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次世代パワー半導体の性能を引き出すための実装回路技術と高温実装技術

目次
はじめに:パワー半導体の進化とその意義
近年、カーボンニュートラルや省エネルギーが社会課題となる中、電力の効率的な制御と変換を担うパワー半導体の重要性が飛躍的に増しています。
従来のシリコンに加え、SiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)といった次世代素材の登場によって、より高耐圧・高温動作・高効率駆動が可能になりました。
しかしながら、次世代パワー半導体が持つ性能を最大限に引き出すためには、単純に素子を置き換えるだけでは不十分です。
むしろ、「実装回路技術」と「高温環境下での実装技術」がこれまで以上に重要な検討事項となっています。
本記事では、製造業現場で20年以上向き合ってきた経験をもとに、次世代パワー半導体のポテンシャルを現場目線で引き出すための実装技術と、高温実装へのアプローチを分かりやすく解説します。
バイヤー志望者やサプライヤーの立場からもバイヤーの「求める技術」への視点を盛り込み、現場や経営層で今後「何を準備すべきか」をラテラルに考察します。
次世代パワー半導体の特徴と課題
1. SiC・GaNがもたらすゲームチェンジ
SiCやGaNを代表とするワイドバンドギャップ半導体は、従来のSi半導体と比べて
・耐圧が高い:1,200V、3,300Vクラスも容易に実現
・動作周波数が高い:数百kHz~MHz級
・高温動作が可能:175℃〜200℃以上でも動作安定
・低損失:熱発生抑制→小型・軽量設計
などのメリットがあります。
自動車のEV化、産業用モーター制御、基地局や大規模電源への応用など、用途はますます拡大しています。
2. 現場に立ちはだかる新たな壁
一方で、SiCやGaNはSiデバイスと同じ設計思想の流用では本来の性能を活かせません。
主に以下の点が課題になります。
・パッケージや配線に生じる寄生インダクタンスの影響拡大
・高速スイッチングに伴うノイズ・EMI対策の複雑化
・高温環境でのはんだや樹脂封止材の信頼性低下
・パワーモジュールや基板材料の熱設計の高度化
従来の「昭和のものづくり的」な勘と経験だけでは、次世代半導体の安定実装は難しくなっています。
実装回路技術の進化が“肝”となる理由
1. 配線インダクタンスが引き起こす現象
SiCやGaNはスイッチングの立ち上がりや立ち下がりが非常に速く、数ns(ナノ秒)単位でオンオフします。
この時、モジュール内部だけでなく外部回路のパターンやワイヤなど全てが「インダクタンス=ノイズ源」となり、
・Vdsピーク(サージ発生)
・リンギング(不安定挙動)
・誤動作や素子破壊
を引き起こしやすくなります。
実際、ラボレベルの実験では理論通り動作しても、量産現場で回路・配置設計を見直さないと歩留まり・信頼性低下を招く、という事例は枚挙に暇がありません。
2. 配線・パターン設計の最適解
対策として、現場では次のような「工夫」を実践しています。
・パワーループ(電源-素子-GND)の配線徹底最短化
・2層/多層基板とパワー/信号分離レイヤ採用
・FPCや重銅基板、低誘電材料の積極活用
・EMI対策のためのガードリングやフィルタ配置最適化
このような細やかな配線改善が、素子スペック以上の“体感性能向上”につながります。
購買担当・現場レベルでも「仕入先は実装回路ノウハウを持っているか?」が選定基準となりつつあります。
高温実装技術の最前線とその要求
1. 高温対応“はんだ”技術
従来のSn-PbやSn-Ag-Cuベースのはんだでは、次世代パワー半導体の200℃近い動作温度に耐えることが難しくなっています。
そこで現場では
・高融点(鉛フリー)銀系はんだ
・ダイボンディング用Ag焼結材料
・Au-Sn等の新合金
などへの置換が必須となりました。
ただし材料置換に伴い、「はんだ割れ」「熱膨張差による疲労」「コスト増加」など新たな課題も発生しており、調達部門と開発部門の連携もますます重要になっています。
2. 基板・パッケージの進化
高温大電流を流す基板には、
・窒化アルミニウム等の高放熱セラミック
・厚銅メタル基板(1.6mmなど)
・金属ベースのインターポーザ
・高耐熱性エポキシ・ポリイミド/シリコーン樹脂封止
の採用が増えています。
ここでも従来サプライヤーの「供給安定性」「実装容易性」「トラブル時の対応力」など、“昭和的”な基準でしかサプライヤーを選んでいない場合、真の競争力維持が難しくなる場面が出てきています。
現場・バイヤー・サプライヤー視点から見た実践的取り組み
1. バイヤーの業務高度化と「隠れたリスク」
調達部門に求められるのは、単価交渉だけでなく「供給元の技術評価力」です。
例えば、
・“どの程度パッケージ設計ノウハウを持っているか”
・“不具合情報やフィードバックが速やかにあるか”
・“高温焼成など変種変量へどこまでついてこれるか”
が問われます。
またアナログ的な業界慣習に引きずられて「定番サプライヤー」一辺倒だと、部品供給途絶・技術陳腐化の“隠れたリスク”につながります。
設計部門・生産管理部門と密に連携し、「技術力を見抜ける目利き」が今後ますます求められます。
2. サプライヤー側の「付加価値力」アピール
一方、供給側(サプライヤー)は、自社の“実装技術・高温対応力”をどこまでアピールできるかが勝負所です。
「うちは昔からやってるから大丈夫」式ではなく、
・基板パターンや焼結プロセスの最新ノウハウ提案
・現場トラブルへの実績と改善力
・技術開示のスピード感や柔軟性
これらを提示できる企業が選ばれやすくなっています。
また、調達バイヤーが「なぜこの材料・工法なのか」を説明できる提案力(教育支援、データシート整備等)も実は差別化要素です。
3. 「現場の実践知×異業種」融合のすすめ
特に重要なのは「昭和の現場ノウハウ」と「デジタル設計・解析」の融合です。
例えば、
・車載用ECUメーカーが航空宇宙分野の実装技術を逆輸入
・自動化現場で製造データを蓄積し、設計プロセスにフィードバック
・AIシミュレーションで配線インダクタンスや熱応力を徹底的に可視化
こうしたラテラルな思考が、次の製造業ムーブメントを生み出します。
まとめ:次世代への橋渡しは“現場力強化”から
次世代パワー半導体は単なる「部品置き換え」ではありません。
現場設計・実装・調達・サプライヤー各層が「現場目線の知恵」と最新技術を横断的に融合させることで、その性能は最大化されます。
今こそ、
・配線や実装の「真の最適解」を追求するエンジニアリング思想
・技術評価・安定供給を両立できる調達バイヤーの育成
・サプライヤーと現場のための協創関係
が、業界の未来をひらく鍵となります。
技術の流れは速いですが、現場には「経験知」という圧倒的資産があります。
それを守りつつ新技術を戦略的に取り込み、誰もが“本当に価値あるものづくり”を実践する——。
このラテラルな視点こそ、製造業のサバイバルと発展の最前線だと私は信じています。
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