設計リソース不足で新製品開発が遅れる慢性的ボトルネック

はじめに：なぜ設計リソースが慢性的に不足するのか

設計リソース不足は、多くの製造業で新製品開発の大きなボトルネックとなっています。

昨今のグローバル化や顧客ニーズの多様化、短納期化競争が激しさを増す中、設計部門へかかる負担は年々高まっています。

一方で、設計者の数は簡単には増やせず、特定分野の高度な知識や経験を持つ人材は非常に限られています。

「人がいないから設計が進まない」「設計の遅れがしかたなく生産全体に響く」といった声は、昭和時代から現代にかけていまだに聞こえてくる課題です。

この記事では、現場でよく見られる設計リソース不足の実態と原因、そして企業がとるべき対策を、私の実務経験も交えながら深掘りしてお伝えします。

設計リソース不足が引き起こす現場のリアルな問題

1. 開発リードタイムの長期化

設計者が足りないと、一つ一つの設計案件は「掛け持ち作業」となり、遅延が必然的に発生します。

また、設計と生産技術、品質保証など複数部門による同時並行的な工程進行もうまくいかず、全体のリードタイムが延びてしまいます。

結果として、競合他社に後れを取るリスクが増大します。

2. 設計現場の属人化と品質リスクの拡大

社内で設計ノウハウが十分にマニュアル化されていない場合、ベテランエンジニアの個人的な経験や勘に頼りがちです。

設計担当が変わるたびに引き継ぎロスが生じたり、設計品質にばらつきが出てしまうのも、リソース不足と人材育成の遅れが関係しています。

さらに、小規模な設計担当者チームだと、多能工化や交代要員の確保も困難です。

3. サプライチェーン全体への波及

設計遅延は、調達や生産計画、納品スケジュールすべてに影響します。

サプライヤー調整の遅れや、試作部品の追加発注・改訂が頻発し、仕掛品・在庫の増大や無駄なコスト発生につながります。

社内外のバイヤー視点では、「設計情報が出てこない」ことそのものが意思決定遅延の最大ファクターとなります。

なぜ昭和から抜け出せない？アナログ的な設計業務プロセス

1. 図面管理と情報共有の遅れ

歴史あるメーカーほど、2D紙図面ベースのやりとりや、設計変更がExcelや紙ベースで管理されているケースが今も散見されます。

設計部門は「繁忙期に頼れる若手がいない」「ツールやシステム移行は手間がかかる」という理由で、新しいITやデジタル設計プロセスの導入に二の足を踏みがちです。

現場のストレスの多くは、IT化遅れによる非効率コミュニケーションに起因します。

2. 部門間サイロ化の根深さ

開発・設計・調達・生産管理などが縦割り組織で構成されている企業では、設計情報が部門内に閉じてしまい、全社的な最適化が図れません。

現場で「調達に早く図面を出して！」と何度も催促されながらも、設計部門は「品質が確保できるまで妥協した図面は出したくない」というスタンスでストップがかかることが往々にしてあります。

これもサイロ化とコミュニケーションの課題です。

現場が抱える設計リソース不足の「本質的な要因」

1. 経験者の高齢化と若手人材不足

昭和時代から続くベテラン設計者の大量退職が加速しており、即戦力となる若手人材の確保が難しい状態です。

一方、設計職は「ハードで激務」「応用がきかない」などの理由から、理工系学生からも人気が低くなっています。

その結果、ノウハウ継承の失敗や人員配置の硬直化が進み、慢性的な設計リソース不足につながっています。

2. 増加する多品種・短納期・高付加価値化への対応負荷

仕様変更・バリエーション展開、案件ごとカスタマイズ要求など、従来にはなかった負荷が設計現場には日増しにかかっています。

それに伴う開発フェーズの複雑化も、人手が必要な要因となっています。

3. IT・DXの導入に対する現場抵抗感

自動設計支援ツールや3D CAD、PLM（プロダクトライフサイクル管理）システムなどが普及する中でも、現場は「使いこなせない」「今までのやり方のほうが安心」といったアナログ志向に寄りがちです。

結果として、IT投資対効果が限定的になり、設計現場の生産性は大きく改善していません。

バイヤー目線とサプライヤー目線、双方が知っておきたい設計リソース問題

バイヤーにとってのリスク：調達時点での設計不確定要素

設計が確定しないと見積や発注、それに続く生産準備に移れません。

開発案件が波状的に重なる場合、設計側のリードタイム見極めが甘いとサプライチェーン全体に一直線で影響が波及します。

「設計が遅れる=納期やコストが後ろ倒しになる」のは当然ですが、現場経験が浅いとこのリスク感覚が薄くなりがちです。

サプライヤー目線：遅延リスクと見積・生産計画困難

サプライヤーは設計図面の最終確定が遅れると、材料手配・工程設計・品質計画など事前準備がいっさい進められません。

設計変更が多発する案件だと、そのたびにリソースを再配分したり余剰在庫を持ったりする負担が増えます。

設計リソース不足は、発注側だけでなく、受注側サプライヤー全体にも広範な影響を及ぼします。

強固な設計組織を実現する：現場目線の打開策

1. 設計人材の多様化と外部連携（協業）の促進

社内リソースに拘るのではなく、CAD設計外注やフリーランス設計者の活用、海外設計拠点との連携など、柔軟なリソース活用が効果的です。

外部専門企業とパートナーシップを構築することで、設計負荷を分散できるだけでなく、最新ツール・技術の導入促進にもつながります。

2. 設計業務の工程分割・標準化とIT活用

設計プロセスを機能単位で分割し、繰り返し業務やルーチンワークは自動化・標準化する方針を鮮明に打ち出します。

3D CADによる設計自動化や、設計変更のトレーサビリティを確保するPLMシステム、RPA（Robotic Process Automation）など、業務効率化ツールの戦略導入が今後の成否を分けます。

3. ナレッジシェアリング・教育体制の再構築

属人化を防ぐため、設計ノウハウの「見える化」「データ化」を強力に進めなければなりません。

eラーニングや設計ドキュメントデータベース、設計プロジェクトごとのふりかえり（レビュー会）の実施が重要です。

知識の明文化と仕組みによって、設計人材の流動性や部門横断的なスキルアップも実現しやすくなります。

4. アナログ志向からの脱却：組織文化を変革する

設計リソース不足の本質的な問題は、単なる人員数ではなく「組織の古い体質」「変化への抵抗」が根底にあります。

経営層の強いイニシアチブによるIT化・DX推進、若手人材や外部知見を積極的に取り込む風土づくりが、真の改革につながります。

まとめ：設計リソース問題は製造業発展のカギ

設計リソース不足は、単なる人手不足や現場の都合だけの問題ではありません。

昭和時代的なアナログな業務体制や、組織サイロ化、IT導入への遅れといった企業風土まで根を張った複雑な課題です。

同時に、サプライチェーン全体に影響する戦略課題であり、調達・バイヤー・サプライヤー全員が「設計リソース不足リスク」に敏感である必要があります。

「設計業務の見える化」「標準化・自動化」「人材多様化と外部連携」。
そして「変化を歓迎する組織づくり」が、これからの製造業の新たな競争力となります。

現場目線で率直に言えば、「昔ながらのやり方」にとらわれていては、新製品開発はどんどん遅れていきます。

自分たち一人ひとりが「なぜ今、設計現場にボトルネックが生じているのか」を知り、変革を起こす原動力となっていきましょう。