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工程内搬送の無駄を減らすセル生産とライン生産の使い分け

目次
はじめに―工程内搬送の無駄はなぜ発生するのか
製造業の現場において永遠のテーマと言えるのが「無駄の削減」です。
特に目に見えにくく、つい後回しになりがちなのが「工程内搬送」の無駄です。
部品や半製品、完成品を工程間で運ぶ際に発生するロスは、コスト面だけでなく品質やリードタイムにも大きな影響を及ぼします。
昭和時代から続く分業とライン生産方式が根付いた日本の工場でも、DXや自動化が叫ばれる現代でも、この「工程内搬送」の効率化は常に課題となっています。
この記事では、20年以上の現場経験に基づき、セル生産とライン生産という2大生産方式に着目し、どちらをどのように使い分けることで工程内搬送の無駄を削減できるのかを、実践的かつ現場目線で解説します。
ライン生産とセル生産、それぞれの特徴を整理する
ライン生産とは
ライン生産は、組立ラインの各工程を直列につなぎ、コンベアやAGV(自動搬送車)などでワークを次々と流す方式です。
同じ作業を繰り返す量産に向いており、自動車産業をはじめ日本の基幹産業で長年にわたって採用されてきました。
作業員は担当工程の持ち場に固定され、部品はラインを流れながら各工程で少しずつ形になっていきます。
搬送方法はメカニカルなものが主流で、自動化しやすく生産計画も立てやすいのが利点です。
セル生産とは
セル生産は、作業島(セル)ごとに1人または少人数が工程の大部分を担当し、1つの製品をほぼ最初から最後まで作り上げる方式です。
ライン生産に比べて柔軟性が高く、多品種少量生産やカスタマイズ品の生産に向いています。
作業者自らが複数の設備や工具を使いながら工程を回し、一部の工程は歩行や手作業による「セル内搬送」となります。
移動量が最小化されるようセル設計が工夫されているのが特徴です。
工程内搬送の無駄とは何か?現場ならではの視点
工程内搬送の「無駄」とは、「物と情報が次の工程へ正しく・すみやかに流れない」ことによって生じる、不要な時間・距離・手間を指します。
例えば、以下のようなケースです。
– ラインの隙間を埋めるためだけに仕掛品を長距離運ぶ
– 搬送の都度、台車やコンテナへ積み替える手間が発生する
– 搬送中に製品が傷ついたり、誤流出する
– 作業員やフォークリフトの待ち・渋滞が頻発する
これらは製造現場の「目に見えないコスト」として、多くの工場で見過ごされています。
特に古い工場や既存設備を使い続けている現場では、レイアウト変更が難しいことも相まって、工程間搬送の改善が遅れがちです。
しかし、IoTや自動搬送技術の進展により、「無駄」を最小化する新たな選択肢も増えてきました。
ライン生産の工程内搬送―メリットと限界
ライン生産の強みと工程内搬送の関係
ライン生産は「流れ作業」による高効率が最大の強みです。
搬送自体も生産ラインに組み込まれているため、ワークはスムーズに工程間を移動します。
また生産量変動にも強く、タクトタイムが一定化しやすいという利点もあります。
自動化との相性も良いので、AGVやロボットアームなど最新技術の導入もしやすい傾向にあります。
ライン生産の工程内搬送における「無駄」
一方でライン生産方式は、定型・大量生産向きであり、「待ち」「滞留」のムダも発生しやすいです。
特に、下記のような搬送上のロスが現場を悩ませます。
– タクトタイムに合わせるため、工程ごとに仕掛品が滞留
– 生産品種や仕様変更でラインを止める必要が生じる
– 部品サイズや工程の柔軟な組み替えが難しい
– 古いラインではAGV導入や自動化改造が困難
加えて、ライン全体が1つの「流れ」で最適化されるため、どこか1工程が止まると全体の流れが止まるリスクもあります。
長年使い続けられる「昭和型ライン」ではレイアウトの変更が困難で、「無駄な搬送距離」の温存にも繋がりやすいです。
セル生産の工程内搬送―柔軟性とジャストインタイムの実現
セル生産における「搬送距離」の劇的削減効果
セル生産方式の大きなメリットは「無駄な移動を極力排除できる」ことです。
作業者が自分のセル内で複数工程を担当し、必要な部品や治工具も手元や近距離に配置されます。
つまり、セル設計の段階から「最短動線」が考慮され、余計な工程間搬送そのものが必要なくなります。
生産品の多様化、変動型生産の現場では最適な方式であり、DXと連携した「見える化」「省人化」も進めやすいです。
セル生産の弱点と工程内搬送の課題
ただし、セル生産にも課題はあります。
– 作業者のスキルにより生産効率や品質が左右される
– 専任制による「属人化」の弊害(技術伝承/標準化の難しさ)
– 一部工場ではセル間の搬送や物流が逆に煩雑化することも
さらに、部品点数の多い大型製品などは、1セルでの完結が難しく、中間工程での「セル間搬送」が増える可能性もあります。
この場合、工程内搬送の省力化・自動化をどこまでサポートするかが運用上の課題となります。
ライン生産とセル生産の使い分け―現場発想のベストプラクティス
工程内搬送の徹底削減へ―使い分けの視点
現場で工程内搬送の無駄を徹底的に抑えるには、「ライン生産⇔セル生産の使い分け」こそが現実的かつ効果的なアプローチです。
どちらか一方にこだわるのではなく、下記のような視点で最適な方式を選択・組み合わせることが重要です。
– 大量・定型品で…ライン生産+自動搬送+工程並列化
– 多品種・変量型・小ロットで…セル生産+セル最適化+柔軟な配置変更
– 中間工程や組立/検査工程で… ハイブリッドセル導入・AGV等の部分活用
– 部品供給や完成品搬送で…AGV/AMR+IoT制御によるジャストインタイム搬送
現場の制約や生産品特性に応じて「生産方式のハイブリッド化」がますます求められます。
現場で効果を出すために押さえておきたい3つのポイント
1. 「搬送距離=無駄」という意識を持ち、工程レイアウトや物流をゼロベースで見直す
2. 品種・生産計画・工程負荷を可視化し、「どの方式が根本的な無駄削減になるか」を現場主導で判断する
3. 搬送ロボットやAGV・IoTなどの技術を「新旧混在ライン」にどう適用するか、経営・現場一体で方針を持つ
特に「古いラインや工場」では、搬送の自動化にだけ頼らず、セル生産との組み合わせや一部工程の改廃(カイゼン)も視野に入れて柔軟に設計すべきです。
昭和型アナログ現場にDXと工程内搬送改革をどう融合させるか
日本の多くの製造現場では、いまだ「人の経験と勘」「手作業による判断」に頼る文化が根強く残っています。
これは品質面においては良い側面もありますが、一方で工程内搬送の「無駄」や「ブラックボックス化」を助長しています。
このような現場で無理に最新ITや自動ラインを導入しようとすると、現場の抵抗感や混乱を招き逆効果です。
工程内搬送のDXとは単なるAGV導入やIoTセンサー設置だけにとどまりません。
– 現場従業員が「なぜこの搬送が必要か」「何が本当に無駄か」を分かるようになる仕組み化
– 工程内の情報と物流の「見える化(トレーサビリティ)」と「即時の改善フィードバック」
– サプライヤーとバイヤーが同じデータ・同じ言語で工程内の課題(搬送量・滞留時間)を対等に共有
こうした《現場参画型DX》こそが、アナログ業界に根付いた昭和マインドから抜け出す第一歩です。
これからのバイヤー・サプライヤー関係で重視すべき「搬送と現場改善」の透明性
今後の製造業は、「工程内搬送=現場物流」の質が購買/調達戦略と直結します。
バイヤーの立場としては、サプライヤー工場の工程内物流が効率的かどうか、リードタイムやコスト競争力がどこで決まるかを現場レベルで把握する力が必要です。
サプライヤーにとっては、バイヤーから見て「工程内搬送の無駄が最小化されている」状態を見える化し、対話と信頼の材料にすることが差別化要因となります。
サプライヤーとしても「うちはセル生産を導入し柔軟な物流構築ができます」「新旧ラインを組み合わせて無駄を削減しています」など、工程改善・DX推進の具体的な取り組みをバイヤーへ積極的にアピールすべきです。
まとめ―生産現場の未来は「最適な工程内搬送」から始まる
工程内搬送の無駄の削減は、単なる生産効率の課題ではありません。
現場設計、工程レイアウト、生産方式の選択、サプライチェーンの透明性、現場のモチベーションなど、製造業の根幹にかかわるテーマです。
ライン生産とセル生産の本質、現場物流の強みと限界、アナログからDXへの現実的な橋渡しなど、すべてを現場主導で「最適化」できたときこそ、日本のものづくりは再び世界市場で輝きを取り戻すはずです。
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