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地方製造業の人材と設備を共有する共創型サプライチェーンの可能性

目次
はじめに ― なぜ今「共創型サプライチェーン」が注目されるのか
近年、少子高齢化や人手不足、設備投資へのリスク回避など、地方の製造業を取り巻く環境はますます厳しさを増しています。
従来型の「自社完結」主義では、もはやグローバル市場で生き残ることは難しくなっています。
そこで今、業界の枠を超えた「共創型サプライチェーン」の構築が注目されています。
共創型サプライチェーンとは、人材や設備といった経営資源を複数の企業でシェアし、互いに付加価値を高め合う新たな協業モデルです。
これは単なるコストダウンやアウトソーシングではなく、能力の相互補完や新たな事業創出を促す“攻め”の取り組みとなります。
本記事では、昭和的な縦割り体質が根強く残る地方製造業において、共創型のサプライチェーンがどのような変革をもたらすのか。
現場目線とラテラルシンキングによる深掘りを通じて、その可能性と実践手法を探ります。
地方製造業が抱える課題と、従来型サプライチェーンの限界
地方の製造業は以下のような共通課題を抱えています。
- 若手人材の確保・育成難
- 先端設備への投資リスク
- 受注波動への対応力不足
- 取引先依存による交渉力の弱体化
- 従来のピラミッド型サプライチェーンの硬直化
これらの背景には、社内にノウハウや設備、働き手が揃っていた「内製・自前主義」の成功体験が根深く残っています。
昭和以来、「自社で抱える=安心・安定」とされてきた業界構造が、人口減やグローバル競争で通用しなくなっています。
自社の人材・設備だけでは、突発的な大口受注や技術変革に即応できません。
結果として、大都市圏や海外企業との競争に遅れを取ったり、受注チャンスを逃すことに繋がっています。
共創型サプライチェーンとは何か ― 単なる外注化との違い
共創型サプライチェーンは、単なる下請け・外注化とは本質的に異なります。
「共に創る」という視点で、様々な経営資源を複数企業で柔軟にシェアします。
人材の共有
繁閑差や繁忙期対策として、他社の専門技術者や熟練工をプロジェクト単位でシェアします。
出向・レンタル・副業マッチングといった手法が活用できます。
設備・工場の共有
高額な工作機械や検査装置、特殊加工設備を共同所有したり、遊休設備を相互に貸し借りします。
中小企業では高額な最新設備を共同導入し、共同利用するケースも増えています。
情報・ノウハウの共有
各社が蓄積してきた技術資料や生産管理システム、品質向上ノウハウを、勉強会やシステム連携を通じてオープンに共有します。
バリューチェーンの再構築・共同受注
「一社完結」ではなく、得意分野ごとに分業し、グループとして一体受注することで受注競争力や納期対応力を高めます。
このように、相補的な関係を築くことで、「個社の限界」と「主従関係」に縛られない新たなバリューチェーンの在り方が実現します。
現場目線で見る「共創」のメリットと、昭和的思考からの脱却
共創の最大メリットは、限られた経営資源を分かち合い、競争優位を生み出せる点です。
1. 繁閑変動への柔軟な対応
生産量の波動や緊急トラブル時に、他社と人員や設備を相互補完することで、ムダな固定費や機会損失を削減できます。
これは「忙しい会社」と「余裕のある会社」の『需給バランス』をリアルタイムで調整する役割も果たします。
2. 最新設備の有効活用と投資負担の軽減
一社だけでは投資難易度が高い最先端設備も、地域内でシェアすれば導入のハードルが下がります。
仕様や導入目的を事前に調整し、多様な生産ニーズへの対応力向上も期待できます。
3. ベテラン技術者・若手人材の相互育成
「隣の会社のベテランから学ぶ」「他社の若手の見学・研修受け入れ」といった仕組みにより、属人化していた経験やノウハウが業界全体の底上げにつながります。
4. サプライチェーン全体での競争力強化
複数社が連携することで、価格競争や納期短縮だけでなく、「地元ネットワーク自体」が顧客への安心材料となり、大手バイヤーとの取引継続や受注拡大につながります。
昭和的思考からの脱却には、何が必要か
“情報開示への抵抗感”“ノウハウ流出の恐怖”“互いに足を引っ張る文化”など、業界の風土的な壁は根深いです。
この壁を乗り越えるには、経営層だけでなく「現場の納得感」と「個別利益への直結」が不可欠です。
ミニマムな実践(小さな共同受注や設備シェア)から始めて業務上のメリットを体感することで、徐々に“互恵信頼”を拡げていくのが成功のポイントとなります。
実践事例 ― 地方製造業における共創の成功パターン
地方のリアルな現場でも、共創は着実に成果を上げ始めています。
事例1. 特殊工程を持つ中小5社による加工センター共同運用
長野県の精密部品メーカー5社は、微細加工や熱処理など個社では導入困難だった先端設備を共同購入し、交代制で利用する加工センターを設立。
繁忙時は他社のオペレーターがサポートに入り“イレギュラー対応”も分担。
稼働率向上と投資コスト分散で高収益ビジネスモデルを構築しています。
事例2. 人材バンクと出向型研修による技術者シェア
愛知県の自動車部品協業組合では「人材バンク」を設立。
特定技能を持つベテランや、即戦力不足の若手技術者を“ジョブローテーション”させる仕組みを作りました。
ピーク時の人手不足解消だけでなく、各社の人材育成や技能継承、さらには労働者満足度の向上にも寄与しています。
事例3. DXを活用した受発注・稼働情報のリアルタイム連携
関西圏の金属加工系サプライヤー連合では、独自開発のクラウドシステムを導入。
各社の設備稼働状況や受注見込みを可視化し、余剰設備や人手リソースを“自動マッチング”。
無理な業務拡大や、ムダな遊休設備の回避、全体最適化を推進しています。
今後の展望 ― バイヤー/サプライヤー双方の立場で考える共創型の未来
共創型サプライチェーンは、バイヤーとサプライヤーという従来の「上下関係」そのものを再定義する可能性を持っています。
バイヤー側から見れば、単なるコスト削減だけでなく、BCP(事業継続計画)対応や多様な技術力確保、スピーディな納期調整のために“地域ネットワーク”全体をパートナーと考える時代になりつつあります。
経営方針やCSRの観点から、「地場の共創グループ」へ優先発注する動きも進んでいます。
一方、サプライヤー側から見れば、従来の受け身姿勢から脱却し、共創グループとして“一社では受けきれない大型案件”や“高難度案件”にも挑戦できる土俵が広がっています。
また、個別では難しかったDX化・品質管理標準化・人材確保のノウハウをグループ内で共有し、全体として「メーカー力」を底上げできます。
さらに、共創を通じて、異業種参入や新規事業創出のシナジーも加速しています。
例えば部品加工会社同士が協働することで、半完成品から完成品まで一貫生産体制を構築し、新規市場参入を果たした例もあります。
まとめ ― 地方製造業「共創」の一歩は、現場から生まれる
共創型サプライチェーンは、単なる生き残り戦術ではなく、激動の時代に適応した「攻め」の経営・現場運営モデルです。
昭和から令和への変化は、トップダウンの号令だけでは起こりません。
大切なのは、現場が「自社の利益になる」「現実的に役立つ」と納得した“小さな共創”から始めることです。
まずは社内外の資源棚卸し、近隣企業との情報交換、協業によるミニプロジェクトなど、できる範囲から「分かち合い」を体験してみてください。
そして、成功体験を業界全体へ波及させていくこと。
この積み重ねこそが、地方製造業全体のエコシステム再構築につながり、ひいては日本のものづくりの未来を切り拓くカギとなります。
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