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価格だけで判断する発注先がサプライチェーンを壊す構造

目次
はじめに:価格だけが本当に正義なのか?
日本の製造業、とくに昭和から連綿と続くアナログな業界では、「1円でも安く買え」という命題が当たり前のように根付いています。
発注先の評価基準は、まず「見積金額」。
この風潮は、バイヤーや調達部門の多くの担当者の肩に、目に見えないプレッシャーとなって重くのしかかっています。
もちろん、利益を追求する企業においてコストダウンは極めて重要です。
しかし昨今、価格だけで発注先を決める行為がサプライチェーン全体に歪みを生み、重大なリスクとして現実化していることに気づいている人がどれだけいるでしょうか。
本記事では、長年製造業の現場を生き抜いてきた実体験も踏まえ、「価格一辺倒の発注先選定」がいかにサプライチェーンを壊し、そのツケが誰に回るのかを、現場目線で掘り下げていきます。
バイヤーを目指す方やサプライヤーの方も、「発注側・受注側」双方の視点でご一読いただければ幸いです。
なぜ価格重視の評価が定着したのか?
高度成長期の「量と価格」の成功体験
かつて日本の製造業は「良いものをより安く、よりたくさん」作ることが黄金律でした。
調達、購買、生産管理など各部署も、それぞれの指標としてコストが最重要とされてきました。
バイヤーには「価格交渉力こそプロ」という価値観が染み付き、多くのサプライヤーもその土俵で勝負する事が常識だったのです。
KPI至上主義がもたらす弊害
近年、業務の見える化や数値化が進み、KPI管理が徹底されました。
「平均購買単価を◯%下げる」といった目標が人事評価に直結するため、現場担当も仕方なく価格の安いサプライヤーを選ばざるを得なくなっています。
このメカニズムは、組織の“がんじがらめ”ともいえる現実であり、担当者の価値観を硬直化させます。
グローバル化による価格競争の激化
中国、ASEAN諸国などコスト競争力の高いサプライヤーが台頭したことも、価格一辺倒主義に拍車をかけました。
「国内よりも海外が安いなら…」という短絡的な比較が、日本企業における購買現場の判断基準をさらに価格へと偏らせてしまったのです。
安値追求が招くサプライチェーン崩壊の構造
サプライヤーの疲弊と淘汰
受注側のサプライヤーは、見積価格の圧縮要請に必死で応え続けます。
やがて利益率の低下は現場作業者の賃金や設備投資の抑制につながり、「ぎりぎりの綱渡り経営」状態となります。
この結果、ちょっとした需要変動や原材料高騰で倒産・撤退・品質低下が頻発します。
そのたびに元請けは「もっと安い業者」を探すという“負のスパイラル”が発生し、サプライチェーンの根幹が脆弱になっていくのです。
品質トラブルの頻発
安ければ良い、というだけで発注先を切り替えた場合、引き継ぎやノウハウ蓄積まで配慮が行き届かず、品質管理も形骸化しやすいです。
「とりあえず間に合わせる」体質が温床となり、不良率増加、手直し工数の拡大、現場の混乱…といったさまざまな副作用が噴出します。
サプライヤーはぎりぎりのコストで利益を捻出するため、「目に見えない手抜き品質」が混じりこむ危険があります。
これはバイヤーにとっても、最終的には莫大な損失となって跳ね返るのです。
リードタイム・供給安定性の喪失
安価さを求めて海外サプライヤーに依存すると、地政学リスク・物流混乱・為替変動等の影響をもろに受けます。
一例として、コロナ禍やウクライナ情勢で部品が届かず、国内生産が停滞した経験を持つ企業は多いでしょう。
「価格だけで選んだ結果、いざという時に必要なものが手に入らない」状況に陥ったら、短期的に得した数円の安さが、長期的には億単位の損失につながりかねません。
なぜ“価格以外”で選ぶ発注先が必要か
現場力・課題解決力は見積表には載らない
現場でトラブルが発生した際、素早く対応してくれるサプライヤー。
「図面通りにつくるだけ」でなく、改善提案や歩留まり向上で貢献してくれるサプライヤー。
こうした現場力やパートナーシップは、単なる見積金額からは決して読み取れません。
長期的に“良いものづくり”を実現するには、こうした付加価値こそが不可欠です。
持続可能な共創型サプライチェーンづくり
日本の強みであった「現場の擦り合わせ」「改善文化」「協調精神」は、多くがサプライヤーとの密な信頼関係のもとに育まれてきました。
共通の目標を持ち、持続的に成長できるパートナーを厳選し、コスト・品質・納期・柔軟性といった多角的な観点で最適化したサプライチェーンこそが、これからのものづくり企業に求められているのです。
これからサプライチェーンはどう変わるべきか
「安かろう悪かろう」から「価値で選ぶ」時代へ
価格だけの短絡的な判断基準から、「なぜこの業者に任せるか」「一緒に成長できる理由は何か」を明確にし、BOM(部品表)には載らない本当の価値を評価する視点が不可欠です。
たとえば、「リードタイムの柔軟対応」「現場での即応力」「改善提案力」「工程設計からの関与」「災害時の迅速な供給」など、実際に組織で効果を発揮する重要な要素に着目しましょう。
KPI、評価制度の再構築
人事評価も、単なる購買単価だけでなく、QCD(品質・コスト・納期)全体の最適化や、危機時の調達対応力など多面的な指標をバランスよく組み入れることが必要です。
「安く買えば評価が上がる」から「リスクや繁忙期に強い体制を作れる」へ、価値観そのものの再構築が求められています。
サプライヤー側の視点:バイヤーに伝えたいこと
サプライヤーは単に「安く作る工場」ではありません。
技術者のノウハウ、協力会社との連携力、材料調達から物流までの現場対応力。
それら全体が企業の競争力へと結びついていきます。
見積価格が多少高くても、「なぜこの業者が選ばれるのか」を常に示し、現場の声・困りごと・努力をきちんと伝える力が求められます。
また、単なる値引き要請については、最終的には供給停止や品質問題につながるリスクを冷静に説明し、「共に生き残るために必要な価格妥当性」についてバイヤーと対等に議論していくことが重要です。
バイヤーを目指す方へ:本当のプロとは何か
価格交渉だけがバイヤーの仕事と思っている人もいるかもしれません。
しかし、サプライチェーンの持続性、現場の安全網、万一のBCP(事業継続計画)までトータルで仕組みを考え抜き、企業全体を守るのがこれからのプロバイヤー像です。
一時的に数字が上がっても、それがサプライヤーの消滅や品質不安など形を変えて返ってこないか。
「得した気分」が未来のツケを膨らませていないか。
不断の問いかけと、多面的なバランス感覚を培ってほしいと思います。
まとめ:形だけのコストダウンから脱却しよう
「とにかく安いところに頼む」という発注が、企業のためになる時代は終わりました。
昭和の成功体験から抜け出し、価格以外の“見えない付加価値”にもしっかり目を向けること。
サプライチェーンは、一度途切れると元には戻せません。
いざという時に頼れる現場力や共創力を大切にし、バイヤー・サプライヤー双方が真のパートナーとして新しいものづくりの地平を切り拓いていきましょう。
今こそ、価格だけでサプライチェーンを壊す構造から、現場主義・価値主義の真の共創体制へと舵を切る時です。
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