げ期間短縮の実例
事例概要:B社における電子機器ユニット製造のキッティング・組立委託
筆者が実際に携わった大手電子機器メーカーB社では、国内外の新製品立ち上げ(ローンチ)時に、以下のようなボトルネックが顕在化していました。
- プロトタイプ試作から量産移行まで、社内工程と委託先の間で手戻りや納期遅延が年々拡大
- キッティング、組立依頼のたびに何度も設計変更や都度承認が発生し、平均リードタイムが1.4倍に膨張
- 設計部門・調達部門・品質保証部門・製造部門の間で、情報の断絶やコミュニケーションロスが常態化
- 委託先からの「これでいいですか?」「ここ変更ですか?」といった曖昧な問合せが現場を占拠
この状態を打破すべく、徹底した現場ヒアリングと、ラテラルシンキングによる改革を断行しました。
高速化のための実践施策とその成果
施策のポイントは以下の通りです。
1. 「発注内容の標準化・DX推進」
– キッティングや組立仕様を全社共通フォーマット化し、設計・調達・生産管理が同じ言語・項目でやり取り。
– 発注書や図面、検査要領書などを全て電子化し、ワークフローシステム経由で承認・変更連携。
– サプライヤーにも電子プラットフォーム経由で直接アクセス権を与え、リアルタイムで進捗・履歴を管理。
2. 「部門間の壁を超えるオンサイト会議・プロジェクト運営」
– 新製品立ち上げ時には、設計・調達・品質・現場担当・委託先が一堂に会する定例カンファレンスを設置。
– 細かな仕様変更や改善要望も、その場で”早期仮決定”し、担当者の属人化・縦割り思考を最小化。
– 「トラブルは現場で即・顔を合わせて解消」がコアバリュー。
3. 「サプライヤー巻き込みによる協業思想の啓蒙」
– 設計段階からサプライヤー技術者を巻き込み、事前にリスク・コスト・工数を顕在化。
– 仕様変更や工程改善案を受け入れやすい「ウィンウィン」の関係性構築。
– 外部サプライヤーもあえて現場の”見える化”に立ち会わせ、トラブル対応やノウハウを双方蓄積。
その結果、発注から納入までのリードタイムは最大25%短縮。
特に、量産初期の試作~初期納入までのフローが劇的に短くなり、製品上市計画の順守率(QCD目標達成)が顕著に向上しました。
具体的なデータで見る成果
B社の具体的な数値として、
- キッティング依頼から納品までの平均リードタイム:従来3.2日→改革後2.4日(実績)
- 設計変更による手戻り件数:月平均12件→5件へ低減
- サプライヤーとのトラブル対応件数:月平均7件→2件へ減少
- 量産立ち上げ遅延日数:従来平均18日→5日へ短縮
こうした「目に見える」改善は、工場現場のみならず経営層~サプライヤー全体のマインド変革へとつながっています。
キッティング組立委託フロー高速化成功のためのカギ
成功要因1:情報とコミュニケーションの透明化
最大のカギは、「情報の透明化」と「コミュニケーションの見える化」です。
手戻りやミスの多くは、「言った」「言わない」「どの書類が最新か」「誰がGoサインを出したか」が曖昧なことで発生します。
仕様・図面・発注書すべてをデジタルで一元管理し、共有フォルダや進捗ダッシュボードでステータスを即座に見られる仕組みが”現場の混乱”を未然に防ぎます。
成功要因2:部門横断・現場重視のプロジェクト推進体制
設計部門・調達部門・生産管理・サプライヤーが「一つ屋根の下」で議論し、意思決定を迅速化する文化こそ、現代の製造業に求められるスタイルです。
一方、現場リーダーが”会議だけで日が暮れる”事態を防ぐには、現場目線のKPI設定と、進行役(PMO)の徹底したファシリテーションが必須です。
成功要因3:サプライヤーと「協業」の意識を持つ
サプライヤーは単なる”外注先”ではなく、「設計から知恵を借りるパートナー」として能力をフル活用する発想が重要です。
サプライヤー批判よりも、現場に呼び込んで共に”作る”スタイルこそ、リードタイム削減やトラブル予防で圧倒的な相乗効果を生みます。
昭和型アナログからの脱却へ:これからの業界動向とバイヤーへのアドバイス
脱アナログの潮流と、今後の必須スキル
キッティング・組立委託の分野でも、「デジタル需要予測」「工程自動化」「スマートサプライチェーン」といった新たな潮流が急速に広がっています。
したがって今後のバイヤー(調達購買職)は、「データを読める力」「現場現実ベースの仮説・検証思考」「DX推進」が必須スキルです。
また、単に「外注先を選ぶ力」だけでなく、「サプライヤーとウィンウィンの関係性を築けるコミュニケーション力」も求められます。
サプライヤー視点で大切なこと
発注側バイヤーが「どんな課題・ニーズを、どんな現場で、どうスピーディに解決したいのか」を具体的に意識した提案が、サプライヤーにも期待されています。
ブラックボックス化、責任転嫁、前例主義を超えて、「一緒に良いモノを作る」意識改革がこれからの時代、不可欠です。
まとめ:高速化の本質は「信頼の上に立つ透明な仕組みづくり」
キッティング・組立委託の発注フロー高速化による新製品立ち上げ期間短縮は、「現場」の小さな困りごと・部門間の壁・情報の非対称性をいかに”見える化”し、標準化・透明化できるかにかかっています。
本記事で紹介した事例のように、アナログな”昭和型”の文化に縛られたとしても、現場目線のラテラルシンキングとデジタル実装により、発注フロー高速化と製品立ち上げの劇的な短縮は十分に実現可能です。
バイヤー・サプライヤー双方の「共創」「透明性」「チームワーク」が、自社と業界全体の成長を加速する。
こうした新たなモノづくりの”地平線”を、現場発の一歩から切り開いていきましょう。
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