投稿日:2025年10月29日

町工場の切削技術を“使いたくなるデザイン”に変えるための共創アプローチ

はじめに――町工場の切削技術を活かすには何が必要か?

町工場の強みの一つは、長年培われてきた切削技術やノウハウです。
しかし、納品実績や高度な技術を有していながら、「なかなか新しい仕事が来ない」「既存顧客からのリピートばかり」という声も耳にします。
なぜ、自慢の切削技術がもっと“使いたくなる”存在にならないのでしょうか。
 
この課題を解決する鍵は、「共創」と「デザイン」にあります。
本記事では、現場目線での実体験をもとに、町工場の切削技術が選ばれる理由を作り出す“使いたくなるデザイン”の作り方、そしてそのための共創型アプローチについて解説します。

町工場の切削技術――その魅力とジレンマ

熟練工の技術と最新設備の融合

町工場では、職人が長年磨いてきた加工技術が最大の強みとなります。
小ロット多品種の柔軟な対応、短納期対応、手作業ならではの精密仕上げ。
加えて、NC旋盤やマシニングセンタなど最新の設備導入も進んできました。
 
しかし、昭和の時代から引き継がれる「言われたものを正確に作る」ことが評価される発想が根付いており、自社技術をどう魅せていくかという視点が希薄になりがちです。

なぜ“技術力だけ”では選ばれないのか

市場には膨大な数の町工場が存在します。
調達担当やバイヤーは、どこも似た技術力に映ることもしばしばです。
「どこに頼んでも同じ」「価格勝負」と認識されてしまうのが、多くの町工場の抱えるジレンマです。
 
大手メーカーの現場を知る立場から見ても、「技術力だけでは選定理由にならない」現実があるのです。
今必要なのは、「使いたい!」「任せたい!」と思わせるデザイン=ストーリーを“共創”で作り上げる視点です。

“使いたくなるデザイン”の条件とは?

機能・形状だけでなく「共感」を生むこと

ものづくりにおけるデザインは、単に外観や形状、美しさを指す言葉ではありません。
“使いたくなるデザイン”とは、ユーザーの潜在的なニーズを掘り起こし、共感を得られる提案力=ストーリー性を持っていることです。
町工場であれば
・なぜこの加工法なのか
・どんな価値を生み出せるのか
・どんな課題を一緒に解決できるか
といった「背景」や「体験」に訴えかけることが重要になってきます。

選定され続ける町工場の特徴

長く付き合ってもらえる町工場には、必ず「その町工場でなければならない理由」が付与されています。
・他社にはない加工ノウハウ
・リードタイムの短縮化や柔軟な対応
・設計段階からの提案と一緒につくる姿勢
このような共創型姿勢こそが、“使いたくなるデザイン”の根底にあります。

町工場×共創アプローチ――新しい仕事を生み出す現場視点

共創とは「情報の見える化」から始まる

共創(コ・クリエーション)は、技術やノウハウ、課題を“見える化”し、顧客と一緒に新しい価値を創り出す取り組みを指します。
受け身ではなく、能動的に自社の強みや課題をオープンに共有すること。
図面の要件やコストだけを議論するだけでなく、「なぜそうしたいのか」「どんな意味があるのか」まで顧客(バイヤーや設計者)と対話することが大切です。

現場から発信するストーリーの重要性

例えば、切削部品に求められる高精度や特性(調質や表面粗さなど)は、現場で培った“さじ加減”に依存することもしばしばです。
ここに「なぜ難しいのか」「どのような工夫をしているか」など背景のストーリーを載せていくと、顧客の共感を生みやすくなります。
そうしたストーリーは、「この町工場とまた一緒にやりたい」というリピートや新規案件につながるフックになるのです。

切削技術を“使いたくなる”提案に昇華させる方法

設計者と現場の壁を壊そう

町工場の現場には、「設計はあちら、加工はうち」と壁を感じている方も多いものです。
ところが、図面どおりに作るだけでは、コストや納期、品質で厳しい勝負になってしまうのが現実です。
 
ここで重要なのは「設計段階から相談できるかどうか」。
たとえば「この面取り、もう少し加工性を考慮できないか」「材料歩留まりを上げる提案はできないか」といった逆提案を惜しまず出すことです。
町工場ならではの発想や経験が、設計者や調達担当者にとって新たな視点や刺激になります。

工場見学・体験ワークショップの価値

町工場が自社の強みや“ここにしかない技術”をPRする最良の手段が、オープンファクトリーや見学会、体験型ワークショップの開催です。
自分たちの現場や工夫を「言葉」や「映像」や「展示体験」で伝える中で、顧客側の開発担当や設計担当、バイヤーの理解が飛躍的に進むケースが多くあります。
 
従来、町工場のPRや営業活動は「下請けだから…」と遠慮ぎみでしたが、今は「共に作る」価値が重要視される時代です。
見える化された現場の知見は、“またこの工場に頼みたい”というファンを増やすことができます。

切削技術を使いたくなるデザインへのラテラルシンキング実践

「なぜこの工法を使うのか?」を逆転させてみる

ラテラルシンキングの活用は、既存のやり方にとらわれない提案から生まれます。
「部品のコストを下げる=材料を変える」「加工時間を短縮する=設備投資」という縦割り発想ではなく、視点をずらしてみましょう。
 
例えば、「一手間増やすことで表面処理工程を省略できる」「廃材を別加工に再利用できる」「機能部品をユニット化してサプライチェーン全体でメリットをつくる」といった多角的な提案が“共創型価値”として評価されることがあります。

他業種とのコラボレーションも積極的に

自動車、医療、精密機器、エネルギー…切削技術は多様な業界で活躍できます。
たとえば、異業種のデザイナーやエンジニアと組むことで、自分たちでは思いつかない発想や新しい用途が見えてきます。
限られた技術だけで勝負しがちだった町工場が、“異分野融合”で脱昭和的アナログを実現するチャンスなのです。

サプライヤーの立場からバイヤーのホンネを考える

バイヤーは「安心」と「発見」に価値を見いだす

バイヤーがサプライヤーに求める最重要要件は「安心感」です。
図面通りの精度、納期厳守、トラブル時の迅速な対応…。
ですが、それだけで差別化する時代ではありません。
 
現場で感じたことですが、バイヤーはしばしば「自分たちも気づかなかったポイントを提案してくれる」サプライヤーに信頼と魅力を感じています。
「前工程とのつなぎ目で発生しやすい不具合通知」や「歩留まり向上案のフィードバック」など、現場視点の発信が評価につながるのです。

“また頼みたくなる”は日々の積み重ねから

業界的に見ても昭和的な「お付き合い重視」文化がまだ多く残っています。
しかし「仕事をもらう」から「選ばれる」関係に進化するには、日常のコミュニケーションや些細な気配りがものをいいます。
こまめな現場報告、異常や課題の早期共有、時には納期に間に合うために突発的な提案…。
こうした積み重ねが、「この会社に頼めば安心」というブランドを形成します。

まとめ――町工場の未来は“共創型のデザイン提案”にある

町工場の切削技術は、ただの加工作業では終わりません。
共創アプローチを意識し、現場目線のストーリーとデザインを一体化することで“選ばれる工場”に変わります。
昭和的なアナログ業界のままでも、ラテラルシンキングや現場発の発信・体験型共創で新しい地平線が見えてくるはずです。
 
サプライヤーはバイヤーの思考を知り、自ら強みを見える化しながら、積極的に共創提案していきましょう。
町工場が持つ可能性が、使いたくなるデザインと共により多くの仕事につながることを願っています。

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