投稿日:2025年6月23日

組込みソフト開発におけるコーディング作法と品質向上への活用

はじめに:組込みソフト開発の現場から見える現実

製造業の心臓部とも言える組込みソフトウェアは、昨今のものづくりの高度化・自動化に欠かせない存在です。
しかし、その開発現場では昭和時代から引き継がれるアナログな慣習に苛まれていたり、生産・調達・品質管理との連携の難しさが課題となっています。
本記事では、現場で培ってきた経験をベースに、コーディング作法がどのように品質向上へ繋がるのか、バイヤーやサプライヤーの立場も踏まえながら解説します。

組込みソフト開発に立ちはだかる「昭和の壁」

多重請負とブラックボックス化

日本の大手製造業では、多層下請け構造が今なお色濃く残っています。
この分業体制下では、一次請けから三次請け、さらに細分化された各社ごとにコーディングに対する文化や作法が異なります。

コーディング基準やレビュー体制が統一されていないため、ファンクションごとに品質がバラつき、設計意図がブラックボックス化することも珍しくありません。
このような状況が、「なぜバグが出るのか分からない」「要求仕様通りなのに操作性が悪い」といった現場の声につながります。

紙文化と属人化が品質の妨げに

SOP(標準作業手順書)が紙ベースで管理されている現場は依然多いものです。
保守や改修時に設計変更の履歴が追いにくく、同じミスが繰り返される温床にもなりがちです。
またベテラン技術者の「俺流」に依存する文化が根強く、ナレッジが継承されません。
結果として、若手が正しいコーディング作法を身に付けられないまま現場に放り込まれる悪循環が続いています。

現場で使えるコーディング作法の本質

なぜコーディング作法が必要なのか

コーディング作法とは、単なるルールやマナーではありません。
設計意図や開発者の思考を「誰もが読めて理解できる形で」コードに落とし込む、いわば設計と現場双方の「共通言語」です。
特に組込みシステムは仕様変更・誤動作のリスクが高いため、コードの「読みやすさ」「追いやすさ」が不具合の早期発見やメンテナンス性向上に直結します。

組込みソフトで特に重視すべき作法5選

1. 命名規則の一貫性
機能や変数名に日本語を使う、略語を統一するなど、プロジェクトごとの規約を成文化し、全員が徹底します。
無意味な“X1”、“Temp”などは極力避けましょう。

2. コメントの丁寧な記述
設計意図や例外処理の理由などは、必ず日本語(または共通言語)で明示。
担当者が変わっても誰でも追えるようにします。

3. インデント・空白の徹底
視認性確保のため、チーム全体でツールやフォーマット(自動整形ツール導入も有効)を統一し、見やすいコードを維持します。

4. モジュール化、関数の細分化
一つの関数に複数の処理を詰め込まない。
変更に強く、テストしやすい構造を意識することが肝要です。

5. レビュー体制の明確化
「人に見られても恥ずかしくないコード」に仕上げるため、現場同士のレビューサイクルやチェックリストを設けておくと効果的です。

コーディング作法を浸透させるための組織的仕組み

作法の文書化と誰でもアクセスできる環境の整備

トップダウンで規約を作るだけでは現場には定着しません。
重要なのは、現場の「なぜ」・「どうして」を吸い上げて規約自体を見直し続けるPDCAサイクルの運用です。
新版はイントラ上で即時アクセス可能にし、紙文化からの脱却を推進しましょう。

作法教育の現場参加型アプローチ

座学だけではルール遵守の形骸化を招きます。
実際の開発現場での「良い例・悪い例」を共有し、若手とベテランの壁を越えて意見交換を行うワークショップの開催が有効です。

自動レビュー等デジタル活用のすすめ

レビュー工程に工数や属人性が絡む現場では、LintツールやCIツール(Continuous Integration)等の自動化を積極的に取り入れましょう。
不具合の早期発見と「誰が見ても同一基準で判断できる」透明性を両立できます。

コーディング作法がバイヤー・サプライヤー関係に与える影響

バイヤー視点:品質とコストを天秤にかける現実

バイヤーとしては、単価だけでなく「設計変更のしやすさ」「不良発生時の対応力」が購買判断に直結します。
コーディング作法が徹底されたサプライヤーは、開発効率や品質トラブルの低減に繋がり、TCO(Total Cost of Ownership)全体に好影響を及ぼします。

サプライヤー視点:差別化と信頼獲得の武器に

一方、サプライヤー側も作法を標準装備として訴求することで、「うちは他社よりもメンテ性や透明性が高い」と信頼を獲得できます。
特に近年は、トレーサビリティ要求の強化やグローバルサプライチェーンの複雑化で、設計書やソースコード共有の機会が増加。
コーディング作法の有無が「仕事の受注・継続」の分水嶺となりつつあります。

今後の組込み開発とコーディング作法の課題・展望

脱・個人依存/属人化からの脱却

これからのAI・IoT時代では、現場の経験や個人技だけでは立ち行かなくなります。
コーディング作法の仕組み化・継続改善こそが、「設計意図の可視化」や「世代交代」だけでなく、業界全体の競争力の根源となるのです。

自動化・DX(デジタルトランスフォーメーション)時代に必要な作法発展

AI生成コードや新技術導入の現場でも、読みやすさ・変更しやすさを意識したコーディング作法は不可欠です。
業界全体で標準化や相互運用性を高めるガイドラインづくり、オープンソース時代に対応する作法・フォーマットの検討も求められます。

まとめ:現場から組込みソフトの未来を切り拓く

コーディング作法は、ハードウェアが主役だった時代を超え、「見えない品質」=ソフトウェアの設計・製造・保全力に直結する重要なファクターです。
現場で実践的な作法を身に付け、現場・バイヤー・サプライヤーが三位一体となって品質文化を醸成することこそ、日本のものづくりのさらなる進化を促します。
日々の一行一行のコードに魂を込め、未来を担う技術者・管理者・発注担当者として、ぜひこの記事が一助になることを願っています。

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