投稿日:2025年7月9日

回路ノイズ発生メカニズムと低ノイズ設計実践テクニック

はじめに ~現場の視点から回路ノイズを考える~

製造業において電子機器の開発や品質維持は、ますます重要性を増しています。
昭和の時代から続く現場では、いまだに多くのアナログ技術や経験則が根強く残る一方、近年はデジタル化やIoT化の進展と共に、高機能化・高集積化した回路設計が求められています。
そんな中で無視できないのが「回路ノイズ」の問題です。
実験では問題なく動作していた基板が、量産後や他の環境下で突然動作不良を起こすことも、原因を辿ればノイズ由来というケースが非常に多く見られます。

バイヤーや調達担当が購入する部品の選定基準も、近年はコストだけでなくノイズ耐性やEMC対策の有無が重要視されつつあります。
また、サプライヤー側にとっても、顧客であるバイヤーの真意を読み解き、低ノイズ設計のノウハウを提案できるかどうかが受注の分かれ目になる時代です。

本記事では、製造現場での20年以上の知見を基に、回路ノイズの発生メカニズムとそれに対抗するための実践的テクニックを、現場目線・バイヤーの視点・サプライヤーの視点を交えて解説します。

回路ノイズの正体と発生メカニズムを理解する

ノイズとは何か?本質を押さえる

回路ノイズとは、設計・製造された電子回路が本来意図しない、誤動作や機能低下の原因となる「望ましくない信号成分」のことです。
ノイズと一口に言っても、その正体は極めて多様です。
代表的なのはEMI(電磁妨害)やESD(静電気放電)、さらにサージやクロストーク、グラウンドループ由来のノイズなどが挙げられます。

現場では、例えば「制御盤の中でPLCが誤動作した」「タッチパネルが反応しない」「モーターが意図しない回転をする」という事象が、実は配線間の浮遊容量や基板上の未対策パターンによるノイズだった、というケースが少なくありません。

ノイズの発生ポイントを押さえる

回路ノイズは、主に以下のような経路で発生します。

・外部からの侵入(電源ケーブル、通信線、ケースなどから)
・回路内のクロストーク(信号線・パワー線間など)
・電源からの混入(リップル、サージ)
・グラウンド(GND)ラインの共有化によるループ電流
・静電気放電(ESD)などスポット的なノイズ

昭和からの現場では「配線をまとめて束ねる」「どこのラインも同じグラウンドに落とす」などの習慣が、かえってノイズ発生の温床になっている例も多くみられます。

低ノイズ設計のための実践テクニック

基板設計段階でのポイント

1. グラウンドセパレーション
デジタル回路とアナログ回路のグラウンドを物理的・論理的に分離することで、ノイズの伝播や干渉を大幅に抑制できます。
現場では「基板を2枚に分けるのはコストが…」と悩まれる事が多いですが、パターン上だけでもグラウンドセグメントを意識し、デジタル部とアナログ部をレイアウトで分離することが効果的です。

2. 信号線・電源線のレイアウト規則
高速信号と高電力ライン、ノイズに弱いアナログラインは、できるだけ距離を離し、層を分けてパターン配置を行います。
交差が必要な場合は90度で交差させ、長い並走は避けましょう。

3. デカップリングコンデンサ
ICの電源端子近傍には必ず0.1μFや0.01μFのデカップリングコンデンサを配置します。
単なる設計マニュアルのコピペでなく、「なぜここに必要か」を現場でしっかりと伝承しましょう。

4. 配線や部品のシールド
シールドケーブルの採用、パターンや筐体のシールド板設置で、高周波ノイズの侵入・拡散を物理的に遮断します。

部品選定で押さえるべきポイント

・低ESRコンデンサや高リプル耐性の電源ICなど、ノイズフィルタリングに優れた部品を選定します。
特にバイヤー視点では「カタログ値」だけでなく「実際の現場使用実績」「他工場での生産不良対策状況」も重要な情報源となります。

・サージ耐性・ESD保護素子が内蔵されているICやコネクタを選択するのも有効です。
コスト重視ばかりの時代から、「トータルコストダウン」視点でノイズ起因の不良工数・再作業コストを加味した投資が合理的になっています。

工場現場でのノイズ対策事例 ~成功と失敗から学ぶ~

成功事例:ノイズ対策でライン停止ゼロの実現

某自動車部品メーカーの工場では、「設備新設時の通信エラー頻発」に悩まされていました。
原因を現場で丁寧に調査したところ、隣接するインバータ制御盤からのリフトアップノイズが通信線に重畳していたことが発覚しました。

▼対策
・通信ケーブルをシールドタイプへ変更
・インバータと通信盤間に金属シールド板を追加
・アースポイントの集中管理

結果、以後2年以上にわたり、通信由来のライン停止ゼロ・再発ゼロを維持できました。
調達側では、安価なケーブル選定から「高機能なシールドケーブル」への変更に理解を得るため、現場からの実測データを添えた提案が効を奏しました。

失敗事例:グラウンド共用の落とし穴

一方、ある電子機器の製造現場では、コストダウンのため基板上のGNDラインを全て一本化したことで、アナログ増幅回路がデジタルノイズに曝され、量産後に感度不良・誤動作が続発。
「部品はカタログ値通りに選定していた」のに、「配線・GND設計を重視しなかった」ことが重大な教訓となりました。

これからの製造現場とバイヤー・サプライヤーの役割

昭和的慣習をアップデートする発想力

長年「慣習」で回ってきたアナログ主体の現場こそ、ノイズという見えない敵に脆弱です。
例えば「アース線は太ければ良い」「GNDは全部一緒が一番」という先入観こそが、システム全体の信頼性を下げている場合があります。

現場力とは、単なる肉体労働ではなく、「設計の目」「理論と実践の繋ぎ方」「本当に効く対策の妥協なき検証」に蓄積されています。
ベテランと若手、新旧の知見をラテラルシンキングで結びつける力が、今後ますます重要になっていくでしょう。

バイヤー・サプライヤー間で求められるノイズ視点の付加価値

バイヤーに求められるのは、単なるコストダウン提案ではなく、「この環境で本当に誤動作しない製品か?」を見極める現場志向です。
安さのみを追い求めてノイズ耐性の低い部品を選定すれば、結果として不良やクレーム対応コストが膨らみ、会社全体の利益を損なう可能性があります。

サプライヤーは、製品仕様のみならず「現場での組込ノウハウ」や「類似事例での対策ナレッジ」を積極的に提案し、問題解決型のパートナーとして存在感を高めることが求められます。

まとめ ~ラテラルシンキングでノイズゼロの現場を目指す~

回路ノイズは、「部品」「基板設計」「現場施工」「運用保守」と、あらゆる現場で複合的に発生します。
これからの製造現場では、単なる専門知識や経験則だけでなく、「なぜノイズが生まれるのか?」「どこにリスクが潜んでいるのか?」を水平思考—ラテラルシンキング—で探索し、「変えるべきは何か?」に気づく地平線を切り開くことが求められます。

昭和の遺産を活かしつつ、最新の設計理論と現場実践知を統合する──
それこそが、品質・コスト・納期すべてを競争力の武器とする、日本の製造業がこれからも強くあり続けるための“現場力”の本質です。

製造業に携わる皆様、調達購買やサプライヤーの皆様も、是非このノイズ対策の現場知から、次世代のものづくりを拓くヒントを掴み取ってください。

You cannot copy content of this page