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海外向け契約で求められる“権利と責任の明確化”への備え

目次
はじめに:グローバル化が進む製造業の現場で何が起こっているのか
昨今、製造業における海外進出は珍しいことではなくなりました。
日本国内だけでなく、アジア、欧米、新興国へと販路や調達先を広げる企業が増えています。
その一方で、現場の担当者やバイヤー、サプライヤーの方々から「海外取引はリスクが多い」「トラブルが絶えない」といった声をよく聞きます。
この背景には、“契約”という文化に対する意識や経験の差があります。
特に昭和的なアナログ志向が色濃く残る日本の製造業は、「阿吽の呼吸」や「現場判断」で何とか帳尻を合わせてきた歴史があります。
しかし、グローバル取引では通用しません。
この記事では、20年以上現場で培ってきた知見をもとに、海外契約でなぜ“権利と責任の明確化”が不可欠なのか、なぜ今備えを強化すべきなのかを掘り下げ、具体的な対策までをご紹介します。
なぜ“権利と責任の明確化”が求められるのか
日本と海外の契約文化の違い
日本企業の多くは今も「書面より信頼」「現場で融通」という文化を引きずっています。
一方、欧米やアジアでもグローバルに展開する企業は「契約書第一主義」といって過言ではありません。
約束事は書面に残さなければ“約束していない”も同然、どんな些細な取り決めでも契約書や合意書に明記する――これが標準です。
この違いが、後に大きなリスクへと発展します。
日本的な「協調・阿吽の呼吸・なあなあ」は、海外では通用しません。
相手によっては「契約書に書いてないなら、やる必要はない」と平然と言われます。
その結果、納期遅延・品質問題・支払いトラブルなど、さまざまな形で火種が起きてしまうのです。
どんなトラブルが起きやすいのか?
具体的には、次のようなトラブル・リスクが頻発します。
・品質水準の食い違い
・納期遅延や配送トラブルの責任所在
・知的財産権の侵害や流出
・見積価格と実取引価格の不一致
・不良品対応や損害賠償範囲の不明確さ
・契約解除や変更時のルール未整備
現場で起きている問題の多くは、事前に「書面」で明確化しておけば避けられるものばかりです。
契約実務で押さえるべき“権利と責任の明確化”のポイント
1.なぜ権利と責任を明確にする必要があるのか
権利の明確化とは、自社が何を得る資格があり、何を行使できるか(納期・品質・改良指示・知財など)を定義することです。
責任の明確化とは、自社がどこまで責任を負うか、相手にどんな責任を求めるか(納入責任、品質保証責任、損害賠償責任など)をはっきりさせることです。
これを契約書や合意書、発注書などに明記しておくことで、「言った/言わない」「そんなつもりでなかった」「どちらの瑕疵か」という問題を未然に防ぎます。
2.契約書作成時の鉄則
契約書の雛形はネットや部門で流通していますが、そのまま使っている企業も少なくありません。
しかし、実際の取引内容・仕様・部品・工程・現地事情は千差万別です。
雛形をベースにしながらも、必ず現場の実情や過去のトラブル事例を織り込み、当事者同士でリスクを想定して、具体的に『何が起きた場合、誰が、何を、どこまで責任を負うか』を細部まで擦り合わせましょう。
また、サプライヤー側の立場であれ、依頼側バイヤーの視点を理解し、交渉時に主張できるポイントと譲れない基準をあらかじめ洗い出しておくことも重要です。
3.トラブル時の解決手段・裁判管轄の明記
クロスボーダー取引では、トラブルが国境を越えることが当たり前です。
契約違反時の解決手段(仲裁・裁判など)、その場所(裁判管轄国や地)も、必ず事前に合意しておきましょう。
特に近年は新興国サプライヤーとのトラブルが多発しており、現地での司法システムの違いや、係争リスクも無視できません。
バイヤー・サプライヤー双方の視点で考える“備え”
バイヤーの立場:先手必勝のリスクヘッジ
バイヤーは、単なるコストカットを求めるだけでなく、「将来起こりうる品質・納期・知財・サポート」までを考えた契約設計が求められます。
たとえば「仕様変更・設計変更」の責任範囲を曖昧にしたままでは、完成品トラブルの際に損害が十倍、百倍になることもあります。
さらに、相手サプライヤーの現地事情(賃金高騰・法規制更新・インフラ不備・政変リスクなど)にも目を配り、「想定外」を契約上の条項で吸収できるように備えておくことが重要です。
サプライヤーの立場:自己防衛と持続的取引の鍵
サプライヤー側もまた「お客様の言われるまま」契約を結ぶことは危険です。
輸出規制や製品責任、技術流出防止義務、納入トラブル時の工程保証や費用負担など、リスクを自己責任で洗い直し、譲歩できる範囲を明確にして主張する姿勢が取引の持続性を生みます。
結果として、“無理な要求”が来ても、書面を根拠に防御でき、現場・経営・技術の三位一体で“守り”を固める必要があります。
昭和的アナログ文化が根強い現場での具体的アクション
現場ノウハウの契約条文化
昔ながらの「暗黙の了解」が現場には山のようにあります。
これらを押さえたベテラン社員の経験知を棚卸しし、トラブルの“芽”を契約書やマニュアル・チェックリストに落とし込む作業が欠かせません。
たとえば、
・「検査合格と出荷判定は誰がどこまで行うのか」
・「出荷前検品で発覚した不具合の処置責任と費用負担は誰が持つのか」
・「天然災害や物流障害時の代替措置・リードタイム」
現場の暗黙知を条文に“翻訳”し、全当事者が共通理解できるように工夫しましょう。
デジタル活用による透明性向上
発注・履歴・検品・不良対応などのデータは極力デジタルで残しましょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)のお題目だけでなく、監査・トラブル時に“証拠”として使えるレベルで整備する意識が必要です。
昭和的な紙書類や口頭伝達だと、海外取引では「言った/言わない」がまさに泥沼化します。
これからの海外契約に向けた具体的な行動ポイント
1.契約書作成・チェックの専門スキル化
契約書の作成・レビューを総務部・法務部だけに投げず、実際の現場担当者や技術、購買、品質管理など複数部門と連携してください。
自社の状況に合わせた“現場目線条文”が必要です。
そして、外部の専門家(弁護士、貿易コンサルタント)とも連携し、「うちはこうだから問題ない」という思い込みを打破しましょう。
2.過去のトラブル事例・損害実例の収集と反映
社内外のトラブルデータベースをつくりましょう。
納期遅延、品質不良、知財侵害、契約解除――これらの事例から学び、以後の契約・取引フローに反映する工夫が業界全体の底上げにつながります。
3.教育・啓発と“現場感覚”の醸成
単なる座学にとどまらず、社内研修や勉強会で実際の契約トラブルをロールプレイやワークショップで再現してみてください。
現場での“肌感”のある失敗や、成功体験の共有は「昭和アナログ文化」からの脱皮を促します。
製造・調達・品質管理すべての関係者が「自分ごと」として意識を高めることが、結果的に会社の“守り”の強化になります。
まとめ:海外取引の契約は“現場目線”で磨きあげる
グローバル時代の今、「契約による権利と責任の明確化」は製造業の生命線です。
昭和的な“なあなあ主義”ではなく、現場目線での徹底したリスク想定と備えが、事業の持続・成長に直結します。
バイヤーを目指す方、サプライヤーとして活躍する方、調達購買・品質・生産管理すべての現場関係者の皆様。
現場の知見を“契約”に落とし込み、曖昧さを消し、攻めと守りを磨いていく。
それが、これからの製造業を強くする決め手であると、私は20年以上の現場経験から自信を持って断言します。
あなたの経験こそが、地に足のついた“備え”となり、未来の業界発展へとつながります。
今日から、現場目線で“一歩先の契約文化”を育てていきましょう。
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