投稿日:2025年9月9日

再輸出規制違反で多額の罰金が課された事例とリスク回避策

はじめに:製造業を揺るがす再輸出規制違反のリアル

現代の製造業は、グローバルサプライチェーンの複雑化と共に、多様な法規制の網に取り巻かれています。

その中でも、近年特に注目されているのが「再輸出規制違反」に関するリスクです。

再輸出とは、ある国から輸入した製品や部品を、第三国に輸出する行為を指しますが、この際には元の輸出国の規制も関与する場合があり、知らずに規制を破れば多額の制裁金や罰金を科されることがあります。

この記事では、実際に日本の製造業で発生した再輸出規制違反の事例や、その背景にある業界の構造的問題、そしてバイヤーやサプライヤー視点でのリスク回避策について、深掘りしながら解説します。

今も昭和的なアナログ業務が色濃く残る現場だからこそ、最新動向や実務で使えるノウハウを身につけ、法規制リスクに強い現場づくりを目指していきましょう。

再輸出規制とは何か:押さえるべき基礎知識

再輸出規制の概要

再輸出規制とは、ある製品・部品・技術が一度輸出された後、それがさらに第三国以降に輸出される場合に、元の輸出国(多くはアメリカ・EU・日本など先端技術保有国)の規制が適用される仕組みです。

例えば、米国から日本企業が先端半導体部品を購入し、日本で組み立て後に第三国に完成品を輸出する場合、その内容によっては「アメリカの再輸出規制」に従う必要があります。

製造現場ではどうしても「自社の国の法規制しか頭に入っていない」ケースが多く、違反リスクを見落としがちです。

なぜ厳しくなったのか?業界動向の裏側

2020年代に入り、米国を中心に安全保障や技術流出対策として再輸出規制が強化され、規制リストの拡大や遵守違反に対する罰則も年々厳格化しています。

中国・ロシア向けの製品やハイテク部品、AI・精密機械・材料分野では「意図せず違反」のリスクが大きく膨らんでいます。

そのため、現場担当者から管理職、経営層まで“再輸出規制の輪”を理解し、リスクマネジメントのあり方を再考する時代となっています。

実際にあった再輸出規制違反の事例

ケース1:米国部品使用の産業機械を中国向けに輸出——6億円超の罰金

ある大手日本メーカーは、米国製の特定電子部品を組み込んだ産業機器を中国の取引先へ輸出していました。

しかし、この電子部品は米国の輸出管理規制(EAR:Export Administration Regulations)に該当しており、中国向け再輸出には米国商務省の許可が必要でした。

現場は「部品自体に出荷証明が必要」とは認識しておらず、輸出入通関書類も通常通り対応。

一方、米国当局は最終需要先を追跡しており、違反発覚後は日本本社・米国子会社が連名で制裁対象となり、合計で6億円以上の罰金を科されました。

この事例の教訓は、自社で完成品を製造するだけでなく、調達した部品の原産国や規制対象も「モノの設計時点から」把握しなければならないという点です。

ケース2:「技術移転」でも違反事例が発生

組立図面や生産工程のノウハウを中国に電子メールで送付した、大手サプライヤーの例です。

該当図面には米国由来の技術情報が含まれており、これが再輸出規制の技術移転・提供規制(Deemed Export/Deemed Re-export)に抵触。

米国側からは「即時の技術提供禁止・大幅な事業見直し」を要求され、罰金は数千万規模に達しました。

工場の現場ではつい「設計情報=出荷品目」との意識が薄く、メール・ファイル転送・クラウド上の共有でも規制リスクが生まれる点は注意が必要です。

なぜ違反が起きるのか?現場に潜む落とし穴

昭和的な業界慣習がリスク温床に

製造現場ではいまだに「調達伝票」「部品台帳」「手書きリスト」など、紙ベースの商習慣が根強く残っています。

管理職や工場長クラスの間でも「法令は総務や法務の仕事」という意識が根強く、現場と法規制の温度差がトラブルの根源となります。

また、現地法人や現場サプライヤーが独自に解釈して対応した結果「グローバルで整合性が取れていないまま意思決定」→違反発覚というパターンも後を絶ちません。

「言われた通りに動いた」現場責任の重み

現場目線で言えば、「設計から回ってきた仕様通りに組み立てただけ」「発注先から指定された部品を使っただけ」といった、トップダウン文化の裏側で現場自身がプロセス全体にまで目配りできていないのが現実です。

ですが、グローバルでは「知らなかった」「上司の指示だった」だけでは済まされず、担当者〜管理職まで連帯責任を問われるケースも増えています。

再輸出規制リスクの回避策:現場バイヤー・サプライヤーが取るべきアクション

1. サプライチェーン全体の“見える化”を徹底する

調達〜組立〜輸出までの全プロセスで「どの部品がどの国の規制下に入っているのか」「どこの法規制が関与するのか」を徹底的に洗い出しましょう。

主な対策としては、

– 調達先(サプライヤー)に対して“輸出規制対象品の有無”を毎回確認するためのチェックリスト運用
– BOM(部品表)レベルで原産国・技術移転有無・法的規制区分を明文化する
– ISOなどの認証取得プロセスに「再輸出規制遵守」の項目を追加

などが挙げられます。

2. 社内教育と風土改革が最重要ポイント

昭和的な「現場は現場の役割だけをやればよい」という意識改革も急務です。

現場スタッフ・購買・調達部門には、

– 海外法規制の基礎研修の実施
– 違反事例ニュースの定期共有
– 法規制違反時の影響をシミュレーションして“自分ごと化”する

こうした仕組みを恒常的に行い、知識アップデートと危機意識を高めていきましょう。

3. 専門家・システムの活用でアナログ脱却を進める

法務部門や外部専門家と連携し、“怪しい案件・グレー案件”については必ず事前確認する仕組みづくりが大切です。

同時に、エクセルや紙運用から脱却し、

– サプライチェーン可視化ツール
– コンプライアンス管理システム
– 国際取引情報の自動照合システム

といったDX導入で「規制該当品目のアラートを自動で出す」工夫を取り入れる企業が増えています。

バイヤー・サプライヤー目線で押さえる「本音と建前」

バイヤー=調達担当者の悩みとチェックポイント

バイヤー担当者は、これまで「納期・コスト」に最大の注意を払ってきました。

しかし規制強化の流れの中で、「取引先(国内外)が法規制に強いか?」や「配送ルート上に高リスク国がないか?」など、リスクリテイク度の高い調達を求められるようになりました。

取引前の“規制リスク評価票”や、輸出入担当部門との密な情報連携が今や不可欠です。

サプライヤー=供給側が意識すべき視点

サプライヤー側は「バイヤーのOKが出たから大丈夫」ではなく、自社の納入品目がどの国の規制下にあるかを明示し、守秘義務や再輸出条件を契約書や納品書で必ず明文化しましょう。

グローバル調達時代の今、規制違反は“サプライヤーが連帯責任”を負うリスクも現実化しています。

まとめ:再輸出規制リスクは“現場力”で回避できる

再輸出規制違反は、「知っていれば避けられた」ケースがほとんどを占めています。

昭和的な商慣習から抜け出し、サプライチェーン全体でリスクに目を配る力、現場と法務・IT部門の連携力が問われている時代です。

実際に現場で起きた事例・罰金ニュースも「明日は我が身」ととらえ、今日からできるチェック体制、仕組み改良、教育啓発を愚直に続けていきましょう。

安全で健全な現場こそが製造業全体の持続的成長のカギです。

未来のモノづくり現場を守るために、あなたの一歩を踏み出してください。

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