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安価なシステムを選んで高いメンテナンス費用が発生した事例

目次
はじめに
長年製造業に身を置いてきた私が、現場歴20年以上の目から見て「失敗しがちな設備投資」の典型例として何度も直面してきたのが「安価なシステム導入で想定外の高いメンテナンス費用が発生した」事例です。
現場の即効性やコストダウン圧力から、つい初期投資の安さだけでシステムや設備を選びがちな製造業。しかし、後になって「こんなはずじゃなかった」という嘆きの声を幾度も聞いてきました。
この記事では、なぜ安価なシステムが高いメンテナンス費用を招くのか――その原因や業界の根深い構造、そして実体験に基づいた教訓とともに、これから購買・調達担当者やサプライヤー、現場の意思決定層がぜひ理解しておくべきポイントをまとめます。
安価なシステム導入の落とし穴
初期コスト主義の根強い背景と現場心理
製造業、とくに日本の現場には「まずは予算内で何とかする」という文化が固く根付いています。
「今期は設備投資を抑えろ」と経営層から指示が来れば、購買・調達担当としては指示に従うしかありません。
また、設備やシステムの導入において「これまで安いので良かった」という昭和的な成功体験も、現場からよく聞かれます。
特に中堅メーカーでは「同じ機能なのに、A社は○百万円、B社は○十万円。だったらB社でしょ」といった決定プロセスが、打合せの現場で日常茶飯事に繰り広げられています。
“安い=正義”の裏に潜むシステムの現実
実際に安価なシステムは初期投資額こそ低く抑えられます。
しかし、実運用に入った瞬間からトラブルが多発したり、定期的な保守管理が頻繁に、しかも高額で発生する場合も少なくありません。
例として実際に私が直面した事例をお話ししましょう。
ある中規模工場で「工程管理システム」を導入するプロジェクトが走りました。
有名大手の見積は700万円。対して初めて聞く新興ベンダーは破格の180万円。
現場リーダーたちは「この機能なら180万円も出せば十分だろう」と安易に判断し、短期間で稟議も通過しました。
ところが稼働から3か月後、システムが原因不明のエラーで数日間停止。
ベンダーの技術者対応のたびに、1日8万円の出張費用と技術サポート料金が積み上がり、半年も経たないうちに「結局大手より高いコスト」が発生してしまったのです。
高いメンテナンス費用が発生する理由
理由1:部品・技術者の独自性による高コスト化
安価なシステムは、製造・販売コスト削減のために部品の共通化を行わず、独自部品やマイナーな技術が使われていることが多いです。
標準的なPLCやモーターを使えば部品入手も故障対応も容易ですが、独自仕様だと「そのベンダーからしか修理パーツが手に入らない」「保守技術者も限られる」というリスクが発生します。
現場でよくあるのが、設計5年後に「部品が廃番になりました」「担当技術者が辞めてしまいました」と言われるパターンです。
そのたびに高額なカスタマイズ対応や、場合によってはシステムの“総取り替え”にまで発展しかねません。
理由2:ソフトウェアのブラックボックス化
ソフトウェアが“安くて早い”のには理由があります。
現場でのカスタマイズやイレギュラー対応、設定変更が「外部ベンダー依存」、いわばブラックボックス化していることが原因です。
しかも外部への依存度が高まると、ちょっとした変更(例えば帳票の形式変更、検査タスク追加)にも高額な費用がかかり、対応も遅くなりがちです。
自社で運用ノウハウを蓄積しにくいことも、長期的なコスト増と品質リスクにつながっています。
理由3:サポート体制・レスポンスの質
これも実体験ですが、急な生産トラブル時に頼った安価システムベンダーが「当社営業日は平日9:00~17:00のみ」と言われたケースがあります。
月曜の朝にトラブルが発生しても、次の金曜まで技術者が来てくれない。結果、6桁を超える損失が一度のトラブルで発生しました。
大手ベンダー各社は24時間365日体制でバックアップも充実していますが、安価ベンダーでは数人のスタッフが全国を飛び回る体制が多く、レスポンスや品質に大きな差が生まれます。
なぜこうした「安かろう悪かろう」が業界で根付くのか
昭和型アナログ志向と“出入り業者”文化
デジタル化が声高に叫ばれる一方、製造業界の多くはまだ人脈・顔の見える関係重視の“出入り業者頼み”の体質が色濃く残っています。
長年同じベンダーとの取引、「前任者が選んだから」「安かったから続けている」という決定プロセスが、DX(デジタルトランスフォーメーション)の大きな障壁になっています。
購買担当が異動や退職すれば、その理由さえ消えてしまう。結局は「コストが安い」で逃げ切ろうとして、現場にツケが回る構造になっているのです。
業界慣習がもたらす“保守料金ビジネス”の罠
もうひとつ見逃せないのが、業界慣習として「保守・メンテナンス契約」がベンダー側の安定収益につながっているという点です。
導入時に安く、運用後に高く、という価格戦略は“入り口の安さ”で顧客を掴みつつ、定期保守や技術サポートで確実に利益を上げるビジネスモデルに他なりません。
安価ベンダーほど“サブスクリプション型”メンテナンスや、スポット対応の高額化、バージョンアップ強制による追加料金で巧妙に収益化しています。
本当にコストダウンになっているかは、導入1~3年で明暗が分かれるのです。
賢い設備・システム選定のためのポイント
全体コスト(TCO)で判断する
初期投資額だけでなく、運用期間中の維持費用・メンテナンスコスト・トラブル対応費用すべてを「TCO(Total Cost of Ownership)」として比較検討することが重要です。
最低でも5年、できれば7~10年単位で投資回収シミュレーションを行い、「いくらかかるか」だけでなく「トラブル時にどれだけ短時間で復旧できるか」まで見極めることが必要です。
現場オペレーションとの親和性・運用負荷を評価する
安くても現場が使いこなせないシステムなら本末転倒です。
担当者レベルで実際の操作性、トラブル発生時の対応手順、自社人員の教育コストまで事前検証した上でシステム選定すべきです。
私の経験でも、現場訓練・操作教育をベンダー任せにした途端、全く活用されないシステムがガラクタと化す事例が何度もありました。
保守体制・レスポンス・技術継承を重視する
短期安価よりも「誰が」「どのタイミングで」「どこまで」サポートできるかが重要です。
可能であればベンダーから実際の保守担当・技術者を紹介してもらい、過去の対応実績や、今後の技術更新・人員入れ替え計画についても確認しましょう。
まとめ:現場感覚とデータで“賢い選択”を
「安価なシステムを選んで高いメンテナンス費用が発生した」事例は、製造業の現場で今も繰り返されています。
昭和時代からの価格志向、出入り業者文化、安易な判断プロセスから脱却し、現場のリアルなオペレーションとTCO(全体コスト)、保守運営体制をしっかり見極めることが、これからの時代の購買・調達・バイヤーの最大の価値です。
サプライヤー側も、こうした現場目線・長期的な安心感をデータと実績で誠実に伝えることで、昭和型の価格競争から一歩抜け出し、新たな価値提案ができる時代になっています。
激変する製造業界で生き残るためにも、目先の価格より“現場の本音”と“数字に基づいた真のコスト”を軸に、賢くしなやかに設備投資・システム選定を進めて下さい。
あとがき
この記事が、製造現場・購買担当者・サプライヤーの皆さんの意思決定を後押しし、昭和から令和の製造業DX時代への一歩を踏み出す小さなヒントになれば幸いです。
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