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ロールフォーミングでコストダウンできないケース

目次
ロールフォーミングでコストダウンできないケース
はじめに:ロールフォーミング=低コスト、は常識なのか
製造業に携わる皆さんにとって、「ロールフォーミング」はコストダウンの象徴的な加工技術として認識されているのではないでしょうか。
曲げ加工やプレス成形に比べ、連続自動化による高効率生産が可能なため、量産品では圧倒的なコストメリットを享受できます。
現場でも「コストを下げたいならロールフォーミングで設計しよう」となる場面が多いものです。
しかし、長年現場でさまざまな業種や製品群、プロジェクトに携わってきた経験から、ロールフォーミングが「必ずしもコストダウンに直結しない」ケースも数多く見てきました。
特に昭和から根強く残る「とりあえず金型作って大量生産!」という発想では、現代の多様なニーズや供給網、原材料価格の変動を乗り越えることが難しいのも事実です。
この記事では、なぜロールフォーミングがコストダウンにつながらない場合があるのか。
現場視点・経営視点・バイヤー視点で徹底的に掘り下げてみます。
ロールフォーミング加工の特性と一般的なコスト構造
ロールフォーミングの基本とコスト構造
ロールフォーミングは、金属コイル材を成形ロールで段階的に連続成形していくプロセスです。
自動化、省人化、大量生産、優れた歩留まりといったメリットがある反面、金型(ロール)と設備投資に一定の初期費用が必要です。
原材料費、エネルギー費、金型費、設備減価償却、人件費、保全費用などが主なコスト要素になります。
想定されるコストダウン要因
1. 材料ロスが少ない(歩留まりが良い)
2. 高速・大量生産により人件費が圧縮可能
3. 自動化による品質安定化と再検査コスト低減
4. 組立や二次加工の省略によるトータル工程削減
こうした“理想の型”が実現すれば、他の加工法よりも有利といえます。
ですが、全てが上手くいくとは限りません。
コストダウンできない主なケースを現場目線で徹底分析
生産ロットが小さく、多品種少量生産が求められる場合
ロールフォーミングの本質的な強みは「同じ形状の大量生産」です。
金型代は決して安くないため、少量生産や、都度設計変更が発生する多品種少量生産では、初期投資を回収できずコスト高になります。
現場では「償却点に届かない」「1回ポッキリで終わった」事例が多く、短納期・多品種対応が必須の昨今、特に難しさが増しています。
複雑形状、精度要求が高すぎる場合
ロールフォーミングは連続曲げ成形が得意ですが、複数のカエリや複雑な勾配、断面内に高低差が多い構成には不向きです。
無理に成形しようとすると金型が大掛かりになり、金型加工費も金型立ち上げ調整費も膨大になります。
また、後工程で追加工や修正が必要になり、「当初想定したコストダウンから乖離した」という声もバイヤーからよく上がります。
材料や仕様が頻繁に変わる場合
素材厚・材質・表面処理、あるいは形状仕様がロット毎に変わる場合、段取り替えや金型調整が頻繁に必要となり、段取り費(スタンバイ費)が嵩みます。
タクト生産のストップ&ゴーに弱く、短期間で多回転の段取り替えがあると、想定以上のコストと時間ロスが発生します。
昔ながらの「大量生産慣れ」した工場長には、このコスト構造の可視化が課題になっています。
部材が長尺かつ、搬送・保管コストが増加する場合
長尺部品の搬送・保管は想像以上にコストとスペースを要します。
輸送時の曲がり・たわみ対策に追加の梱包材や仕掛けが必要となり、場合によっては「現地組立の方が結局安かった」という判断にいたることも。
この“隠れコスト”は、現場主義の調達バイヤーが見逃しがちなポイントです。
納入先の受入工程がロールフォーミングに適合しない場合
納入側(サプライヤー)でコストメリットが出ても、納入先で二次加工が多く発生する、現場レイアウトに不適合なら意味がありません。
一例として、溶接や穴あけ加工がラインの途中で不可欠な場合など、再度設備・工数が発生し「結局トータルコストアップ」になることも珍しくありません。
バイヤー視点で考える、隠れたリスクと課題
サプライチェーンの供給リスク
ロールフォーミングラインは金型・組立・仕上げまで一気通貫のラインになっていることが多く、不具合・ライン停止時のリカバリーが難しいです。
“ひとつのサプライヤーにすべて依存する”リスクが高まり、分散調達やBCP(事業継続計画)の観点からも手放しで推進できない場合があります。
IT化の遅れと属人化
日本のロールフォーミング業界は昭和時代からの職人技・現場勘に依存しているケースが多く、CAMやIoT、AI活用による工程の見える化や自動最適化が遅れている現実があります。
こうした「人に依存した現場」は、突発トラブル時の対応、品質維持、新規立ち上げでのリードタイム競争力低下につながります。
アナログ業界が陥りやすい「幻想」と現代の潮流
“大量生産=ローコスト”の呪縛から抜け出すために
確かにロールフォーミングはロットが大きければ大きいほど有利な手法です。
しかし、市場の多様化、サステナビリティ要求の高まり、在庫レス・多品種化の進行、脱炭素やエネルギー高騰による工程最適化が問われる現代社会。
昭和の「大量生産型モデル」から「多変量最適解モデル」への転換期を迎えています。
設計から現場、調達まで“俯瞰的な”判断が不可欠
バイヤーや設計者、サプライヤー全体が一丸となり、「本当にその形状・仕様はロールフォーミングでコスト最適化できるのか?」を都度疑い、工程・輸送・在庫・保全コストまで含めて全体最適化するラテラルシンキングが求められます。
また、DX推進によるシミュレーション、現場データ可視化、QCD(品質・コスト・納期)の三位一体向上を絶えず意識する必要があります。
現場の知恵を活かす! ラテラルシンキング的・コスト最適化実践例
1部品1工程主義からの脱却
設計者と現場担当が早期から協業し「ロールフォーミング+プレス+溶接」など複合的な工法最適化を検討することで、最小投資・最大成果型の生産設計が可能となります。
顧客ニーズや将来の設計変更も見越し、多様なバリエーションを低コストで実現する“フレキシブルモジュール化”を進めている現場も登場しています。
現場の見える化・コストシミュレーションの活用
IoTやAI導入による工程・在庫・歩留まりデータの見える化を通じ、バイヤーと現場が対話しながら、調達コストの真因を突き止め、都度ベストな生産法を選択する動きが広がっています。
属人的な経験値だけでなく、データドリブンな意思決定への切替がコスト最小化へ直結しています。
サプライヤー連携とコスト階層化
単一工場の自社内最適だけでなく、サプライチェーン全体で工程分割・生産連携を図ることで、最終的なコスト最適解を見つけ出すプロジェクト事例も増えています。
調達担当者は“仕入れ値だけ”を見るのではなく、「トータル原価」「二次コスト」「BCPリスク」まで俯瞰し、パートナーと連携することが肝要です。
まとめ:ロールフォーミング神話に溺れず、地に足ついた現場目線で
ロールフォーミングは確かに素晴らしい生産技術ですが、必ずしも“コストダウンの万能薬”ではありません。
設計や工程、納入側・バイヤー側のあらゆる側面からリスクとコスト構造を洗い出し、「本当に最適解なのか」と深く考える必要があります。
アナログ思考とデジタル思考を組み合わせ、現場・調達・管理職全員が一丸となり、全体最適なコストダウンを実現していきましょう。
それが製造業に身を置く全ての方の使命であり、新時代における日本のモノづくりの競争力強化につながると、私は信じています。
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