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保証範囲外の自然災害損害を請求される問題

目次
はじめに:製造業における保証範囲外損害請求の現状と背景
製造業の現場では、納入品の品質不良や仕様逸脱による損害賠償請求は日常茶飯事です。
しかし近年、台風・地震・洪水・落雷といった自然災害による損害についても、バイヤー(調達担当)からサプライヤー(供給元・下請け)へ請求が持ち込まれるケースが増えています。
従来、自然災害による損害は「不可抗力」として、民法や商取引契約により免責となるのが一般的でした。
ところが、サプライヤーとバイヤーの力関係や、災害頻度の急増、SDGs・BCP(事業継続計画)といった社会的背景の変化によって、保証範囲外にもかかわらず理不尽な請求が現場レベルで横行しています。
本記事では、保証範囲外の自然災害損害請求がどのような実態で起きているのか。
また、その請求にどのように対応すべきかについて、管理職・調達・品質保証の経験をベースに、現場視点で深く掘り下げて解説します。
自然災害による製造業の損害:典型的な発生パターン
自然災害で起こる現場トラブルの具体例
例えば、大雨による冠水で部品倉庫が浸水し、在庫中の製品が水損してしまう。
あるいは、納入直前に工場が地震に見舞われ、設備の一部がダメージを受けて納期遅延が発生する。
落雷や停電で検査装置が誤作動し、不具合品がユーザーへ流出することもあります。
このようなケースで、納入先である大手メーカーや商社から「復旧に要した費用」や「ライン停止による逸失利益」を含む損害賠償請求が持ち込まれる事例が増えているのです。
なぜ保証範囲外なのか
製造業の標準的な個別契約書(基本契約、売買契約)や取引条件書では、不可抗力(force majeure)による損害は「免責」とされるのが一般的です。
不可抗力とは、注意・対策を講じても回避できない「外部要因による事故」であり、自然災害は典型例となっています。
法的にも、この部分を超えて損害賠償責任を負う必要はありません。
それでもなぜ、バイヤーから執拗な「範囲外請求」が続くのでしょうか。
昭和型商慣習と今なお根強い“無理筋要求”の温床
全体最適と協調が美徳だった製造業の時代背景
日本の製造業、とりわけ自動車や電機、機械業界は、戦後の高度成長期から「系列意識」や「下請け構造」が強く根付いてきました。
納品遅れや不良品発生時には、ときに“顧客第一”を掲げ下請け側に理不尽な責任を課す――いわゆる“泣き寝入り”が常態化してきた歴史があります。
自然災害に関しても、「何としても生産ラインを止めるな」「下請けは親のリスク管理までも担え」といった、昭和型の責任転嫁志向が今も根強く残っています。
このため、法的には正当な免責事由でも、業界慣習や系列企業間の空気感で、精神的な圧を掛けてくるバイヤーも存在します。
アナログ業界の“なぁなぁ”対応が生む悪循環
実際の現場では、あいまいな契約書しか交わしておらず、都度電話一本・口頭約束で済ませてしまう企業も多いのが実情です。
こうした曖昧な関係性が「まあ今回だけは…」と一度譲歩すると、毎回のように無茶な要求を繰り返される悪しき慣習を生んでいます。
“泥をかぶることが誠意”とされる職人文化は美徳として語られがちですが、グローバル化の進む現代のサプライチェーンでは大きなリスクとなるのです。
コスト構造・リスク分担のギャップがもたらす摩擦
なぜ“不可抗力”でもサプライヤーに請求が来るのか
バイヤー側から見れば「自社の生産ラインが止まった損害は誰がどう負担するのか」という視点があります。
彼らもまた、上司やカスタマーから“結果責任”を追及される立場です。
保険やBCPでカバーしきれない損失分については、とにかく「どこかに損害を転嫁したい」というロジックで、まずサプライヤーに請求を持ち込みます。
また、SDGsやESG経営が叫ばれる今、「自然災害リスクも見込んで安定供給するのがパートナー企業の責任だ」といった論調も増えています。
“言い値”で払う危険性
こうした圧力に負けて、根拠のあいまいな損害額や、そもそも発生していない間接損失分まで「仕方なく」支払う事例も見受けられます。
一度言い値で応じてしまうと、その後、保険会社からの補償を受けづらくなる上、他プロジェクトや将来取引でも“同じ対応が取れるはず”という前例となってしまいます。
損害請求への現場的対抗策:実践ポイント5選
1. 契約時の範囲明確化と再交渉
まず最重要なのは、契約書・約款に不可抗力条項を明記しておくことです。
「自然災害による損害は免責」と書面で合意し、取引開始後の再交渉の際も必ず協議の場を設けて認識をすり合わせましょう。
「どうせ現場では通じない」と諦めず、社内の法務や上司との相談体制を強化し、担当者だけに責任を押し付けないようにしましょう。
2. 損害額・損失範囲のエビデンス化
請求された場合には「実際に発生した分」の証拠(納品書、検収記録、損害写真、会議録)を詳細に揃え、不当な“盛られた”請求項目が含まれていないか分析します。
また、納品前の工場内事故か、納品後の先方現場保管時か、原因切り分けの証拠も重要です。
可能な限り第三者の証明(保険会社、警察・消防、行政からの災害認定)を活用しましょう。
3. 保険・補償スキームの再確認
工場施設、人員、完成品・途中品など、カバーできる損害保険の加入状況をあらためて整備しましょう。
また、取引先と「連絡フロー」や「リスクマップ」を事前に共有することで、万一時の“お見舞金”や実費分担など、現場同士が納得しやすい枠組みを作れます。
4. 社内報告・エスカレーションの徹底
バイヤーから“圧”が来ても、現場担当者レベルで独断せず、必ず速やかに上層部・法務部門へエスカレーションしましょう。
特殊な大口顧客や、系列親会社からの請求事案では、経営層同士のトップ会談を設定し「全社で対処」の構えを見せることで、無用な譲歩を抑えられます。
5. 継続的な関係維持と“落としどころ”の模索
一方で、過剰な強硬姿勢は将来の取引に悪影響となるため、「実費分は協議の上で一部負担」「次期契約時に価格補正」など、現実的な妥協点を話し合う力も重要です。
相手も困っている“共通の災害被害者”だと理解しつつ、長期的パートナーシップ維持を最優先した解決を図りましょう。
今後の展望:アナログ慣習からデジタルリスク管理へのシフト
昭和型のアナログ商慣習では、“空気を読む”場当たり対応や、担当者の経験や情念に依存した損害調整が幅を利かせてきました。
しかし、これからの製造業はサプライチェーン全体を見据えたデジタルリスク管理・情報共有への移行が不可避です。
自然災害リスクの評価もAIやクラウドを活用し、各社のBCP文書にあらかじめ損害分担ルール・連絡手順を明記しておく。
そんな「新しい地平線」を切り拓く姿勢が、今まさに求められているのです。
まとめ:現場発の実践知が業界の未来を変える
保証範囲外の自然災害損害請求は、契約・慣習・現実の狭間で、現場担当者を悩ませる極めて難しいテーマです。
しかし、過去にしばられて“仕方なく大人の対応”で済ませてしまうだけでは、安定的な企業運営や未来のサプライチェーンは築けません。
契約の見直し、情報の証拠化、相互理解の対話、デジタルツールの活用――。
これこそが、従来の壁を超え、製造業現場の実践知で業界の発展に貢献する第一歩です。
これからバイヤーを目指す方、サプライヤーの立場でバイヤーの思考を知りたい方も、ぜひ“壁の向こう側の景色”を知り、常に新しい解決法と自己革新を探求して欲しい――。
そんな想いを込めて、本稿を結びます。
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