投稿日:2025年6月16日

塗布・乾燥の基礎とトラブル対策

はじめに:塗布・乾燥プロセスが製造現場に与える影響

製造業、とりわけものづくりの現場では、多くの工程が細やかに絡み合っています。
その中でも「塗布・乾燥」の工程は、見過ごされがちでありながら、製品品質を大きく左右する要とも言えるでしょう。
筆者は20年以上にわたり、自動車、電子部品、機械装置など様々な分野の工場現場で調達・購買、生産管理、品質管理、工場の自動化を経験してきました。
本記事では、その現場経験を活かし、塗布・乾燥プロセスの基本から注意すべきトラブル、昭和から続く現場の慣習、さらには最新の自動化動向と今後の展望まで、バイヤーやサプライヤー、現場の皆さんの役に立つ視点で徹底解説します。

塗布・乾燥とは何か?基本のプロセスと役割

塗布工程の基本

塗布とは、特定の素材・部品表面に、液体やペースト状の物質(塗料・接着剤・コーティング剤など)を均一に載せる作業を指します。
目的は多岐にわたり、防錆、絵付け、絶縁、接着など製品機能・価値向上のために不可欠なプロセスです。
一見シンプルですが、均一性や膜厚精度などの管理が不十分だと、後工程や最終製品の品質に致命的な影響を及ぼします。

乾燥工程の基本

乾燥は、塗布した液体の溶剤や水分を適切に飛ばし、本来の特性や機能(硬度・密着・絵柄保持など)を発現させるプロセスです。
乾燥条件が不適切だと、乾燥不足によるタレ・ムラ・密着不良、過乾燥による割れや変質など、さまざまなトラブルに直結します。
加熱乾燥やUV乾燥、溶剤揮発型など、素材や塗布材料の種類によって方式も多様です。

一連のプロセスがビジネスに与える影響

塗布・乾燥は工程の中間的な立ち位置にありながら、最終工程や納品先での品質クレームの“火種”ともなり得る要注意領域です。
とくにバイヤー目線では、これら工程の良否によりサプライヤー評価や調達先選定への影響も想定しておくべきポイントです。

ありがちな塗布・乾燥トラブルと対策

発生しやすい塗布トラブル

現場でよく耳にするトラブルには、以下のようなものがあります。

・塗布ムラや膜厚不均一
・異物混入やパーティクル付着
・ピンホールや泡(ブリスター)の発生
・濡れ性不良(材料がはじかれる)
・指定箇所以外へのはみ出し

大半の原因は「管理のアナログ化」「人手作業に依存した属人化」「旧来慣例の踏襲」など、昭和時代から引き継がれてきた非効率な体質に根があります。
例えば、いまだに「ベテランの勘とコツ」「目視検査中心」という工場も少なくありません。

乾燥トラブルの典型

乾燥においては以下のような問題が典型的です。

・乾燥不足(溶剤残り、ベタつき、密着不良)
・過乾燥(割れ、変色、機能低下)
・焼きムラや一部未硬化
・ライン詰まりや搬送不良

こちらも「乾燥炉の温度管理がアナログ」「時間制御だけで材料特性に未対応」といった、変化対応力の低さがトラブルの温床となります。

現場発想のトラブル対策例

下記は、実際の製造現場で効果を発揮してきた具体策です。

  1. 塗布の自動化・定量化
    ロボットやディスペンサによる自動塗布、精密ポンプの導入で膜厚のばらつきを最小化。ヒューマンエラーや工程間差異も減少します。
  2. 塗料・材料の管理
    仕入れロットごとの性状検査(粘度・粒度分布など)や、使用前の温度・攪拌・エージング管理をルール化。材料の不均一が減り、塗布トラブルも回避しやすくなります。
  3. 乾燥炉のデジタル温度・湿度管理
    従来の手動調整から、IoT対応センサやPLC制御への刷新で、温湿度の安定性を大きく向上。焼きムラや乾燥不足の発生率を半減させた工場事例も増加しています。
  4. 中間・最終検査の自動化・標準化
    画像検査やインライン膜厚計測などの導入で、「人の目」に頼らない品質保証体制を構築。属人化を脱却することで、再発防止も容易になります。

なぜ塗布・乾燥工程のトラブルは繰り返されるのか

日本の工場文化とアナログの壁

筆者は複数の国内外工場を見てきて、塗布・乾燥工程が「昭和方式」ともいえる職人気質な文化に強く結び付いているのを痛感しています。
現場スタッフ個々人のスキルや長年の経験・コツに依存する傾向が強く、標準化やデジタル化の遅れは否めません。

また「同じ生産設備を何十年も使い続けている」「改善投資がなかなか認められない」「トラブルがあっても応急で済ませる」など、問題の根が深いまま温存されているケースも散見されます。

調達・バイヤー視点の課題

バイヤーの立場では、塗布・乾燥プロセスに起因した品質問題がしばしば納入トラブル・市場クレームに発展するリスクを内包しています。
一方でサプライヤー任せにしてブラックボックス化する企業も多く、十分な現場監査や工程確認まで踏み込めていない現状が見受けられます。

バイヤーとして、塗布・乾燥の管理状況やトラブル対策を事前に把握することは、サプライヤー選定やリスク管理の重大な要素です。
アナログから脱却する「工程監査力」が今こそ求められている時代です。

今こそ必要な現場目線の改善アプローチ

標準化・自動化へのシフト

現場改革を進めるには、属人的なスキルや“暗黙知”に頼らず、誰でも安定品質が出せる自動化と標準化への転換が必要です。
特に塗布量や乾燥時間の自動制御、異常検知の可視化など、IoTやAI技術を活かした仕組み作りが有効です。

現場と調達が「工程監査」を共に担う

バイヤーや調達担当も、製品設計・品質管理だけでなく、「工程管理」まで理解を深め、現場担当と一体となった監査・改善PDCAの構築が重要です。
「現場力」と「調達監査力」の両輪で、塗布・乾燥を起点とした全体品質向上を目指しましょう。

工程データの蓄積とビッグデータ活用

IoT機器や画像検査システムで得られる工程データを蓄積し、トラブル発生要因の早期発見や予兆管理に活かす。
たとえば、季節・気候・材料差異など多様なデータを踏まえた、「最適な塗布・乾燥条件自動設定」の実現まで見据えます。

業界動向と今後の展望

塗布・乾燥のデジタル化進展

産業用ロボットやIoT技術の進展によって、塗布・乾燥工程はますますデジタル化・スマートファクトリー化が進んでいます。
しかし中小規模工場やアナログ業界では依然手作業比率が高く、改善余地や市場ニーズは膨大です。

また、グローバル調達や高機能材料の開発が進む中、瞬時に多品種少量生産へと条件切替できる柔軟性やトレーサビリティ管理も不可欠となっています。

人材と教育の進化がカギ

現場自動化と並行して、「塗布・乾燥工程を科学的に理解できる人財」の育成も、会社の競争力を大きく左右します。
材料工学、プロセス工学、データサイエンスなどを融合した新しい技能が、今後一層重要となります。

まとめ:塗布・乾燥を制する者が製造を制す

塗布・乾燥プロセスは、現場目線で見るほど課題や改善余地が多く、また企業間競争力を大きく左右する工程でもあります。
これからの時代、属人化やアナログ管理を脱し、自動化・デジタル化を加速することが、バイヤーやサプライヤーを問わず競争力強化の最大の打ち手となります。

昭和の知恵を大切にしつつも、現場実践と先端技術の融合で「止まらない工場」「不良ゼロの高品質現場」を実現しましょう。
本記事が、塗布・乾燥の困りごとに悩む製造現場のみなさんや、将来バイヤーを目指す方の現場改善ヒントになることを願っています。

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