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未来予測とロードマップで研究開発をビジネス化する戦略

目次
はじめに:製造業の「研究開発」が突き当たる壁
日本の製造業には、「研究開発の成果をビジネスにつなげるのが難しい」という根強い課題があります。
昭和から続くアナログな体質、現場主義が強い組織文化、多様化する市場ニーズ。
こういった背景から、「良い技術はあるのに事業として花開かない」「研究部門が孤立してトレンドを見失う」といった現象が多発してきました。
加えて、世界ではデジタル化・IoT・AIなどの技術革新が急速に進行しています。
グローバルの競争環境が厳しさを増すなか、従来型の「やってみてから考える」式の開発では対応しきれなくなっています。
本記事では、未来を見据えつつビジネスへの落とし込みを意識した「研究開発の戦略ロードマップ」の作り方、そして現場で実践してきて分かった課題への突破口を、実体験を織り交ぜて解説します。
研究開発がビジネス価値にならない“昭和の壁”
縦割り構造と「現場神話」から抜け出せない背景
多くの製造業では、研究・開発・生産・営業が部門ごとに縦割りで動いています。
ありがちなのが、研究部門が新しい技術を生み出しても生産・営業が「難しすぎて現場に落とせない」「売り先がイメージできない」と反発し、イノベーションが現場定着しないパターンです。
また、「現場こそ正義」「手を動かしてナンボ」といった価値観は今も根強く残っています。
この文化が未知の領域への挑戦や失敗を許容しにくくしており、慎重になりすぎてビジネス変革の機会を逃してしまうことも多々あります。
定量評価の難しさと“カン頼み”のジレンマ
研究開発案件のROI(投資対効果)は予測が困難です。
「効果が分かりにくいから結局上司のカンや人脈任せ」になりがちです。
このため、せっかく新しい分野に挑戦しても、実績や納得性のあるデータが出せない状態で終わってしまうことも少なくありません。
未来を読む力とロードマップ作成のポイント
バックキャスティング思考を身につける
昭和の製造業では、どうしても「現状でできることの延長線」で考えがちです。
しかし、これからは「未来で何が起こるか」「未来にどんな価値が求められるか」を見極め、そこから逆算して今やるべきことを洗い出すバックキャスティング思考が必須です。
たとえば、環境規制が今後さらに強化されるのは確実です。
5年後の規制水準を想定して「どんな原材料が使えなくなるか」「顧客がどんな性能を求めてくるか」を予測し、そのために今何を準備するべきかをラインアップしていきます。
社内外の「弱み」も素直に分析する
日本企業は「自前主義」や「弱みを見せない」傾向が強いですが、市場の変化が激しいいまは、それがかえって足かせになります。
自社でできない部分は外部パートナーと積極的に組む。
自分たちが不得意な分野こそ積極的に社外アライアンスを構築して開発領域を広げるべきです。
現場のエンジニアや購買担当者も、「自社で課題解決できる」と思い込みすぎないこと、「わからないことはサプライヤーや顧客に素直に聞く」姿勢が、変化の激しい時代を生き抜くカギとなります。
ロードマップは「定量」と「定性」を柔軟に使い分ける
未来のことは誰にも完全には分かりません。
大切なのは、不確実性を前提にした柔軟なロードマップ作りです。
たとえば、
– 要件やKPIは数値で明確化しつつ、
– 技術の進展や法規制、市場ニーズが変わることも念頭にいれて、
– ロードマップのマイルストーンや評価ポイントに「仮説検証」や「見直し」のタイミングを必ず入れる
こうすることで「走りながら修正」でき、社内外との合意やコミュニケーションも格段にしやすくなります。
実践例:自動車部品メーカーでの「脱炭素」開発
ここで私の経験した実践例を紹介します。
自動車部品メーカーで「脱炭素型の新素材開発プロジェクト」を立ち上げた時の話です。
かつてはエンジン関連の金属部品が柱商品でしたが、EV化・軽量化トレンドで大転換期を迎えました。
経営トップからは「5年でCO2排出を半減する技術を開発せよ」との方針。
しかし、現場は「そんな素材は日本にはない」「海外では動き始めているが実用化は遠い」と半信半疑でした。
そこで行ったのは…
未来トレンドの“見える化”
– 主要マーケット(中国・欧州・米国)の厳格化するCO2規制をリストアップ
– 顧客OEM(完成車メーカー)の開発ロードマップを入手
– サプライヤーと共同で海外展示会や研究会議に積極参加。世界中の新素材メーカーとも情報交換
このプロセスを社内で共有し、ともに「未来の大変化」を実感化することから始めました。
ロードマップの新設計(定期見直し型)
– 最初は「大枠の目標値」だけを明確化:CO2半減、軽量化30%、コスト据え置き
– 技術開発4フェーズを細かく設定(基礎開発→実証→量産検証→顧客導入)
– 3ヶ月に一度は「進捗レビュー&仮説検証」の全員参加会議を実施
初年度は思うような成果は出ませんでしたが、各社・部門が変化に対応することで、3年後には新素材を使った試作品が複数誕生し、商談化にこぎつけました。
調達購買も「未来のロードマップ策定」が差別化ポイント
ここで、バイヤーや購買担当者が「未来予測とロードマップ」にどう関わるべきか、現場の視点でアドバイスします。
バイヤーは「市場のカタリスト」になる
– 新規材料・新技術の情報収集は、“現場のネットワーキング力”が不可欠
– 「何が流行るか」だけではなく、「顧客が何を求め始めているか」まで自ら足を使って確かめる
例えば、欧米のスタートアップがどんな素材や製造装置を使っているか。
主要サプライヤー各社が何をリリースし始めているか。
このような“業界トレンド”をいち早く社内にフィードバックし、次の調達戦略に生かすのがこれからのバイヤーに求められます。
サプライヤーこそ「バイヤーの未来志向」を理解する時代
サプライヤーにとっては、「これまでどおりの納品やコスト競争力」以上に、「バイヤーの先の未来志向」にどこまで伴走できるかが差別化要因です。
ニーズが形になる前にそれを予測し、提案型営業に転換する。
先回りして技術開発や共同研究のプロジェクトを仕掛け、同時にリスクもシェアしていくことがパートナーシップ強化につながります。
これからの研究開発&調達バイヤーは「越境者」であれ
製造業で未来をリードするのは、部門や技術、国境を越境する「つなぎ役」です。
– 開発・生産・調達・営業すべてを横断できるコミュニケーション力
– 現場に軸足を置きつつ、データや定量評価を活用する情報解析力
– 時には失敗を恐れずトライアル&エラーを回せる胆力
これらを磨くことで、研究開発の仮説・アイデアをリアルなビジネスへとつなげる“架け橋”になれます。
まとめ:変化を見越し「考える→試す→修正する」製造業へ
製造業が未来に生き残り、かつリードしていくためには、「技術とビジネスをつなぐロードマップ」と「未来への構想力」が不可欠です。
昭和型の暗黙知・現場一辺倒を脱却し、見通しを立てて試行錯誤し、社内外の知恵を巧みに組み合わせていく時代です。
バイヤーもサプライヤーも研究開発担当者も、「未来を想像して、今できる一歩を見つけること」に力を割きましょう。
そして、動きながら学び、アップデートし続ける越境的な思考が、あなた自身と会社の競争力の源泉となります。
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