投稿日:2025年7月14日

塗布塗膜乾燥技術方式トラブル発生メカニズム対策コーティングダイ流路計算乾燥シミュレーション実施例

はじめに:塗布塗膜乾燥技術の重要性と直面する課題

製造現場において、塗布塗膜乾燥技術はプロダクトの品質や歩留まりを左右する極めて重要なプロセスです。

自動車、電子部品、建材など多くの産業で、コーティング工程は表面保護や機能付与を担い、市場から強く求められています。

しかし、製品仕様の高度化や多様化が進む一方で、依然としてアナログ的なノウハウや属人性に頼る分野も多く、トラブルや歩留まり不良、コスト増といった課題が絶えません。

本記事では、塗布塗膜乾燥技術方式の基本から、発生しやすいトラブルのメカニズム、解決のためのシミュレーション手法、現場で即使える計算例・改善事例まで、実践的な知見とラテラルな視点を交えて詳しく解説します。

バイヤーおよびサプライヤー双方の立場から、最新の業界動向や外せない現場視点も盛り込み、昭和的なアナログ思考から脱却を目指す方にも価値ある内容としています。

塗布塗膜乾燥技術の基本方式とその特徴

塗布塗膜乾燥工程は、大きく「塗布」「塗膜形成」「乾燥」という3つの段階に分けられます。

それぞれの方式と特徴を理解することで、適切な技術選定やトラブル発生時の迅速な対応が可能となります。

塗布方式の主な種類と現場での選択ポイント

製造現場で広く使われている塗布方式には以下のものがあります。

– ロールコーター方式
– ディップコート方式
– スプレー方式
– スロットダイ方式(コーティングダイ)

筆者としては、最近は歩留まりや膜厚均一性、連続生産性などの観点から、スロットダイ方式(コーティングダイ)が急速にシェアを伸ばしていると実感しています。

工場の自動化やDX推進の側面からも、従来のヒト頼み工程からロボット搭載可能なダイコーターへシフトする傾向が強まっています。

乾燥方式の主な種類

乾燥工程には複数の方式が選択されます。

– 熱風乾燥
– IR(赤外線)乾燥
– UV硬化乾燥
– 真空乾燥

各方式ごとに設備コストや運用負荷、エネルギー効率、歩留まりへの影響などが大きく異なるため、製品・材料・工程条件ごとに最適選択が求められます。

トラブル発生メカニズムの本質を深掘りする

塗布塗膜乾燥工程では「ピンホール」「クラック」「しわ」「剥離」といった多様なトラブルが発生します。

原因分析が甘いまま対策すると、応急処置に終始し根本解決が難しくなりがちです。

ここでは、主なトラブルとその発生メカニズムについて現場の視点から詳述します。

ピンホール・穴あきの発生要因

ピンホールは、気泡混入、基材表面の不純物、過剰な乾燥速度によって生じやすいです。

とくに近年よくあるのが、製品ライン速度の高速化に設備が追いつかず、界面近くで溶剤などが一気に揮発、微細な穴が残るケースです。

こうした事象はシミュレーション上だけでは捉えにくく、実際に現場の観察力と記録が重要なファクターとなります。

クラック・割れの要因

膜厚の不均一、乾燥工程での温度勾配差、材料の収縮応力バランス不良が主因となります。

とくにアナログ的な一発勝負(ロット仕掛け)で工程管理されていた従来工場では、乾燥炉の温度ムラや通気の不均一による品質揺らぎが多発しました。

最近は連続生産・IoT導入により、こうしたバラツキを減らす動きが広がっています。

しわ・剥離などの複合的不具合

しわや剥離といったトラブルは、塗布時の張力・送り条件と乾燥進行の両者から発生します。

塗布テンションの制御不良や、乾燥時の支持ローラで基材が過熱され局所的に収縮するなど、工程間連携の不足が主な根本原因です。

このため、単一工程だけ見て解決策を打つのではなく、全体プロセスの連動性をシミュレーション・データで可視化し、ラテラルに改善点を探ることが肝要です。

コーティングダイ流路計算の実際:現場目線の計算事例

コーティングダイは、インクやレジン等の液体材料を基材へ均一に供給するための微細な流路設計が求められます。

流路設計に失敗すると、膜厚ムラや吐出不良、最悪の場合ライン全体の停止に繋がることもあるため、設計段階での計算・シミュレーションが重要不可欠です。

流路圧力損失計算の基本

流路設計では、吐出する液体の粘度、流量、許容圧力損失をもとに配管・流路幅・高さを計算します。

基本方程式は下記の通りです。

ΔP = (12μQL) / (wh^3)

ここで、
– ΔP:流路全体での圧力損失
– μ:液体粘度(Pa・s)
– Q:流量(m³/s)
– L:流路長さ(m)
– w:流路幅(m)
– h:流路高さ(m)

例えば、塗布ラインでの設計値を代入し、「圧力損失がポンプ性能上限内で納まるか」「膜厚ムラのリスクが十分低いか」をジャッジします。

現場では数値解析(CFD)とカンによる微調整、過去のトラブル履歴も参照することが多いです。

流路詰まりトラブル防止のための管理指標

昭和由来の属人ノウハウだけでは、防げない新たなトラブルが増えています。

例えば流路内で材料が部分的に乾き詰まる現象や、洗浄タイミングの見極めミスによる吐出低下です。

これらは流路内流速分布、残留材料滞留率など、定量的に管理すべきKPIを増やすことがベストプラクティスです。

現場の担当者がデータ可視化に苦手意識があれば、分かりやすいガイドライン(下限流速値、清掃間隔、吐出圧力閾値)を整備し、チーム標準で運用することが成功の鍵となります。

乾燥工程シミュレーションによるトラブル再発防止へのアプローチ

IoTやデジタルツインを活用した乾燥工程のシミュレーションは、近年の工場自動化推進とともに要求が急増しています。

昔ながらの経験一辺倒から脱却し、データで予測・改善できる技術の確立は必須です。

乾燥曲線・温度分布のシミュレーション

乾燥工程の最適化では、乾燥速度や基材温度分布、溶剤蒸発量などを多変数で解析することが重要となります。

計算ソフトウェア(COMSOL、ANSYS Fluentなど)を活用し、基材搬送速度、熱風温度・流量、材料ごとの熱物性値をパラメータに、シミュレーションを行います。

得られた乾燥曲線データを実際の品質データ(膜厚測定、溶剤残留量等)と突き合わせ、PDCAサイクルで工程条件の最適化を加速します。

代表的なノウハウ・シミュレーション事例

電子部品メーカーA社では、厚膜部の乾燥不良(内面残留)が多発していました。

従来対策では温度設定を変えても問題が再発。

ここで乾燥炉内の温度分布シミュレーションを実施し、材料搬送時に生じる「基材数十枚分の重なり」による下層冷却効果が未考慮と判明。

これに対応し、熱風循環パターンを多段階式に改善することで、歩留まり95%→99%へと劇的改善に成功しました。

このようなラテラルな切り口で本質を突いたシミュレーション事例が、今後の製造現場では特に有効です。

バイヤー・サプライヤー双方が押さえるべき最新業界トレンド

製造業の調達・購買分野では「品質保証範囲の明確化」「再現性の高い工程設計」「属人ノウハウの標準化」などが喫緊の課題として浮上しています。

塗布塗膜乾燥技術でも、その場凌ぎや名人芸頼みから抜け出し、サプライヤーとバイヤー双方で『見える化・データ主導の合意形成』へと進化が必要です。

サプライチェーン全体目線での改善事例

バイヤー側は「再現性ある品質」の担保を重視、サプライヤー側は「コスト抑制」と「ノウハウ技術のアピール」に力点を置く傾向があります。

ある化学メーカーでは、コーティング分野の歩留まり問題が長期化し、両社の認識齟齬が拡大していました。

ここで「全工程シミュレーション・見える化サービス」を導入し、バイヤー側とサプライヤー側双方が評価プロセス、改善アクションを明確に共有。

結果として、双方の意識が改善目標にシンクロし歩留まり90%→98%へ、コスト構造の透明化にも成功しました。

このような合意形成と現場・データ主導の融合が今後の重要な潮流です。

まとめと提言:これからの塗布塗膜乾燥技術のあるべきDX像

塗布塗膜乾燥技術におけるトラブルメカニズムの本質解明、計算・シミュレーションの実践活用は、昭和型の属人技術からDX型の標準化・再現性重視への大転換点です。

コーティングダイ流路設計や乾燥工程最適化にシミュレーションを積極的に取り入れ「現場力×データ」のハイブリッド型改善へと舵を切りましょう。

バイヤー・サプライヤーともに、数値データと現場知見をベースに、共通の改善目標を持ち、サプライチェーン全体の価値最大化を追求すべき時代です。

今こそ現場目線の気付きとラテラルな発想を持ち込み、持続的成長と品質革新を両立する新たな地平線を切り拓いていきましょう。

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