投稿日:2025年12月8日

自社便と外注便の使い分けができない企業の共通課題

はじめに:製造業における物流手段の選択が持つ意味

製造業の現場で働く皆さまにとって、「自社便」と「外注便(委託配送、運送業者)」の使い分けは、物流コストや納期、品質管理に直結する重要なテーマです。

しかしながら、長い歴史と伝統に支えられた日本の製造業界では、昭和から続くアナログな物流慣習が根強く残っている企業も少なくありません。

「とりあえず自社便が安心」「昔からこのやり方だから」という理由で、現場の要請や本質的な課題解決を置き去りにしたまま運用されている――そんな現場を、筆者は20年以上にわたり数多く目の当たりにしてきました。

自社便と外注便の“最適な使い分け”ができていない企業は、様々な共通課題を抱えています。

この記事では、その実態を現場目線で徹底解析しつつ、バイヤー・サプライヤー双方にとっての気付きや、時代に合った物流戦略の新ビジョンも提案します。

自社便と外注便、それぞれの特徴をあらためて整理する

自社便のメリット・デメリット

自社便とは、文字通り自社で車両やドライバーを抱え、自ら商品の配送を行う方式です。

自社便のメリットは、何より機動力と現場対応力です。

急な仕様変更や突発納期にも自社判断で柔軟に動けることは、大手組立メーカーや短納期対応が求められる現場では大きな武器となります。

また、自社従業員が直接配達・納品することで「自社ブランド力」や「現場間の信頼感」が生まれやすいという側面もあります。

一方、最大のデメリットはコスト負担と運用管理の難しさです。

法規遵守や車両維持費、ドライバー不足といった、現代の物流現場が抱える構造問題にも直面せざるを得ません。

特に少量多頻度や長距離配送が発生した場合、運用コストは外注便を大きく上回るケースが増えています。

外注便(委託配送・運送業者)のメリット・デメリット

外注便は、物流会社や運送業者に配送を任せる方法です。

最大のメリットは、コア業務に集中できることと、配送規模に応じてコストの最適化がしやすい点です。

最近ではIT活用やIoT車両管理、可視化されたトレーサビリティを持つ高度な3PL(サードパーティ・ロジスティクス)も台頭してきており、従来のイメージを一新しています。

一方で、納期の厳守や緊急対応、破損・誤納防止など「自社ならではの当たり前」が通用しにくいケースも出てきます。

外部委託ゆえに、現場の実態や顧客との細かな連携が希薄になりがちです。

なぜ使い分けができないのか?現場視点の本質課題

1. 「なんとなく自社便」に潜む思考停止

よくある例として、「昔からやっているから」「自社便が信用できるから」といった“安心感重視”の風土が払拭できていない企業が非常に多いです。

一方で、人手不足や労働環境の変化、外注コストの柔軟化といった環境変化には無意識に目を閉じてしまう傾向も見受けられます。

この「惰性による自社便依存」が、実はコスト増やドライバー疲弊、現場力の低下など、諸問題の温床となっています。

2. 情報共有・可視化のアナログ体質

昭和から令和にかけても変わらず残る「担当者の勘と経験」。

多くの製造現場では、“物流の見える化”が十分でなく、何がどこに、どのタイミングで、どんな方法で運ばれているのかがブラックボックス化しやすいです。

これでは、物流適正化の第一歩である「現状把握」が困難になります。

また、デジタル化が遅れることで外注便の有効活用も進まず、ますます自社便偏重のループに陥ります。

3. コスト意識の欠如と部門間サイロ化

自社便だけでやりくりしている現場によく見られるのが、「目先の物流費」ばかりに注目し、「トータルコスト」で物事を考えないという問題です。

購買・生産管理・物流・品質管理といった部門が縦割りになり、“自分事”として捉えず、最適解を議論し合う習慣が根付きにくい風土が障壁となっています。

結果、「どちらが良いか?」ではなく、「どちらが“楽”か・“慣れているか”」で手段を選んでしまう傾向が続くのです。

使い分けができないことによる企業損失とその兆候

明らかなコスト超過

例えば、遠方の顧客に対して少量商品を自社便で届けている場合、その運賃原価は一度しっかり棚卸すべきです。

持ち帰り運行や「ついで配送」の名目で、実は非効率なルートがまかり通っていないでしょうか。

外注便との価格差を定量的に比較し、目に見えるデータとして経営層に共有することが必要です。

納期トラブル・クレームの増加

自社便のキャパシティオーバーによる遅延や、外注便活用時の手配ミス、行き違いなどは、BtoB製造業で致命的な信用失墜に繋がります。

“人に依存した運用”が続いている現場ほど、誰も手を出せない形でトラブルが隠れやすいのが実情です。

ドライバー・現場負担の軽視

製造業の現場では往々にして、「現場スタッフが自社便のドライバーを兼務している」ケースも見られます。

繁忙期やイレギュラー時の残業・休日出勤の慢性化は、働き方改革の流れに逆行し、従業員の定着率を下げてしまう危険なサインです。

ラテラルシンキングで見直す“使い分け”の新視点

「自社便=信頼、外注便=コストカット」は時代遅れ

もはや物流の「使い分け」は、コストや安心感だけで捉える時代ではありません。

例えば、ある精密部品メーカーでは「例外対応・重要顧客対応は自社便」「ルート配送や定時納品は外注便」と明確に役割分担を進め、現場の効率化と品質向上の両立を実現しています。

このように物流手段ごとの“得意・不得意”を見極め、最適パターンを複数用意するラテラル(水平的)な発想が、現場の新しい定番となりつつあります。

DX時代の物流データ活用で判断を“見える化”

地図アプリやIoT、クラウド在庫管理が普及した現代では、「どの納品先は自社便が適正か」「どこは外注で十分か」をAIも活用しながら日々分析できる環境が整いつつあります。

これにより、「毎週月曜は自社便だけで回るのが当たり前」という昭和的思考から、「今週は外注活用で人員余力を確保する」「繁忙期だけ外注リソースを増やす」といった、柔軟かつ機動的な運用が現実のものとなります。

バイヤー・サプライヤー双方が“適正物流”でWin-Winを目指す

バイヤー(購買担当)は「納期遵守」や「コスト最適化」だけでなく、「サプライヤー現場の負荷分散」や「緊急時のバックアップ体制」まで目を配る必要があります。

反対に、サプライヤー側も物流手段の見直しを提案し、コストダウンや品質安定化に貢献するアプローチが新たな付加価値となり得ます。

たとえば「繁忙期だけは御社便」「定期納品は外注利用」と明文化したうえで、物流データを月次レビューで共有する。

このような協業型の物流マネジメントが、バイヤーから見た「安心できるサプライヤー」としての評価にも直結します。

今こそ求められる、“使い分け”を再設計するための施策

1. 物流実態の見える化と現場ヒアリング

まずは現状の「自社便・外注便比率」「配送件数・距離・原価・人時」などを正確に把握し、実態の数値化から始めましょう。

エクセル・手書き表からでもいいので、少しずつでもデータ収集を進め、自社あるいは拠点ごとの傾向と課題を可視化することが第一歩です。

2. 部門横断チームによる改善プロジェクト化

物流は調達や生産管理、営業、品質管理など、部門をまたいで複雑に絡み合っています。

サイロ化を打開するためにも、部門横断型の物流改善委員会を組成し、全員が“自分事”として最適手段を議論できる環境を整えましょう。

現場・管理職・経営層といった多層の視点が混じることで、思わぬ最適化案(たとえば次世代配送技術や共同配送提案)が生まれる可能性も広がります。

3. バイヤーもサプライヤーも“共創的マネジメント”を目指す

「物流費の押し付け」や「安易な丸投げ」ではなく、お互いの実態課題やKPI(納期遵守率、欠品率、物流コスト推移)を定期的に確認し合う共創的姿勢が不可欠です。

実際、物流改善によるコストダウン成果を双方で分け合う“Win-Win型インセンティブ設計”で、取引関係が長期安定化した例も増え始めています。

まとめ:現場発のラテラル思考で倦怠感を突破しよう

自社便と外注便の使い分けができていない企業には、アナログ風土や情報ブラックボックス化、思考停止といった昭和的課題が多く残されています。

いま求められているのは、物流=コスト・手段という発想から抜け出し、現場に即したラテラルシンキングで“ベストパターン”を刷新していく勇気と知恵です。

現場の知恵とデータ、そしてバイヤー・サプライヤー双方の協創力を活かすことで、使い分けという経営テーマは、やがて「現場起点の企業競争力」へと進化します。

ぜひ、今日から一歩、現場と経営とサプライチェーンが一体となって、自社の物流戦略を新しい地平線へと拓いていただきたいと思います。

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