投稿日:2025年6月25日

塗膜コーティング付着性向上と剥離トラブル未然防止を実現する評価分析手法

はじめに:製造業に求められる塗膜コーティングの付着性向上

製造現場において、塗膜コーティングは製品の耐食性や美観、機能性を左右する重要な工程の一つです。

近年、自動車や家電、電子部品をはじめとした多様な製品に高機能な塗装ニーズが高まっていますが、それに伴い「塗膜剥離トラブル」は現場の大きな悩みとなっています。

現場担当者やバイヤーはもちろん、サプライヤーも「なぜ付着しないのか?」「どうすれば未然にトラブルを防げるのか?」と頭を悩ませているのが実情です。

この記事では、20年以上の現場経験を基に、塗膜コーティングの付着性向上と剥離トラブル未然防止を実現するための「実践的な評価分析手法」を紹介します。

また、現場の実態や業界動向、昭和的なアナログ思考からの脱却ポイントも交え、サプライヤーやバイヤー、製造業に勤めるすべての方に価値のある情報を提供します。

塗膜コーティング付着不良の本質的課題

現場で多発する塗膜剥離トラブルのリアル

塗膜の剥がれや未付着は、自動車外板、家電カバー、建機、電子基板など多様な分野で発生しています。

実際の現場では以下のようなトラブルが日常的に報告されています。

・塗装後数日で発生する部分的な剥がれ
・出荷後のフィールドで発覚した大規模な塗膜浮き
・輸送時の塗膜欠けやクラック

これらのトラブルが発生すると、納入先との信頼関係損失、工場全体の生産性低下、再発防止のための膨大な工数・コストがかかります。

塗膜付着不良の主な原因

塗膜コーティングの付着不良は多岐に渡ります。

主な原因は以下が挙げられます。

・母材表面の油脂・異物付着(脱脂工程の不備)
・前処理や化成処理の最適条件からの逸脱
・クロムフリー化に伴う表面処理の不安定化
・塗料の配合ミス、攪拌・混合不足
・環境変動(温湿度管理不足)
・塗装設備の老朽化や均一性欠如

そして、これら複数の要因が同時に絡み合って「品質課題」として表面化することが現場の困難さを増しています。

昭和のアナログから脱却!現場で根付いている評価方法

旧来の現場評価:目視検査と簡易クロスカット試験

長年、塗装現場や検査工程では目視による外観検査や、ナイフで十字に切れ目を入れてセロハンテープで剥離を試みる「クロスカット法」、またはプルオフ試験(引張試験器による接着強度測定)が主流でした。

これらの評価方法は「実際に剥がせるかどうか」で素早く現場対応できる一方、再現性や数値化が難しく、微細な付着性の変化や品質異常レベルの早期検知には限界があります。

さらに「不良発生後の追認」的な運用が多いことから、未然防止・トレンド把握の観点では力不足です。

なかなか進まない現場のデジタル化

多くの中小工場や国内ローカルサプライヤーでは、いまだに紙カルテ、手書きチェック、ベテラン技術者の感覚値に依存する文化が根強く残っています。

ここに大手自動車OEMから要求される「データでの根拠提示」「タイムリーな不良検知」「海外生産拠点との一元管理」などのプレッシャーが加わり、現場の混乱を引き起こしています。

現場で実践的に活用できる評価分析手法

1. 付着強度の客観定量化「プルオフ試験」

塗膜の付着強度を物理的に定量把握できる方法として「プルオフ試験」が普及してきました。

この試験は、塗装面に専用の治具(ダリー)を接着し、引張荷重をかけて塗膜―母材間の剥離荷重(N/mm²)を測定します。

・客観的数値による判定が可能
・出荷前の品質監視や工程点検に活用できる
・テスト片で事前検証し、量産品の異常傾向を早期把握

プルオフ試験により、工程異常やロット間バラツキを早期発見できるため、サプライヤーとバイヤーの信頼関係構築にも威力を発揮します。

2. 塗膜状態の微細評価「表面分析(XPS, SEM, AFM)」

微細な表面異物や化学的変化が塗膜付着性に与える影響を詳細に知るためには「表面分析」の活用が有効です。

・XPS(X線光電子分光):表面の化学組成や官能基を評価
・SEM(走査型電子顕微鏡):膜厚や界面構造を精密観察
・AFM(原子間力顕微鏡):表面粗さやピンホール・クラックの検出

これらの分析結果をフィードバックし、前処理条件や塗装工程の微調整を行うことで「科学的根拠に基づく品質改善」を進めることができます。

3. 現場DXによる「塗装工程のトレーサビリティ」

IoTセンサーやデータロガーを用いた現場DXの導入が、塗膜トラブル未然防止に革新をもたらします。

・脱脂温度・pH・化成処理時間・膜厚・塗装温湿度の自動記録
・異常データの早期警告(AI・機械学習活用)
・全生産ロットのプロセス履歴をクラウド管理

これにより、現場作業者ごとの作業バラツキや突発的な設備異常をタイムリーに検知し、塗装不良の「芽」を早期に摘み取ることができます。

バイヤーとサプライヤーが活用すべき「予防的アクション」

工程の可視化と共通評価指標の確立

バイヤーは納入部品の塗膜品質を担保するため、サプライヤーと共通の評価基準(統一試験プロセス・判定基準)を設けるべきです。

・受入検査・工程内検査・出荷前検査の基準共有
・品質ランク別の対応策・異常発生時の情報共有体制

サプライヤー側も受注側に頼らず「現場主導で工程データを継続取得・報告」する文化が重要です。

塗膜不良の潜在要因探索と事前監査

塗膜の剥離トラブルは、材料メーカー、化成剤サプライヤー、塗装設備、現場作業者など多岐にわたるサプライチェーンの協力が不可欠です。

・FMEA(故障モード影響解析)によるリスク評価
・材料ロット、工程管理手順、現場教育の定期監査
・異常履歴データの横断的共有体制の構築

品質不良が「再発」する企業は、しばしばこの工程横断的な可視化ができていない傾向があります。

現場目線で考えるこれからの塗膜コーティング評価の方向性

現場の納得感をどう得るか?

現場では「実感がもてる評価」「再発防止につながる分析」がキーポイントです。

・外観×定量評価(目視+数値化)の『ダブルチェック体制』
・「もし自分が客だったら」を常に意識する現場作業者の意識改革
・ベテラン技術者の経験知・暗黙知を数値化・デジタル化する取り組み

定性的だった“良品/不良品”判定に「客観式」のモノサシを導入することで、未然防止と再現性のある品質改善につなげることができます。

“昭和の職人技”から“未来型現場”への転換

現場の課題は「高度化する品質要求」「省人・自動化への対応」「データ経営への経営層の理解」と複雑化しています。

自動跡やIoTをハイブリッドに活用しつつ、従来の現場力・人間の目・経験値も尊重する「人×技術の融合型現場」こそ、これからの塗装品質を支える新しい姿です。

まとめ:塗膜コーティング付着性トラブルの未然防止は現場力と科学の融合がカギ

塗膜コーティングの付着性向上および剥離トラブル未然防止のための実践的なアプローチは、「現場のリアル」と「科学的分析・DX」を融合させることです。

原因の見える化、評価の数値化、現状把握の客観化、そして工程間の連携によって、真の品質向上とコスト削減、トラブル予防が現実のものとなります。

この記事が、製造業に携わる現場担当者、品質管理者、バイヤー、サプライヤーの皆さまのお悩み解決と、より健全なサプライチェーン構築の一助となれば幸いです。

今こそ昭和的アナログ文化から抜け出し、未来指向の現場創りに挑戦しましょう。

You cannot copy content of this page