投稿日:2025年7月30日

災害対応強化に向けた電気設備工事・保守業務の連携方法

はじめに

製造業の現場において、安定した生産活動を守るためには、電気設備の安全稼働が絶対条件となります。
とりわけ日本は自然災害が頻発する土地柄であり、大地震・洪水・台風などによる突発的なリスクの影響を受けやすいのが現状です。
こうした未然防止と早期復旧を目的として、工場の電気設備工事・保守業務のプロフェッショナル同士がどのように協働し、現場を支えていくのか。
この課題に関して、製造現場目線で実践的なノウハウ、さらには昭和から続くアナログ体質の課題と、令和流の先進的な取り組み事例を交えて解説します。

なぜ製造現場は災害対応力を高める必要があるのか

BCP(事業継続計画)の中核に電気インフラがある

多くの製造業では、BCP(Business Continuity Plan=事業継続計画)が叫ばれています。
大規模地震・水害時、真っ先に機能停止することも多いのが「電気設備」。
もしクリーンルームの制御が止まったら、ライン全体がストップし、莫大な損失や品質事故が発生します。
災害対応を強化する=停電や設備トラブル時に被害を最小化し、早期復旧を実現すること、それこそが全社の損失を左右する最重要ポイントなのです。

現場に根付くアナログ文化の弱点

一方で、製造業特有の「職人気質」「現場主義」に根差す文化が、BCPの徹底や最新技術導入の足かせになることも珍しくありません。
先代から受け継がれる保守台帳の存在、ベテラン社員しか知らない現場の“クセ”、緊急時に頼る紙の手順書。
これらは現場を守ってきた強みである一方、組織的・システム的な災害対応には大きなギャップとなります。

電気設備工事と保守、それぞれの現場課題

工事会社側の悩み

・現場ごとの仕様・設備構成が異なり、標準化ができない
・施工時に過去履歴や現場特有の注意点が共有されず、手戻りが多発
・緊急時の復旧支援依頼に十分な人員が割けない

保守管理側の課題

・現場で起きている小さな異常や、いつ壊れるか分からない“前兆”の捕捉に限界
・日々の点検記録が紙媒体やExcelベースで散逸しやすい
・高度なトラブル発生時、外部業者との意思疎通にタイムロス
昭和時代から続く“現場頼み”、“担当者依存”の構造が、災害時には大きなリスクとなります。

災害対応強化のための連携モデル

全体最適化を志向した組織的アプローチ

従来は「電気設備は工事屋に任せておけば問題ない」「保守は社内のメンテ担当が何とかする」といった丸投げ型の分業意識が根強くありました。
ここから脱皮するには「工事⇔保守」双方の立場を横断した連携体制が不可欠となります。
おすすめの実践アプローチとして、以下3点を紹介します。

1. 情報連携プラットフォームの共通利用

・点検結果、異常履歴、修理履歴、機器台帳などをクラウドで一元管理
・工事会社、サプライヤー側もアクセス権設定の上、必要情報を見える化
・定期点検だけでなく、バイパス配線や特殊施工の注意点なども蓄積
これにより、災害時の緊急対応でも正確かつ迅速な指示伝達が可能となります。

2. 定期的な「合同レビュー会」の実施

・四半期単位などで工事・保守・生産管理の関係者が集合し、稼働設備の状況・課題をレビュー
・災害時の被害想定や、最新技術(IoTセンサー・遠隔監視・非常用発電導入)などの意見交換
アナログ業界では珍しいと思われがちですが、顔の見えるリアルコミュニケーションが信頼構築につながります。

3. 災害対応マニュアルのジョイント作成

・「もし◯◯(台風や地震)が起きたら、どの回路・どの系統を優先復旧するか」
・「復旧作業時の役割分担」「外部業者呼び出しのフロー」「緊急連絡網」などを、あらかじめ工事会社側と保守部門で合意
現場目線の実践的な手順書が、混乱を防ぎ、人命・品質・効率に直結します。

サプライヤー・バイヤー目線で押さえるべきポイント

バイヤー(発注側)の考えるリスクヘッジ

発注企業(バイヤー)は「納期厳守」「品質維持」「コスト削減」といった観点だけでなく、「災害時にどこまでサプライヤーが対応できるか」を重視しています。
・非常時の対応レベルの明文化(SLA=サービスレベルアグリーメント)
・代替業者、予備品在庫の体制(複線化)の有無
・サプライヤー自体のBCP策定状況
こうした視点で協力体制を監査・選定しているバイヤーも増えています。

サプライヤー(工事会社・メンテ業者)はどう備えるべきか

トップダウンの受け身ではなく、「自社として災害対応にどこまでコミットできるか」を自己主張できる姿勢が求められます。
・自社の得意分野(高圧/低圧/特殊設備等)と非常時の応援体制の“見える化”
・過去実績や現場事例のデータベース化
・最新技術やIoT製品を活用した“将来提案型”の営業スタンス
バイヤーから「この会社ならいざという時も任せられる」と信頼される自律的な組織作りが、令和時代の強みとなります。

昭和型アナログ業界が変わるためのマインドチェンジ

従来型の現場力とデジタル連携の融合

多くの製造現場では「紙の点検票」「ベテラン熟練工」のノウハウに依存し続けています。
これ自体は大きな財産ですが、災害時に“情報の見える化”“遠隔連携”ができないのは致命的です。
・紙文化でも「最低限どこまでデジタルを混ぜ合わせるか」
・“顔が見える関係性”と“システムでの自動化”のハイブリッド設計
・社内リーダーシップと外部パートナー(ITベンダーなど)の巻き込み
このバランスが真の連携強化のカギを握ります。

現場と経営層の意識ギャップを埋める

現場担当者は「手間が増えそう」「ITは苦手」と感じがちですが、経営層は「全社最適でBCP強化、コスト見直し」を狙っています。
このギャップを埋めるには、現場試行型の小さな成功体験を重ねることです。
デジタル点検票を一部ラインだけ試す、緊急連絡網の簡素化から始める――。
一歩一歩着実に現場納得型で進めることで、全社的な災害強靭化へとつながります。

先進的な連携事例の紹介

・A社(電子部品メーカー)は、クラウド型の保守プラットフォームを導入。
現地業者だけでなく、海外拠点とも情報共有し、台風・地震による被害抑制と復旧時間30%短縮に成功。
・B社(食品工場)は、協力業者と合同で「緊急用仮設配線」の訓練を年1回実施。
現場ごとのリスク評価と反省会で、メンバーの意識に改革が起きた。

このような「現場主導の改善サイクル」が、今後ますます求められるはずです。

まとめ:現場力×連携力が未来を切り開く

災害対応力の強化には、“現場に根ざす経験値”と“情報連携による組織最適化”の二軸が不可欠です。
製造業の強みである「現場主義」も、昭和時代のままでは通用しません。
工事・保守・バイヤー・サプライヤーが垣根を超え、双方向の情報連携と共通の危機意識を持つことが、レジリエンス向上の第一歩となります。
“うちは大丈夫”と油断せず、「現場目線」「バイヤー目線」の両立を図り、全社一丸となって強靭な製造現場を実現していきましょう。

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