投稿日:2025年6月29日

CFD数値流体力学基礎と解析ノウハウ製品開発活用事例集

CFD数値流体力学とは?ものづくり現場での存在意義

CFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)は、流体(液体や気体)の動きや熱の移動をコンピュータ上で解析する技術です。

従来、流体の現象を理解しようとすれば、試作や実験による「現場主義」が主流でした。

しかし、コスト削減・開発スピード向上が求められる現代製造業では、いかに「失敗する前に最適解を見つけるか」がカギ。

ここでCFD技術を上手に活用することで、試作レス=開発のアナログ時代からデジタル主導へシフトできるのです。

アナログ業界とも言われる製造現場ですが、CFDのような最先端解析は今や大手だけでなく、中堅・中小メーカーでも普及が加速しています。

製造業の開発者や調達担当、さらにはバイヤーやサプライヤーの皆さんも、この流れをしっかりキャッチアップすることが今後の競争力の源泉です。

CFD解析導入の基礎知識:知っておきたい用語と仕組み

CFDを実際に使いこなすうえで、押さえておきたい基本用語や仕組みについて解説します。

流体力学の基礎方程式

CFD解析の根幹には、物理法則に基づく以下の方程式が存在します。

・連続の式(質量保存則)
・ナビエ–ストークス方程式(運動量の保存)
・エネルギー方程式(熱およびエネルギーの保存)

これらの複雑な式を数値的に解くことで、流れの速度や圧力、温度や濃度分布などを可視化できます。

メッシュ生成(離散化)

3次元CADデータなどの形状情報を細かい区切り(メッシュやセル)に分割し、その点ごとに流体の挙動を計算します。

この区切り方や細かさによって解析精度や計算時間が大きく変わるため、経験とノウハウが求められます。

境界条件と初期条件の定義

解析を正確に行うためには、「どこから空気や水が入り、どこから抜けていくか」「初期温度や圧力はどうか」といった物理的な設定が重要です。

ここが現場実験と大きく異なり、現実に近い再現性の高い条件設定が肝です。

ポストプロセッシング

解析が終了した後は、データをグラフや可視化画像、アニメーションで表示し、現象を“見える化”することができます。

製品設計者と共有することで、直感的な理解が進みます。

CFD解析の現場活用ノウハウ:大手も中小もここに差が出る!

私が現場で20年以上実践してきた経験を踏まえ、「使えるCFD解析」を実現するノウハウを紹介します。

机上の理論だけで満足しない。現場環境とのギャップを認識する

CFDツールはどんどん高機能化していますが、入力データが現実を正しく写していなければ意味がありません。

工場内設備の設定値や稼働状況が現実と違えば、机上の空論になってしまいます。

私が解析では必ず現場に足を運び、配管配置やバルブ位置、温度計の設置場所など、現物確認を徹底した理由はここにあります。

“アナログ文化”への配慮。現場説明はわかりやすく徹底的に可視化

CFD解析の難解な用語をそのまま現場に説明しても、ほとんど理解されません。

むしろ「難しい話はいらん」と反発されるのが落ちです。

私が必ず意識してきたのは、「3色の流線」と「温度分布のグラデーション表示」など、“一目で分かる”資料に仕上げ、現場の納得を得ること。

CFDはツールではなくコミュニケーション手段と捉えるべきです。

バイヤー目線のCFD:コスト・開発期間最適化の武器に

製品を調達するバイヤーにとって、CFD解析はベンチマーク評価やコスト交渉の裏付けとしても活用できます。

例えば、空調設備や熱交換器などの性能比較。

サプライヤーの設計図面に基づき、自社でCFDシミュレーションを行えば、“設計通りの流量や温度”が本当に実現できるか、理論値から客観評価できます。

これは単なる価格競争ではなく、「根拠ある品質比較」の材料となり、サプライヤーとの信頼関係構築にもつながります。

リアルな活用事例集:CFDが変えた現場のモノづくり

ここでは実際に私が関わったCFD活用の現場事例を紹介します。

1. 自動車部品の冷却性能改善

エンジン周辺部品では、夏季の高温化や渋滞時の熱だまりが不具合原因となることが頻発していました。

従来は何度も試作→テストを繰り返すという泥臭い開発プロセスでしたが、CFD導入で均熱化ルートや風路改善案を“バーチャル試作”。

僅か2回の物理試作のみで量産仕様がFIX。

トータル開発コスト半減、開発リードタイムは1/3まで短縮した実績があります。

2. 塗装ブースのエネルギー削減

工場の塗装工程では、換気効率向上(=有機溶剤の飛散・滞留防止)が重要です。

大型塗装ブース内部の空気流量と流れ方向の最適化をCFDで解析。

現場作業者の安全確保と、ファンモーター出力20%低減による省エネを両立できた事例です。

このとき注意したのは、「現場の作業者動線や換気扇の取付高さ」まで現実に即した物理条件化。

経験則とデジタルを融合させる視点が、アナログ文化の現場改革の突破口となりました。

3. 洗浄装置の工程不良削減

小型部品用の超音波洗浄槽で、水流パターンや渦流部の“洗い残し”が頻発。

サプライヤーと共同で3種類の水流プロセスをCFD解析で事前評価。

“業界標準”とされてきた既存ノズル配置が、実は部品形状との相性が悪いことを数値的にはっきり示せたことで、根本改善に踏み切ることができました。

これは単なるコストカットではなく、「不良流出ゼロ」という品質維持に直結する成果となっています。

4. サプライヤー支援としてのCFD活用

調達・購買部門がサプライヤーの設計品質に疑念を持った際、「自前でCFD検証」し、客観的な技術議論ベースを確立。

サプライヤー目線としては、バイヤーが性能評価の視点や最新解析技術を持つことで、下請けから“開発パートナー”へと関係性が進化します。

両社の技術情報の透明化(例:流量分布、局所温度、渦流の可視化)で相互信頼を獲得しやすくなるのです。

アナログものづくり文化×CFD:どう乗り越える?

まだまだ「試作至上主義」や「勘と経験」に頼る風土が根強い業界も多く存在します。

その中でCFDを現場に導入するには、3つのポイントが重要です。

1. “体感”できるアウトプットに落とし込む

シミュレーション結果はCG画像や流線ではなく、現場作業者が見て「これなら分かる」「納得できる」アウトプットに変換します。

現場で使う専門用語や測定データと紐付け、「この場所で◯度下がった」「このタンクのここが渦だった」と生データで伝えます。

2. 現場のキーマンを早期に巻き込む

解析結果を上層部だけに示すのはNGです。

設計者、作業者、保全担当など“現場の語り部”に早い段階で触れてもらい、疑問や指摘を拾い上げて改善ループを回すこと。

中間管理職の理解・巻き込みも成功の鍵です。

3. 小さな改善効果をアピールし続ける

いきなり大規模な設備改革は反発を生みます。

「ファン1台分の電力コスト削減」「排熱ダクト一本の温度分布改善」など、小さな成果を積み重ねて信用を築いていきます。

特に昭和的な現場文化には、“まずやってみせて、見せたうえで語る”ことこそ最大の攻略法です。

まとめ:CFDで開く製造業の新時代—本質は“連携”と“最適化”

CFD(数値流体力学)は、単なるデジタルツールではありません。

私自身、20年以上のものづくり現場経験で痛感したのは、「現場の勘・経験」と「デジタルの客観性」両方の知恵を融合させることの意義です。

失敗や反発を恐れず、現場メンバー・サプライヤー・バイヤーが互いにデータを開示し合い、“より良いモノづくり”のために連携する。

CFDはその共通言語となり、開発スピード、コスト、品質、環境対応すべての課題突破の武器となります。

アナログの美学を大切にしつつも、今こそ一歩進んだデジタル解析で新しい地平線に挑戦していきましょう。

製造業の未来は、みなさん一人一人の挑戦的なマインドと、ラテラルな発想によって切り開かれていくはずです。

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