投稿日:2025年9月18日

製造業が直面する越境EC取引の課題と解決策

はじめに:製造業が越境ECに挑む時代背景

近年、グローバル化の波は製造業にも確実に押し寄せています。
その象徴が「越境EC」、すなわち国境を越えた電子商取引です。
これまで日本の製造業は、卸売業者や商社、代理店経由で海外市場に製品を広げてきました。
しかし、IoTやクラウド基盤の普及、国際物流の進化、そしてコロナ禍を経た購買行動の変化により、メーカー自らが海外ユーザーと直接やりとりする時代が到来しました。
こうした流れを捉えずして、成長のブレーキどころか事業の存続すら危うい——そんな認識が現場にも浸透しつつあります。

しかし一方で、製造業が越境ECに踏み切るには山積する「壁」があります。
特に、昭和から続くアナログ文化や独特の商習慣が根強く残るBtoBの世界では、単なるデジタル化だけでは済まない「深層課題」が存在しています。

この記事では、製造の現場目線から、越境EC取引におけるリアルな課題とその解決策を、現役バイヤーならではの悩みに寄り添いながら、多角的に掘り下げます。

越境ECがもたらす製造現場への具体的な恩恵と痛点

恩恵:市場の拡大・販路の多様化

従来、国内市場の縮小やローカルな価格競争で頭打ちに悩むメーカーも多かったですが、越境ECは新たな販路と顧客層との出会いを生み出します。
特に、中国やASEAN、中東、欧米といった成長市場にタイムリーにアクセスできることは、経営戦略上も魅力的な選択肢です。

また、EC化によって小ロットや多品種少量生産、特注カスタマイズ受注への対応もしやすくなり、「量から質」への転換を目指す現場にも好材料となっています。

痛点:規格・品質・納期の壁

一方で、越境ECに取り組むとすぐさま直面するのが、国ごとの規格(例えばRoHS、CE、UL等)の違いや、文化・言語・商習慣のギャップです。
さらに、メーカー側と現地顧客の間で「品質の捉え方」に食い違いが生じやすく、クレーム増加やブランド毀損リスクも無視できません。

納期トラブルもつきものです。
グローバルサプライチェーンは一度問題が起きると雪だるま式に混乱し、特に中小の現場は人的リソースが薄いため対応力に限界があります。
「そもそも欧州とアジアでは納期遅延に対する感覚が違う」など、経験則だけでは読めない摩擦が起こります。

現場目線で捉える越境ECの具体的な課題

1. 社内体制とデジタルリテラシーの遅れ

製造業、とくに中小企業や歴史のある工場は、アナログからデジタルへの移行が急務です。
受発注や在庫管理、見積もり・納期調整といった重要プロセスがいまだにFAXや電話、手書き台帳で管理されている現場も珍しくありません。
こうした体制だと、越境EC化に伴い発生する多国籍・多通貨・多言語の処理に即座に対応できません。

現場担当者のデジタルリテラシー、ひいてはバイヤーや購買チームのITスキルの底上げは、待ったなしです。

2. 国際決済・税務・法規制対応の煩雑さ

現地通貨での支払いや国際物流費、VAT(付加価値税)対応など、経理・法務も煩雑になります。
これまで海外取引は商社任せだったため、自前で“国際会計”や“法規制チェック”を行うリソースがそもそも不足しています。

万一、輸出した製品がCE規格に抵触して賠償リスクが生じた場合の備え、保険、紛争処理も重要です。
ここを軽視すると、信頼失墜の一途をたどるでしょう。

3. マーケティング・ブランディングの難しさ

越境ECでは見込み顧客へアプローチするために、現地語でウェブサイトや商品紹介、カタログ制作が不可欠です。
さらにSEO対策、SNS運用、現地展示会の活用など、総合的なデジタルマーケティング力が求められます。

「日本製なら売れる」という時代は終わりました。
現地バイヤーの信頼獲得には、顔と名前の見えるサポート体制も評価されます。
機械や部材に何を期待するのか、その国の産業トレンドや競合事情も押さえながら、トータルにブランドを作る意識が必要です。

ラテラルシンキングから導く解決策の新地平

1. パートナーシップ型DX推進を”現場で”始める

デジタル化は大きな投資が必要、と思われがちですが、すべてを内製化する必要はありません。
むしろITベンダーや専門コンサルと現場が一体となった“伴走型DX”がカギです。

例えば、既存の生産管理システムと連動する海外EC対応クラウド(在庫・受発注プラットフォーム)を活用し、少人数チームでもミスなく多言語案件を回せるワークフローを構築します。
これによりバイヤーは現地情報をリアルタイムで拾い上げ、成功事例を横展開しやすくなります。

2. 国際法務・物流ネットワークの「共同体化」

小規模メーカーやサプライヤーは、単独で国際物流や関税・法規制対応を完璧に運用するのは困難です。
そこで、同業者団体や地域商工会、業界プラットフォームが「共同物流」「共同通関」「法規制の情報発信」を提供する形態が有効です。

中立的な第三者機関・協業体での“ハブ機能”によって、多様な国際取引を事故事例や規制変更も含めてシェアできれば、現場のリスクは大きく軽減されます。

3. ニッチ&ハイパーオーダーメイドで現地化を突破

大手が参入しづらいニッチ商材や、高度な技術・特注対応可能な高付加価値品では、日本の中堅・中小現場にも勝機があります。
現地エンジニアやユーザーとオンライン会議・チャットツールで密にやりとりし、カスタマイズや現地フィードバックを即時反映できる仕組みを磨くことで、競争力が高まります。

このような“小回り型現地化”は、大手には難しい柔軟対応となり、信頼を得やすいポイントです。

4. デジタル&アナログ融合の「現場コミュニケーション」

越境EC時代でも、人と人との信頼関係は依然として重要です。
オンラインツールを駆使しつつ、「現地展示会への出展」「現地パートナーとの協業」「サンプル提供・現地メディア発信」など、従来のアナログ手法も巧みに組み込みましょう。

実際、生産現場の写真や動画、Q&A、メンテナンスや現地教育サポート動画の展開は、欧米よりも新興国市場でより高く評価されます。
“アナログの良さ”と“デジタルのスピード”を両立させるラテラルな発想こそ、競争を勝ち抜く力になります。

現場で今から実践できるアクションリスト

1. 越境EC向けの多言語商品カタログ、FAQの整備
2. 海外仕様(認証・規格)の早期情報収集と仕様書管理体制の構築
3. 社内バイヤー・購買担当のDXスキル研修の導入
4. 海外ユーザーとのサンプル取引簡易化プロセス(小口配送、決済ツールの導入)
5. 国内外の展示会・商談会へ担当者を派遣し、生のニーズを集積
6. 地域産業クラスターや商工会が提供する「共同海外進出支援」の活用

まとめ:粘り強く、しなやかに現場は変われる

製造業にとって「越境EC」は、単なるオンライン販路の拡充ではなく、現場そのものの再構築を意味します。
多くの課題が一気に押し寄せ、一朝一夕にすべてを解決することはできません。

しかし、現場と経営・ITが一体になり、協力しながら小さく始めて成果を重ねることで、昭和的なアナログ思考から未来志向への転換は実現できます。
バイヤーとしての視点、サプライヤー・工場現場としての知恵、それぞれの持ち味を活かしながら、粘り強く変革を進めていきましょう。

今後も現場からのリアルな声を共有し、製造業界全体の持続的な発展につなげていきます。

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