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調達KPIが形骸化し改善が進まない企業の特徴

目次
はじめに:調達KPIの形骸化がもたらす課題
調達購買部門の業務効率化や戦略的な意思決定を進めるうえで、KPI(重要業績評価指標)は欠かせません。
KPIは企業が目指すべきゴールや、調達活動がどれくらい機能しているかを可視化し、適切な改善につなげるための羅針盤です。
しかし、多くの製造業現場ではこのKPIが単なる数字の羅列となり、現場の実態とかけ離れた「形骸化」が起こっています。
KPIが本来の役割を発揮せず、業務改善に直結していない企業では、どのような特徴や背景があるのでしょうか。
本記事では、20年以上製造業の現場で培った知見をもとに、調達KPIが形骸化してしまう企業の共通点とその背景、そして具体的な改善へのアプローチについて、現場目線で深掘りします。
よくある調達KPIの例と形骸化の兆候
代表的な調達KPIとは
調達購買部門でよく用いられるKPIの例は、以下の通りです。
・購買単価の低減率
・調達リードタイム
・サプライヤー納期遵守率
・不良品率
・購買プロセスの標準化率
・調達先集中度
・CSRやグリーン調達対応率
KPI導入時には各指標が部門目標とリンクし、従業員の意識も高まります。
ところが、数年経つと「毎月、目標値との差分を入力するだけ」「進捗報告が目的化する」といった、いわゆる“形骸化”が始まります。
KPI形骸化の兆候
形骸化している企業によく見られる具体的な現象には、以下があります。
・KPI入力や報告がルーチンワーク化し、振返り・改善につながっていない
・目標数値自体が形だけで、現場での“腑に落ち感”がない
・「KPIのための施策」だけが増え、本質的現場改善に結び付かない
・経営層や上司の理解が不十分で、現場と温度差がある
・KPIに現場課題が反映されず、数値と現実の乖離が開いている
調達KPIが形骸化する企業の特徴
1. 目的と手段が逆転している
KPIはあくまで業務改善の“手段”であり、その先に経営成果や現場課題の解決という“目的”があるべきです。
しかし、多くの組織でKPIレポートや進捗会議自体が主要業務となり、その数字を“作ること”が日常化しています。
現場スタッフは「KPIの数字を守ればいい」「評価されるために達成せねば」という心理が先走り、本来KPIが促すべき改善アクションが後回しにされるのです。
2. 現場とかけ離れたKPIの設計
経営層主導でKPIが設定され、現場実態や担当者の意見が十分に反映されていないケースもよく見られます。
たとえば、“購買コスト5%削減”と高い目標を掲げても、原材料高騰や為替など外的要因で現実味がありません。
また、新しい調達先開拓や、脱中国リスク分散などの現場要望がKPIに全く反映されないと、現場は目的意識を失います。
このように、現場オペレーションとKPI指標の不整合が組織の士気低下と形骸化の原因となります。
3. 成果と報酬・評価が連動していない
KPIの数値達成と、現場スタッフの評価や報酬とが連動していない職場も形骸化リスクが高まります。
たとえば、“サプライヤーの納期遵守率100%”を目標に掲げても、達成できても人事評価に反映されない、達成失敗でもペナルティも何もない場合、「結局KPIはただの数字」と受け流されてしまうのです。
4. 改善策のPDCAサイクルが定着していない
KPIが形だけ管理されている企業では、“P(計画)”と“C(評価)”までは進んでも、その後の“D(実行)”“A(見直し)”に至らない傾向があります。
レポートやミーティングで問題点が議論されるだけで、実際の現場改善活動や新たな仕組み作りに手が及ばない。
これではKPIの継続的改善(PDCA)は回りません。
KPI形骸化の原因:昭和的な価値観とアナログの壁
属人化・経験重視文化が根強い
製造業、特に長く続く昭和的な企業風土では、KPIのような“見える化”に冷ややかな視線を向けるベテラン層が一定数存在します。
ベテラン担当者の経験則や勘に頼る、あるいは「数字は建前、本音は現場で決まる」という発想が根強いのです。
現場で独自にスプレッドシートやメモ書きで数値を管理し、リーダーが口頭で進捗を把握しているだけの会社もまだ少なくありません。
このような“属人的”“アナログ”な管理手法が、KPIの浸透・活用を阻む最大の壁となります。
現場と経営陣のコミュニケーションギャップ
会社全体では「DXだ!」「データドリブンだ!」とスローガンが飛び交う一方で、実際の現場には「そんな余裕はない」「数字作りだけで手一杯」という本音が隠れています。
経営陣が大上段からKPI目標を押し付けることで、現場が「また無理な要求が来た」と嫌気を差す状況が恒常化し、KPIはますます形骸化します。
ITシステム導入の遅れとデータ連携の不備
在庫管理、発注、サプライヤー管理など各プロセスごとにシステムがバラバラ、紙やExcel伝票運用が主流、複数部門で同じデータを二重三重で手入力…。
こういったアナログ感満載の現場では、KPIの自動集計や可視化が進まず、毎月の数字合わせに追われ続けることになります。
集計作業の多さに現場が疲弊し「KPIって、現場にとってはひたすら面倒な仕事」に成り下がってしまうのです。
調達KPIを現場力向上・企業成長につなげるには
見直すべき三つのポイント
KPI形骸化を脱却し、調達購買部門の競争力強化につなげるために、今こそ以下3つのポイントを見直すことが有効です。
1. KPI指標の“現場発”設計
KPIで最も大切なのは、実際に業務に携わる現場スタッフや中堅リーダーの意見・現場目線を充分に反映することです。
実務者ヒアリングや現場ワークショップを通して、「何が今の実態に即したKPIなのか」「何を数字化すれば働きやすくなるのか」を再度検討しましょう。
たとえば、
・調達リスク(サプライヤー分散率・BCP対応状況)
・見積依頼〜受領リードタイムの短縮度合い
・現場の突発オーダー・緊急度合い
・サプライヤーとの相互評価指標(双方向のNPSなど)
など、現場でこそ実感できる“リアルな指標”を設定し、納得感が得られるKPI運用を構築しましょう。
2. KPIによる成果と報酬・評価の直結
現場モチベーションを高めるには、KPI達成が人事評価や報酬、昇進などにしっかりと反映される仕組みが不可欠です。
達成したチームへの表彰、個人へのインセンティブ、成果が可視化される社内発表、失敗した場合には原因分析とプロセス改善支援、といった施策も実効性を高めます。
3. デジタル活用によるKPIの自動集計・可視化
Excel管理や紙ベースから脱却し、適切なクラウド型調達システムやBIツールを導入することで、月次・日次のKPIレポーティング作業を劇的に効率化できます。
集計労力が減れば、現場は「どうすればKPIが改善するか」という“本質的な議論”や“改善実践”にシフトできます。
昭和アナログ企業と次世代バイヤーの“意識の壁”
昭和から続く日本の製造業では、調達バイヤー自身もまた「とりあえず大手から仕入れるのが安心」という発想で、サプライヤーに新しい提案力や協力チャレンジを求めない姿勢が残っています。
サプライヤー側からすると、「値下げ交渉だけがKPI」になっているバイヤーにはイノベーティブな情報は出しづらいのが現実です。
一方で、世界的サプライチェーンリスクが高まる今、若手バイヤーや海外市場志向の企業では
・パートナーとの共同開発力
・ESG(環境・社会・ガバナンス)調達指標
・協力会社の成長支援KPI
など、これまでとは異なる“新しいKPI発想”が出てきています。
KPIを現場の負担・形骸化ツールから、「現場力とサプライヤー連携力を高める成長ツール」へと進化させることが、バイヤーにもサプライヤーにも求められる時代なのです。
さいごに:KPIは“文化改革”そのものである
KPIが形骸化している、と嘆くだけでは何も変わりません。
KPIとは、人の意識・業務文化・現場改善をつなぐ“企業文化改革”の手段です。
調達購買KPIの再設計は、現場の底力・当事者意識・デジタル活用を融合し、全社での“目的の共有”へと進化させていかなければなりません。
「本当に何を改善すれば経営も現場もラクになるのか」を突き詰める姿勢こそが、KPI活用の第一歩です。
変わり続けるサプライチェーンの時代、一緒に“現場力×KPI力”でこれからの製造業を前向きに変えていきましょう。
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