投稿日:2025年6月16日

組込機器におけるネットワークトラブルの原因分析とその対策および事例

はじめに:組込機器のネットワークトラブルがもたらす現場への影響

近年、工場の自動化やIoTの推進により、多くの製造現場でネットワークに接続された組込機器が不可欠な存在になっています。
制御盤内のPLCや検査用カメラ、温度・湿度モニタリング装置など、あらゆる工程でネットワーク対応の組込機器が活用されています。
一方で、それらの機器が何らかの理由でネットワークトラブルを発生させると、たった一つの設備の停止がライン全体の生産ロス、計画外のダウンタイム、大きな機会損失へと波及します。

加えて、今も昭和のアナログ的な仕事の仕方が根強く残る製造現場では、ネットワーク障害に対する知見や備えがまだ不十分なケースも散見されます。
この記事では、組込機器におけるネットワークトラブルの主要な原因と現場での対策、さらに現実に起きたトラブルの事例を交えて、実践的なアプローチを詳述します。
バイヤーやサプライヤー、それぞれの視点でネットワークトラブルをどう防ぎ、どう関与していくべきかについても掘り下げていきます。

組込機器でネットワークトラブルが起こる主要原因

1. ハードウェア的な問題:経年劣化・不適切なケーブル管理

製造現場のネットワークは、誇張なく「数十年物のケーブル」が稼働している場合も珍しくありません。
根強い「壊れるまで使う」文化や、現場作業者の高齢化による新技術への抵抗、または投資抑制の方針から、LANケーブルやコネクタ、HUB類が劣化したまま使われています。
ケーブル皮膜の摩耗や接点不良、ケーブル配線の誤り・誤接続などが通信断やパケットロスを引き起こしやすいです。
特に現場の振動・ノイズ環境下では、EMIによる影響も無視できません。

2. ソフトウェア的な問題:ファームウェア不整合やIPアドレス競合

「組込機器は一度設置したら変更しない」が前提だった時代から、ネットワーク型組込機器にも日々のソフトウェア更新やパラメータ調整の必要性が増しています。
ファームウェアのバージョン不整合、現場での設定ミス、メンテナンス時の初期化忘れ、IPアドレスの重複などが深刻な通信トラブルへと直結します。
特に属人的なメンテナンス記録、不明確なネットワーク設計書がトラブル時の再現や追跡を困難にしています。

3. プロトコルや通信仕様の問題

製造業界では独自プロトコルや古いフィールドバス規格、アドホックな通信仕様が今も数多く混在しています。
そのため新旧機器の混在環境下ではリソースコンフリクト、認証失敗、多重接続エラーなどの問題が起こりやすい特徴があります。
仲介するゲートウェイやプロトコル変換機が十分なテストなしに現場導入されることで、意図しない動作やパケットロスが増えてしまうケースも少なくありません。

4. ネットワーク構成やセグメント設計の設計不良

「とりあえず物理的に繋いでおけばいい」という考え方で工場内ネットワークが構築されていると、ブロードキャストストームや帯域逼迫、セキュリティホールといったリスクが高まります。
工事の際の一時的な仮設HUB放置、無線LANアクセスポイントの増設乱用なども要注意です。

現場目線で考えるネットワークトラブルの対策

日常点検・予知保全の徹底

昭和的な「壊れるまで触るな」マインドから脱却し、ネットワークインフラ自体も定期点検・予防保全の対象とすることが重要です。
配線ルートの目視点検やコネクタの掃除、通信ログの定期チェックなど、地味ながらも効果的な活動が現場での事故防止につながります。
最近ではIoTセンサーを活用したリアルタイム監視や遠隔監視も導入しやすくなりました。

構成管理と設定のドキュメント化

「誰がいつどの設定をしたか」「IPアドレスの割り当てをどうしているか」など、ネットワーク資産情報のドキュメント化・可視化は極めて重要です。
属人的な知識に頼らず全員が参照できる最新情報を整備することで、トラブル時の迅速な障害切り分けや再現性の向上につながります。

ネットワーク分割・冗長化の設計思想の導入

組込機器や工程単位でVLAN、物理分離などネットワークセグメントを見直すことも効果的な施策です。
また、重要な機器については物理的な二重化やフェールオーバー設計を検討しましょう。
特に24時間稼働ラインや品質記録など「止められない」業務には必須です。

技術教育とマニュアル整備

ネットワーク障害が発生した時、「誰が・何を・どう切り分けるか」を現場で即座に判断できるマニュアルの整備および定期的な実機演習が不可欠です。
特に世代交代が進む中、「ベテランの勘」に頼らず体系立てた教育やナレッジ共有が求められています。

サプライヤー/バイヤー視点で見る業界の課題と次世代への提言

サプライヤーが意識すべきネットワーク設計・サポート体制

バイヤー(顧客)は、自分たちの現場ニーズや制約条件(例えば他社機器との共存、古い配線環境、夜間自動化ラインなど)をサプライヤー側に的確に伝えることが大切です。
一方、サプライヤーは最新のネットワーク仕様だけでなく、古い環境でも動作するための互換性、現場スタッフのIT理解度に合わせたサポート体制を用意しましょう。

マニュアル作成時は専門用語多用よりも、“現場でよくあるトラブルを事例形式で解説”、“トラブルシュート手順を図や写真で解説”といった工夫で親しみやすく設計してください。
不要な複雑性や新規制の押し付けでなく、現場事情を素直にヒアリングし「現実的な改善策」を優先することが信頼構築につながります。

バイヤーが知っておくべき調達・設計時のポイント

バイヤーは調達時、スペックや価格のみならず、「現場組込後の障害切り分けのしやすさ」「保守性やファーム更新の頻度」「現場ネットワークとの親和性」といった“納入後”に効く評価軸を盛り込むべきです。
複数社の機器プロトコルの混在や、メーカーサポート体制の差異など、踏み込んだヒアリングを重ねることで、ネットワークトラブルの未然防止に大きく近づきます。
また保守部品の調達性やライフサイクルの長さも、現場持続性の観点で注視しましょう。

組込機器ネットワークトラブルの実際の事例とその教訓

事例1:工場ライン停止を招いたノイズ干渉トラブル

自動車部品工場で、ネットワーク対応検査カメラが断続的に通信不能となりました。
原因追及の結果、カメラ用LANケーブルが大電力装置の高圧ケーブルと平行配線されており、インダクションノイズが混入していたことが判明しました。
ケーブルルートの分離と追加アース、シールド強化により解決しましたが、ネットワーク機器配置と電源配線の基本設計の大切さを再認識させられた事例です。

事例2:ファームアップデートによるIP競合での機器全停止

ある製造ラインでネットワーク経由のファーム更新を実施した後、複数台の組込制御機器が同時に通信断に。
ログ調査の結果、ファーム上の初期設定パラメータが工場LAN内で重複していたことが原因で、各装置がランダムでIPを要求し、ネットワークが大量パケットを処理しきれなくなっていたことが分かりました。
事前の動作検証とIPアドレス管理の文書化の重要性を実感したエピソードです。

事例3:マニュアル未整備による復旧遅延

老朽化したHUBが夜間自動化ラインで故障し、復旧担当者が現場に到着したが、どのケーブルがどの機器に繋がっているのか誰も分からない状況でした。
物理・論理ネットワークの配線図と機器一覧表が未整理で、現場スタッフがネットワーク構成変更の履歴も把握していませんでした。
結果、通常30分で復旧できるはずが、2時間以上のダウンタイムとなりました。
日頃の情報共有とマニュアル整備の構造改革が急務だと痛感した事案です。

まとめ:現場力を高めるネットワーク管理の新常識

ネットワークトラブルは単なる「ITの問題」ではなく、現場の生産性や品質・納期に直結する重大なファクターです。
高度な自動化が進むほど、組込機器のネットワークトラブル対策は現場の基盤インフラとしてますます重要度を増しています。
昭和から続くアナログ思考を尊重しつつも、現代的なネットワーク管理術――すなわち、予防保全・情報共有・教育訓練・全員による現場改善の力――を育てていくことこそ、これからのモノづくり現場の持続的発展のカギといえるでしょう。

ネットワークトラブル発生時に「現場の誰もが自信を持って対応できる」――そんな現場力の向上に向けて、今こそ組込機器のネットワーク運用改革に取り組んでいきましょう。

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