投稿日:2025年12月21日

抽出装置用交換部材の共通化が進まない現場の課題

はじめに:なぜ抽出装置用交換部材の共通化が進まないのか

製造業の現場では、抽出装置に代表される各種専用機械の交換部材の共通化が進めば、調達コストの削減や工程の標準化、在庫削減など多くのメリットがあります。

しかし、現実には「同じ機能の装置が並んでいるにもかかわらず、わざわざ別規格の部材を採用」「メーカーごとにバラバラな交換部材が倉庫を圧迫」といった課題が根強く残っているのが実情です。

この停滞の原因や背景を昭和から現代までの業界動向、そして実際の現場目線で深掘りし、今後現場やバイヤー、またサプライヤーがどう対応していくべきかを考察します。

共通化のメリットと現場が抱く理想

共通化のメリットについては、ほとんどの方が以下のような認識を持っています。

コストの削減

大量発注によるボリュームディスカウントや、共通在庫により個別管理の手間が減ることで、全体のコスト削減が期待できます。

在庫・管理の合理化

部品管理がシンプルになり、調達計画や在庫の精度向上、余剰在庫・欠品リスクの低減に繋がります。

保守・メンテナンスの迅速化

交換部材が共通化されていれば、トラブル時の対応時間が短縮し安定稼働の維持が容易になります。

これらは「理想的な工場運営」の必須要素であり、多くの現場管理者が理解し、行政もガイドラインなどで推奨しています。

昭和時代から続くアナログな「個別最適」の壁

では、それほどまでに明白な利点がありながら、なぜ進まないのでしょうか。

その背景には、戦後日本のものづくり産業が歩んできた固有の「個別最適」文化が色濃く影響しています。

専用機・独自仕様・現場職人気質

昭和の高度成長期、現場ごとに「うちのラインはこうだ」「この装置は〇〇社のカスタムだ」と特注仕様を深掘りし差別化することで、競争力や高品質を示してきました。

導入初期の「現場適合化」を優先する企業文化が根付いた結果、同じ設備でも細部のパーツや運用が微妙に違い、管理番号だけでは判断できない部品も増加。
これが現場の「個別最適」状態の温床となりました。

長期安定運用を重視する文化

生産設備を20年以上使う企業が珍しくない製造業界では、「元の設計通り維持する」ことが現場の安全運転・品質保証に直結すると信じられています。

たとえ新しい共通部材が流通しても、「もし本番運用で不具合が起きたら」「保証が効かなくなったら困る」といったリスク回避思考が強く、変更や置換には及び腰になりがちです。

古い壁…「図面がない」「設計者がもういない」

更に、現場では過去の設計者や主担当が定年退職した後、「なぜこの部品なのか」を誰も説明できない状況も珍しくありません。
こうした背景が、「なんとなく現状維持」の温床となり、共通化の実現を妨げているのです。

メーカー側サプライヤーの事情

共通化が進みにくいのはユーザー側だけの問題ではありません。

独自規格で囲い込みたいサプライヤー

サプライヤーにとっても「自社専用品」として指定され続けることで安定需要が確保でき、安定収益につながります。
積極的に共通品・標準品をアピールせず、他社と横並びになることを避ける傾向が強くなりがちです。

在庫管理や製造負担の問題

サプライヤーにとっても、過去の受注生産の経緯から、多品種少量の生産体制ができあがっている場合が多く、一気に共通化にシフトすると工場内の運用や在庫負担が激増する懸念もあります。
いざという時の責任回避のために「現有のままで」という防衛意識が働くのもよく見られる光景です。

調達・購買部門の現場課題と突破口

こうした現場文化やサプライヤー背景を把握した上で、調達・購買部門がどうアクションを起こせるのか、バイヤー目線で深掘りしてみます。

現場ヒアリングとサプライヤー意識改革

まず重要なのは、自社内の現場ヒアリングの徹底です。
共通化の必要性が薄い、または障壁と感じている要素(例:過去トラブル歴、不安材料等)を現場の声として詳細に聴取することで、現場の理解と協力を得やすくなります。

次に、サプライヤーへの協力要請が不可欠です。
単に「コストを下げたいから共通化を頼む」ではなく、「調達効率化を一緒に目指したい」「将来的な取引拡大を視野に」といったWin-Winの関係を示すことが大切です。

小規模・段階的な標準化から着手する

すべてをいきなり共通化することは現実的ではありません。
まずは消耗頻度が高くリスクや影響の小さい部品から段階的にスモールスタートすることで、現場に新たな運用のクセやメリットを定着させやすくなります。

例えばモーター・センサー・フィルターなどメンテ頻度が高く、互換性が高いアイテムから始めるアプローチが効果的です。

データベース活用と見える化の推進

現場で「なぜ使われているのか不明」な部品を特定・整理するには、デジタル技術の力が有効です。
全交換部材の型番・納入履歴・使用機械といった情報をデータベース化し、過去の導入理由や頻度の可視化を行うことで「何が共通化できるか」が見えるようになります。

これは現場間の連携不足や人事異動、技術伝承のギャップを補う新しい仕組みとして、現場力を底上げします。

サプライヤーの視点「バイヤーが求めているもの」とは

サプライヤーの立場から見ると、バイヤーが共通化を重視する理由はどこにあるのか、どう提案すれば受け入れられやすいかが重要です。

トータルコストの重要性

多くのバイヤーが「単価」だけでなく「トータルコスト」(発注・在庫・スペース・メンテナンス・納期管理の手間も含めた総合コスト)で購入を検討しています。

そのため、「標準品に置き換えれば単価以上の全体コスト削減が見込める」「管理が簡単になりトラブル時の納期対応に貢献できる」といった提案が強力な説得材料になります。

【事例重視】現場メリットを数値で示す

「すでに他社で共通品化が進み、〇〇万円コストダウンできた」「発注の工数が半減した」など、具体的な事例データも現場を動かす大きなカギです。

自社の付加価値や、将来的なアフターサポート体制も含めて「任せて安心」の姿勢を具体的に伝えることで、バイヤーとの信頼関係が築かれます。

今、求められるバイヤー像と未来への転換

昭和~平成の個別最適時代を経て、令和のものづくりは「全体最適」が主流となりつつあります。

現場を巻き込むコミュニケーターへ

単なるコストカッターや資材担当ではなく、現場とサプライヤーの課題や本音を丁寧にくみ取り、「みんなの最適解」を考え抜ける調整型のバイヤーが求められる時代です。

最新のデジタル技術や管理ツールを使いこなしつつ、現場・サプライヤー・経営層の橋渡し役「翻訳者」としての役割がポイントとなります。

共通化とイノベーションの両立

標準化・共通化だけを追い求めると逆に現場の柔軟性や創造性が失われる危険性もあります。
重要なのは「攻めの差別化」と「守りの共通化」をバランス良く両立すること。
装置の選定や運用方針を柔軟に見直しつつ、製品力や工程改善の本質的な強みにつなげる発想が今後のバイヤーには不可欠です。

まとめ:現場の常識を超え、真の全体最適を目指す

抽出装置用交換部材に限らず、製造現場の共通化は古い慣習や既得権、文化的要素など多くの壁に阻まれています。

しかし、現場の細やかなヒアリングと段階的な実績、サプライヤーとバイヤー両者の視点に立った全体最適アプローチでその壁は必ず乗り越えられます。

これから現場改善やバイヤー職を目指す方、またサプライヤーとして現場ニーズを読み解きたい方は「なぜ共通化できないのか」の本質を理解し、現場で実践していくことが製造業の新たな価値創造の第一歩となるはずです。

日本の製造業の進化を現場から、そして業界全体から支えていきましょう。

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