投稿日:2025年7月11日

CEマーキング対応のための化学物質規制とサプライチェーン管理

はじめに:CEマーキングと製造業の現場に与えるインパクト

CEマーキングは、EU(欧州連合)市場に製品を流通させる際に、その製品が安全性や健康、環境保護、消費者保護など、定められた基準を満たしていることを示すものです。

多くのメーカーにとってCEマーキングは、単なる「シール貼り」ではなく、設計、調達、生産から出荷後の追跡管理まで、すべてのプロセスに大きな影響を与える制度です。

特に、近年重要性が増しているのが化学物質規制への対応と、それに伴うサプライチェーンの管理です。

昭和・平成の製造現場では「図面どおりにつくる」「納期を守る」が最優先でしたが、グローバル化・デジタル化が進む今、求められる現場対応力は大きく様変わりしています。

この記事では、ものづくり現場で実際に生じている課題や悩み、そしてCEマーキング対応に必要な具体策を、リアルな経験に基づきお伝えします。

化学物質規制の動向とCEマーキングが求めること

REACH規則とRoHS指令を中心とした化学物質管理の強化

EUは、製品を構成する全ての部材・化学物質に非常に厳しい基準を設けています。

最も有名なのがREACH規則(化学品の登録・評価・認可・制限)とRoHS指令(特定有害物質の使用制限指令)です。

REACHは、SVHC(高懸念物質)を最大限抑制するために情報公開(SDS)や登録が求められます。

RoHSは、鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB、PBDEの他、2024年現在追加されたフタル酸エステル類なども対象となり、その閾値を超えてはいけません。

なぜ今サプライチェーン全体での管理が必須なのか

一つの部品の「有害物質微量混入」が、完成品全体の「非適合」となり、最悪リコールや出荷停止に発展します。

メーカーだけでなく、Tier1、Tier2、さらに下請け・協力会社まで、サプライチェーンに関わる全ての企業が正しい情報を持ち、透明性ある管理体制を敷くことが必須です。

昭和的な「ベテラン担当者の経験とカン」「口頭伝承」「書類の保管場所がわからない」といったアナログ文化では、グローバル市場の要求に対応できません。

CEマーキング対応の現場課題とよくある“落とし穴”

よくある「うまくいかない」事例

例えば、新たにヨーロッパ向けの事業を始めたA社。

自社図面どおりに組立・出荷していたが、「樹脂部品に想定外のフタル酸エステルが混入」「仕入先から成分証明書をもらったが現物と異なる」など、苦い経験をしたことがあります。

また、部材メーカーB社では、材料サプライヤーのたった1社の切替えで管理できていなかったカドミウムが混入し、EU顧客の監査で差戻し・巨額損失になったことも。

証明資料の“形式主義”が危険なワケ

サプライヤーからの材料証明書、成分分析レポートを単にファイリングして「作業完了」ととらえると非常に危険です。

証明書の原本が古かったり、記載内容が最新の規制と不一致であったり、あるいは現物と証明書に齟齬があるケースも珍しくありません。

「最新の情報を迅速に収集し、全ての部材について“トレーサビリティ”を確保」する仕組みがなければ、規制違反リスクを抱え、最終的に経営を揺るがすミスに発展します。

サプライチェーンを俯瞰する:昭和的商習慣からの脱却

なぜ「質よりスピード」では成り立たないのか

従来の受注・生産管理では「コストダウン」「短納期」「過去実績」でサプライヤーを選定するケースが多く、化学物質管理に関しては「後回し」「工場に任せきり」でした。

しかし、今やREACHやRoHSのスクリーニングが合格しなければEUマーケットには出せません。

裏付けとなるサプライヤーからの情報取得力・交渉力、全供給網を俯瞰したマネジメント力が求められています。

バイヤーはサプライヤーの何を見ているのか

現場経験から言えば、今どきの購買・バイヤーは「単に安く買う人」ではありません。

具体的には
・材料調達先(鉱山・サプライヤー)の透明性
・化学物質成分分析データの妥当性・正確性
・工程管理・変更管理の現実性
・苦情や不具合時のトレーサビリティ対応力

これらを重視し、長期的に「信頼できるサプライチェーンかどうか」を細かく確認しています。

「どんな苦情にも、いつ・どこで・誰が使った材料か即答できるか」
「変更点・新材料への切り替え時、スピーディーに証明書を再取得できる体制があるか」
こうした体制を日常から地道に作ることが、EUに限らずグローバル調達では不可欠なのです。

現場から始める、実践的なCEマーキング化学物質管理法

1.全材料・工程の現状棚卸しと記録化

まずは「サプライヤー任せ」「担当者の属人的管理」をやめ、全材料・部品・工程について
・どこの誰が(会社・現場担当まで)
・どの材料を
・いつどの用途で
・どんな工程で使っているのか

を棚卸しし、データベース化します。

材料情報は、最新SDS(安全データシート)や成分証明を定期(理想は年1回以上)で収集。
もし海外サプライヤーの場合は、現地現物確認も組み合わせたいところです。

2.変更・異常時のトレーサビリティ即応体制

工程内での材料変更、新規サプライヤー採用時はただのコスト計算だけでなく、「変更届」「新証明書取得」「最終製品への影響評価」を必須化します。

また、品質不良・苦情があった場合、一個体ごとに「材料ロット」「生産日」「使用ライン」まで遡れる仕組みが理想です。

こうした管理は、紙ベースでは手間もタイムロスもかかるため、ExcelやSaaSを使った現場でも使いやすいシステム導入を検討してください。

3.社内教育と外部パートナーへの研修

CEマーキングの規制内容や化学物質管理の重要性は、購買担当や品質管理担当だけでなく「現場作業者」にまで浸透させる必要があります。

誤操作や勝手な材料流用など、“現場あるある”を防ぐには、社内Eラーニングや外部講師招致による教育が有効です。

またサプライヤーにも同様の研修情報を共有し、「一緒に守る」意識を、取引開始時から養いましょう。

今後の展望:デジタル活用とグローバル競争時代のサプライチェーン

電子化・自動化で実現する「見える化」と「素早い対応」

今後、工場IoTやAIを活用したサプライチェーン全体のデータ連携が進みます。

リアルタイムで材料在庫や成分証明、異常通知が自動で連携されることで、「証明書探しに1週間」「異常時の現場調査に長時間」などといった非効率を大幅に削減できます。

「リアルタイムのCE適合追跡」
「サプライヤー全体でのデータ一元管理」
こうした仕組み作りは、コスト削減以上にグローバルで“選ばれるため”に必須です。

バイヤー・サプライヤー双方に求められる新たな視点

サプライヤーとしては「うちのコスト・品質は世界に通用する」と自負するだけでなく、「化学物質規制や環境規制」への対応力を新たな付加価値とする視点が大事です。

バイヤーも単なる“コスト査定スキル”ではなく、「サプライチェーン全体の適合性=経営リスクの最小化」こそ現場で意識したいキーポイントです。

今後は「どこで買うか」ではなく「誰とサプライチェーンをつくるか」が差別化の時代になります。

まとめ:日本の製造業が今、踏み出すべき一歩

CEマーキング取得のための化学物質管理・サプライチェーン管理は、「前例主義」や「アナログな属人マネジメント」から、「透明性と即応性」を備えた次世代マネジメントへの転換点です。

製造現場から始められる“地に足の着いた”取り組みこそが、グローバル市場の信用と企業価値につながります。

変化を恐れず、一歩踏み出した現場改善を実践していきましょう。

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