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社長の直感が優先され合理的判断ができない問題

目次
社長の直感が優先され合理的判断ができない製造業の現実
製造業の現場に長く身を置いていると、技術革新やデジタル化が叫ばれるいまも、意思決定の最終段階で「社長の直感」が絶対視される場面に頻繁に出会います。
合理的なデータ分析や現場からの改善提案が棚上げにされ、説得力のある計画さえ「なんとなく違う気がする」の一言で覆る。
これは、バイヤーやサプライヤーはもちろん、現場スタッフにも大きな影響を及ぼす問題です。
なぜ製造業、とりわけ日本の中小〜大手において未だ「直感経営」が幅を利かせ、その結果どんな課題と可能性が生まれるのか、実践と課題解決両面から深掘りします。
昭和的経営スタイルが今も根強い理由
ものづくりは「現場の勘と経験」が第一だった
大量生産・大量消費時代の日本の製造業は、トップダウンで強いリーダーシップを持つ創業者や社長たちによって支えられてきました。
そのリーダーたちは、何十年にもわたる現場経験とカン、そして時々の大きな意思決定で会社を牽引し、奇跡的な成長を実現しました。
この背景には、曖昧な需要予測でも「売れるもの」を先読みして成功した実績や、部下の反対を押し切って新規案件をモノにした逸話があるため、「最後はトップの直感に従う」のが常識として定着したのです。
デジタル化が進まない「昭和」からの脱却遅れ
ITやAIによるデータ分析、根拠あるマネジメントが主流になりつつある今も、設備投資や業務プロセス改善が一向に進まない企業は多いです。
理由の多くは「社長が成功体験から抜けられず、合理的判断に疑問を持つから」です。
Excelですら導入が遅れ、手書き伝票やFAX、帳票出力が当たり前の現場が今も珍しくありません。
「現場の声」や「専門家の提案」を無視し、社長や経営層の感覚で発注やサプライヤー選定、人員配置が決まってしまうのです。
社長の直感がもたらす合理的判断の停滞
調達・購買現場で生じる判断の歪み
調達や購買の現場で最も困るのは、「客観的な評価基準」が浸透しないことです。
たとえば、複数サプライヤーの見積・納期・品質実績を比較し、コストメリットや安定供給力を分析した提案を用意したとします。
しかし決裁段階で「長い付き合いだから」「社長が気に入っているから」「営業の担当者が真面目そうだから」という、数値化できない直感的な理由で方針転換が下されることが少なくありません。
こうした現象は、競争力ある新規サプライヤーとの取引機会損失や、コスト高止まりの要因となります。
調達プロセスがブラックボックス化し、現場担当者のやる気も損なわれてしまいます。
生産・品質管理現場にも及ぶ負の余波
生産計画の見直しやラインの自動化など、現場効率を高めるための重要な投資も、「なんとなく機械に任せるのは心配だ」「昔ながらのやり方が一番だ」といった感覚論で先送りされます。
また、品質不良の発生原因や歩留まり向上の施策提案についても、「現場が大袈裟に問題視しているだけ」などと取り合ってもらえず、本質的な改善につながらないケースが多発します。
こうして企業全体が「無難な現状維持」に陥り、データ分析や他社ベンチマークといった改善サイクルが回らないのです。
現場・バイヤー目線で考える、「直感優位」からの脱却術
合理的データの“見える化”と社長の「気付き」促進
トップの感覚に頼らざるをえない状況は、現場やバイヤーが「説得力ある材料」を上手に届けられていない側面もあります。
例えば購買判断なら、従来サプライヤーA社と新提案するB社の品質・コスト・安定供給力・リスク分散効果を一目で比較できるレポートを作成し、その根拠となる数字や納入実績を整理します。
また、生産効率改善の投資案件なら、「投資額」「効率向上の定量効果」「回収見込年」「人員削減・再配置計画」をわかりやすく“見える化”することが肝心です。
「なんとなく」ではなく、「これだけ違う・これほどリスクが低減できる」と目に見える資料があれば、社長本人にも“気付き”が生まれ、直感と合理性の橋渡しがしやすくなります。
リバースメンタリング:現場から経営層への「逆流」対話
組織の壁も乗り越えるには、現場からの問題提起や改善提案を、経営層が日常的に対話しフィードバックする仕組みが有効です。
たとえば、若手の現場リーダーやバイヤーが定期的に経営層に直接プレゼンを行い、その場で質疑応答やディスカッションをします。
これはいわば“リバースメンタリング”の実践で、現場の最新トレンドや課題意識が意思決定に組み込まれやすくなります。
経営者の「直感」だけでなく、「現場目線のリアリティと合理性」を経営の一部に溶け込ませる土壌ができるのです。
日本の製造業が生き残るために本当に必要な「直感と合理のハイブリッド」
社長の「直感」は否定せず、「合理性」との両立を
長年現場や管理部門で働いてきた経験からも、経営トップの直感そのものを否定するつもりはありません。
経営者の持つ事業全体への“嗅覚”やリーダーシップは、確かに危機を乗り越えるときや、新たな種をまくときに大きな価値を発揮します。
大事なのは、それだけに頼り切るのではなく、「直感と合理性」「勘とデータ」を両立させることです。
直感だけ、合理だけ ――どちらかに偏ると、環境変化の激しい時代には組織が硬直してしまいます。
具体策:現場・バイヤー発の“小さな変革”を重ねる
では、いきなり社長を変えることはできなくとも、現場やバイヤーが日々できることには次のようなものがあります。
– スモールスタートでの改善実験(小規模なライン自動化や新サプライヤーを一部調達に試験導入)
– 月次や四半期単位で「実際どうだったか」をレポート共有し、現場データが経営層の意思決定材料になるよう工夫
– 「直感による決定」と「合理的判断の根拠」を分離し、それぞれのメリット・デメリットを対話で徹底比較
– 外部専門家(コンサル、同業他社OBなど)を巻き込み、現場目線にプロの意見を足すことで、説得力を補強
大切なのは「うちの会社は昔からこうだから仕方ない」と諦めず、小さくてもデータと現場知見に基づく合理的判断を根付かせ、その成果を可視化し続けることにあります。
まとめ:製造業は「直感と合理」のハイブリッドで変革を
昭和的な経営スタイルがいまだ根強いのは、日本の製造業の歴史と成功体験あってこそです。
しかし、デジタル技術やサプライチェーンの地殻変動が止まらない今、そのままでは業界の成長も個人のキャリアも頭打ちになります。
バイヤー・現場・サプライヤーそれぞれの立場で、「直感と合理性をどうブリッジするか」を考え、現場から経営を少しずつ“アップデート”しましょう。
最初は経営者の「なんとなく」な迷いとの根競べになっても、現場力とデータに裏付けされる合理性を示し続けることが、これからの日本の製造業に求められる新しいプロフェッショナリズムです。