投稿日:2025年7月11日

感性計測を活かした快適性重視の商品開発手法

感性計測の重要性と製造業における現状

感性計測とは、人がものや環境に対して感じる「快適」「心地よい」「使いやすい」などの感性的評価を、数値やデータとして定量化する技術の総称です。

近年、製造業各社では、従来型のスペック重視やコストダウン追求型の商品開発だけでは、顧客ニーズを満たしきれなくなっています。

特にBtoC市場では、「性能が良い」「壊れない」だけではなく、「デザインが美しい」「触感が良い」「使っていて心地いい」といった、感性品質=快適性に注目が集まっています。

しかし現場目線で見ると、未だ昭和的なアナログ文化が色濃く残り、企画や開発プロセスの中に感性的要素を盛り込むことが苦手な現場が少なくありません。

本記事では、製造業の実践者として、現場で感性計測を活用するリアルな手法や業界動向、さらにはバイヤー・サプライヤーの視点を交えながら、快適性起点の商品開発の道を切り拓くヒントを深掘りしていきます。

なぜ今、感性計測なのか

背景:変化する市場と製品への期待値

かつての日本の製造業は、「安くて、高品質で、壊れない」というモノづくりが最大の武器でした。

しかし、グローバル競争・成熟市場・労働人口の減少・サステナビリティ意識の高まりにより、「性能だけでは選ばれない」時代に突入しています。

ユーザーは、「使うこと自体が楽しい」「心が豊かになる」「五感で心地よい」といった情緒的な価値を求めています。

単なる数値性能だけでなく、ユーザー体験を最大化する付加価値、その価値を支える感性的な品質管理こそ、市場競争力の源泉です。

バイヤー(調達購買)視点からの変化

購買部門も、従来の「コストと納期重視」から脱却し、取引先バリューチェーン全体でどれだけ最終ユーザーへの快適体験を訴求できるかを重視し始めました。

「なぜその材料・部品を選ぶのか?」「それが顧客体験にどう寄与するか?」。

その説明を、サプライヤーに求める場面が増えています。

すなわち、サプライヤーも感性品質をデータで語る視点が必要不可欠です。

感性計測で取得できるデータ例

生体計測データ

・脳波、心拍、皮膚電位(快刺激・不快刺激への反応)
・体温、発汗量(ストレスとリラックス度の数値化)

動作・行動データ

・作業時の筋肉負荷量、体の傾きや動作(負担感や疲れ度合い)
・視線の動き、注視点(視覚的快適性・ユーザビリティ評価)

主観評価と一体化したデータ

・「快適」「使いやすい」「気持ちいい」などのアンケートスケール
・AIを活用した顔認証による感情判定

これらを複合的に組み合わせ、現象的・主観的だった“快適さ”を、設計者がエビデンスをもとに議論できる形にしていきます。

工場現場における感性計測導入の実践例

1. 新商品開発段階での試行

例えば家電や自動車の開発現場では、設計モデルや試作機を用いて、座り心地・手触り・使いやすさなどを、内外のモニターを招いて生体計測テストを実施します。

「どこを握ると手になじむか」「シートが長時間どう体に馴染むか」「ボタン配置は直観的か」、こういった定性的で属人的になりがちな項目も、計測データ化することで客観的な技術基準に落とし込むことができます。

2. 生産現場での作業快適性分析

生産ラインの改善提案においても、作業員の動作計測や視線追跡などを行い、「疲労感→効率低下→品質リスク」の因果関係を数値で示せます。

快適作業環境を実現することで技能伝承や離職防止、定着率向上といった副次的効果も得られます。

3. 購買・調達部門によるサプライヤー評価の高度化

部材・素材の選定時、「なぜこのシート素材が快適なのか?」を従来のカタログ特性だけでなく、感性計測値も絡めて説明できれば、社内外の説得力が格段に上がります。

また、調達部門自身もユーザー視点・利用者目線でサプライヤーに価値発信を求めることになります。

感性計測×デジタル変革、新しい商品開発プロセスへ

DXとの連携で現場が変わる

感性計測は、既存の「図面→モノ→評価→改善」のサイクルに、次のような変化をもたらします。

・デジタルツインで仮想空間上に“使う人”の感性モデルを再現
・AI解析で膨大な感性データの傾向やリスク要素を抽出
・迅速なプロトタイピングとユーザーテストによる仮説検証型開発

これにより、開発の効率UPに加え、ユーザーを深く理解した唯一無二の商品・部品開発が可能となります。

アナログ業界こそ、感性計測で差別化できる

昭和的な「経験値」「勘と雰囲気だけ」で回してきた現場も、感性計測データをうまく活用することで“技術的差別化”を実現できるポテンシャルがあります。

「働きやすい工場」「快適な作業環境」を訴求点とするだけで、採用難に悩む地方工場や中小サプライヤーも、大企業バリューチェーンに食い込む力になります。

バイヤー、サプライヤー、それぞれの立場から見る感性計測の意義

バイヤー(調達購買)の立場から

調達はコスト・納期だけの担当ではありません。

最終製品のユーザー体験を最大化させるため、「サプライヤー選定=顧客体験のデザイン」と考えるべきです。

そのために、「どの工程が顧客快適性につながるのか」「どの部材やシステムが感性的品質を高められるのか」といった視点が欠かせません。

感性計測を活かしたサプライヤーとの共同開発が当たり前になる時代がすでに到来しています。

サプライヤーの立場から

従来は「スペック・物性値」「コスト」でしか勝負できなかった取引先に対して、感性計測データ=実使用時のユーザーメリットをエビデンスとして提示することで、選ばれる根拠が高まります。

例えば
・「業界初の快適性評価指標で貴社製品の競合優位性を証明します」
・「〇〇ブランド専用モデルの“触感快適スコア”を共同開発しませんか」
といった提案が、購買担当者に強いインパクトを与えます。

日本製造業の転換点:感性計測がもたらす未来の価値

日本のモノづくりは、これまで“高品質・低コスト”という武器で世界を席巻しました。

しかし、そのアドバンテージはアジア新興国の追い上げによって薄れ、技術標準化も急速に進んでいます。

次なる競争軸は「快適な体験」「独自の心地よさ」という“人”に寄り添う感性の領域です。

ここで、日本の現場力が真に輝くのは、「世界一細やかな観察眼」「現場第一主義」「改善文化」など、もともと日本製造業が大切にしてきた強みが生きるからです。

感性計測技術×日本的きめ細やかさが融合した商品こそ、グローバル市場で唯一無二の存在感を放つでしょう。

まとめ:現場目線の感性計測活用提案

・感性計測データを用いることで、定性的だった快適性を客観的に評価・設計できる
・商品開発、現場改善、調達購買など多様な業務で感性品質が新たな武器になる
・サプライヤーも感性指標を用意し、バイヤーに「体験価値」を示す時代
・今こそ昭和のアナログ文化を活かしつつ、DX×感性計測で新しい日本のものづくりを切り拓くべき

これまで感性は「なんとなく」で語られることが多く、数値化・説明責任が取りづらい領域でした。

しかし感性計測を戦略的に現場へ取り込むことで、より多くのユーザーに愛される製品、使う人も作る人も快適な職場、そして強い日本の製造業――まだ誰も見たことのない“新しい地平線”を切り開けると、私は確信しています。

You cannot copy content of this page