投稿日:2025年7月16日

シミュレーション活用鋳造プロセス解析鋳造欠陥予測対策

はじめに:鋳造業界におけるシミュレーションの重要性

製造業、とりわけ鋳造業界は、長年にわたり職人技と経験に依存してきました。

しかし、グローバル競争や品質要求の高まり、省人化やコストダウンの要請により、経験値だけに頼る時代は終わりを迎えつつあります。

近年、ものづくりの現場では、シミュレーションを活用したプロセス解析が鋳造の欠陥予測や対策の切り札として注目されています。

この記事では、実際の現場での経験もふまえ、鋳造におけるシミュレーション活用の現状、メリット、課題、そして今後の展望までを現場目線で解説します。

鉄鋼、アルミ、ダイカスト問わず、調達・品質・生産すべての部門の方に役立つ内容となっています。

鋳造プロセスとは何か?昭和の現場から2024年の最前線へ

鋳造プロセスの基本フロー

鋳造とは、液状の金属を型に流し込み、冷却させて目的の形状の部品を製造する工法です。

その種類は
– 砂型鋳造
– ダイカスト
– 精密鋳造
など多岐にわたります。

工程は大まかに以下の流れです。

1. 金型・砂型の設計・製作
2. 溶解(金属を加熱して溶かす)
3. 注湯(金型・砂型へ流し込む)
4. 冷却・凝固
5. 製品取り出し
6. 仕上げ(不要部分の切断や研磨)

この一連の工程の中で発生する「鋳造欠陥」が、品質・歩留まり・コストの最大の課題となります。

昭和時代と現代の現場の違い

昭和時代の鋳造現場は、まさに「勘と経験」に頼る世界でした。

熟練工の目と手の感覚、現場で蓄積されたノウハウだけが頼り。

しかし、これは「再現性」「標準化」「説明責任」という観点で現代の顧客要求に応えにくいものです。

令和の今、しかも2023年以降「工程能力」「品質保証」「工程FMEA」などの要求が格段に厳しくなっています。

ここで役立つのが、CAE(Computer Aided Engineering)による鋳造プロセスシミュレーションです。

鋳造プロセス解析のためのシミュレーション技術とは?

主要なシミュレーションソフトと得られるもの

鋳造プロセス解析のための代表的なソフトウェアには下記のようなものがあります。

– MAGMASOFT(マグマソフト)
– ProCAST(プロキャスト)
– FLOW-3D CAST
– AnyCasting など

これらは、3D-CADデータ、材料物性、注湯温度、流速、冷却条件などの大量のパラメータを数値化し、「金属の流れ方」「凝固挙動」「型内温度分布」などをシミュレーションできます。

主に得られるものは
1. 金属の流動解析
2. 凝固・冷却挙動の可視化
3. 欠陥(巣、湯回り不良、引け、割れ、そのほか)の発生位置予測
4. 保持炉や金型冷却配管の最適設計 などです。

シミュレーションならではの「現場価値」

例えば、“巣(鋳巣・ブローホール)”が製品の端に頻発するが原因が分からない、
“湯回り不良”で細部の形状が再現できない、
“割れ”が高強度材で出てしまう、
といった現象が起きた際、
シミュレーションを使うことで、そのメカニズムを数値で検証・「見える化」できるのです。

現場が願っていた「再現性」「説明責任」につながります。

鋳造欠陥をシミュレーションで事前に発見・対策できる理由

鋳造欠陥の種類と従来型の課題

代表的な鋳造欠陥は次の通りです。

– ピンホール、ブローホール、巣(ガスや収縮による空洞)
– 湯回り不良(型の複雑形状部分で金属が回らない)
– 引け巣(厚みの違いで金属凝固中に空隙ができる)
– 割れ・ヒビ(凝固時の残留応力で割れてしまう)

これまでは、
「現物で流して、試作と測定で原因推定」
「職人の知見に頼る」
しか手立てがありませんでした。

しかも失敗に「数百万円」「数週間」がかかることも。

シミュレーション活用で何が変わる?

1. 欠陥発生のメカニズムが可視化できる

 →金属流動の偏り、湯口から冷却への温度勾配を「絵」として見せられる。

2. 構造設計・ゲート配置・冷却配管設計のパターンを一気にテスト

 →同じ金型データで、ゲート場所を変えたり冷却方向を変えたりして全パターン比較し、最も欠陥が出にくい仕様を短時間で探し出せる。

3. 物理現象の再現性が高く、現実工場の「見えない因果関係」を数字で論理化

 →「温度を5℃上げるだけで引け巣が消える」「冷却配管の位置1cm移動で割れ減少」などがバーチャルに分かる。

これが現場の
『無駄打ち試作』『手間とコストの浪費』
を大幅に減らす鍵なのです。

バイヤー、サプライヤー、それぞれの現場視点で見る「シミュレーション化実践メリット」

バイヤー(調達・購買)の視点

– 品質保証・安定供給を求められる中、サプライヤー選定や工程監査で「プロセスの見える化・再現性」が重視される時代になりました。

– シミュレーションによる検証・解析能力は、単なるコストダウン競争とは異なる「品質への自信・説明力」を持ったサプライヤー評価の基準となります。

– 海外生産やグローバルサプライヤーとの連携でも、数値や画像(シミュレーション結果)のやりとりは言語・文化の壁を越える武器です。

サプライヤー(鋳造メーカー)の視点

– 試作のやり直しや量産初期トラブルのリスク低減、工数・コスト大幅削減ができる。

– サプライヤーの説明責任やVDMA対応など「なぜできるか・できないか」を客観データで証明できる。

– DX/IoT推進など現代の「スマート工場」化にも通じる技術リテラシーの証明となり、他社差別化・競争力強化につながります。

現場におけるシミュレーション活用の課題と進め方

「昭和的思考」とのギャップと導入の壁

– 熟練工の「勘」や指先感覚を、数値モデル化しきれない部分もまだ残っています。

– 投資コスト(ソフト・ハードの初期費用)や、専門人材の育成という壁もあります。

– 「現物試作が正義」「解析データは信用できない」という文化・風土は根強く残ります。

現場で成功するためのステップ

1. 最初は「人×シミュレーション」のハイブリッド運用でノウハウ蓄積

 →必ず実際の試作(現物)とシミュレーション結果を比較し、「誤差」や「再現性」を地道に検証

2. 現場への「見せ方」「共有」の工夫がカギ

 →解析グラフィックを工程仕様書やQC活動、保全マニュアルなどに組み込む

 →熟練工の知見「なぜそうなるか」を数値モデルに落とし込む作業をおろそかにしない

3. 失敗も「見える化」して現場にフィードバック

 →「どこが違って、なぜ再現できなかったか」もシミュレーションと現物で徹底比較して蓄積する

今後の鋳造業界におけるシミュレーション活用の展望

より高度なAI連携・自動化との融合

– 近年はAIがパラメータ自動最適化、異常検知、品質予測モデルの学習にも活用されています。

– シミュレーションの繰り返し試行や膨大な設計パターンの自動評価で、人的工数が劇的に減る時代が到来しています。

設計⇔生産⇔調達の“壁”を越える共通言語化

– 設計DRの現場で「このゲート設計ならシミュレーションで歩留まり〇%まで上がります」といった共通認識を持つことで、開発~購買~量産の壁が低くなります。

– サプライヤーとの品質会議・原価低減協議も、「シミュレーション証拠」があれば根拠ある話し合いが可能です。

まとめ:鋳造現場に根付くための“実践的ラテラル・シンキング”

鋳造プロセスシミュレーションは、単なる「便利ツール」「お飾り」ではありません。

勘や経験に頼る昭和的現場が、科学的・論理的根拠を持って進化するための“橋渡し”技術です。

バイヤー・サプライヤーどちらの立場でも
「再現性のある解析」
「現場が納得する説明」
「品質リスクの低減」
「無駄作業の撲滅」
という切実な課題に向き合うために、

「現物」と「シミュレーション」の”いいとこ取り”を進めていくことが、10年後の製造業を生き抜くために不可欠なのです。

鋳造業界の発展のため、現場でまずは「やってみる」、失敗も「蓄積ノウハウ」として正しく活かす。

この地道な積み重ねが、「昭和から令和」への本当の進化につながります。

製造業の皆さんが、現場で一歩先行くシミュレーション活用に挑戦されることを、心から願っています。

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