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グランドパッキン方式で起こりやすい漏れトラブル

目次
はじめに:グランドパッキン方式はなぜ今も使われ続けるのか
製造業の現場において、ポンプや配管設備で長年使われてきたシール方式、それが「グランドパッキン方式」です。
近年はメカニカルシールや先進的なシーリング技術も普及していますが、実際のところ、多くの現場では昭和の時代から変わらぬグランドパッキンが現役です。
なぜ今もなお、こんなアナログな方式が生き残っているのでしょうか。
生産設備の更新コスト、現場作業者の実務ノウハウ、保守の容易さ、用途の汎用性など、さまざまな理由があります。
しかし、その反面、グランドパッキン方式が起因する「漏れ」のトラブルも根強く、現場の生産効率や品質に大きな影響を与えていることをご存じでしょうか。
ここでは、その本質と対策を、現場目線と業界動向の両面から深掘りしていきます。
グランドパッキン方式とは何か:原理と構造を解説
まず、グランドパッキン方式の基本を押さえておきましょう。
これはポンプやバルブなどで回転または摺動するシャフト部のシールに使われる方式です。
締付け用のグランドナットで加圧し、軸とハウジングの隙間をパッキン材(編組ガスケット等)で埋め、流体の漏れや外気の侵入を防ぎます。
特徴となるのは、そのシンプルさと低コスト、そして現場で調整・交換がしやすい点です。
いわば「職人の手に委ねられた合理性」が、今なお多くの現場で支持される所以なのです。
多様なパッキン材、選定のポイント
使われるパッキン材も多様です。
代表的な素材は、アスベスト(過去多用、現在は使用制限)、PTFE(テフロン)、カーボン、グラファイト、綿糸に潤滑剤含浸タイプなど。
流体の種類、温度、軸の速度や圧力によって求められるパッキン材は異なります。
ここを誤ると漏れリスクは一気に高まります。
漏れトラブルが多発する根本原因
グランドパッキンで発生しやすい「漏れ」。
なぜこんなにトラブルが多いのでしょうか。
現場経験から言えるのは、「人間の手に頼らざるを得ないアナログ方式」ゆえのリスクの高さです。
主な原因を見ていきましょう。
1. 締め付け管理の曖昧さと属人的なノウハウ
締め付けの「力加減」は、マニュアルや規格があっても現場作業者の感覚に大きく依存します。
「漏れを嫌って強く締め付けすぎ」→軸へ過大な負荷・摩耗発生。
「軸を傷めないように弱めに締める」→漏れが発生。
理想的なシール圧は「漏れない・かつ軸を適切に保護」という絶妙なバランスですが、この調整は熟練工でも難しいと実感します。
数値化・標準化が困難なため、現場でトラブル再発が後を絶たないのです。
2. パッキン材の経年劣化と摩耗
パッキン材は軸との摩擦、流体の化学的影響を日々受けています。
経年劣化で弾性・体積が減り、隙間が広がれば当然「漏れやすく」なります。
また、メンテナンス周期を伸ばした現場では、あからさまに潰れて原形をとどめていないことも多々あります。
3. 軸の芯ずれ、振動、表面粗さの問題
軸とシール面の芯ずれ、そして振動も大きな漏れ要因です。
定期的に軸の芯だしをしていなかった、コスト削減で研磨品質を甘く見た、そんな小さな不備もグランドパッキンでは致命傷になります。
4. 現場ごとにばらつく作業マニュアルと教育
「前任者に教わった通りにしかできない」「統一基準が現場ごとでバラバラ」という会社も多いでしょう。
教育コストを惜しんで、「見て覚えろ」が浸透していると、漏れトラブルは減るどころかむしろ増えていきます。
なぜトラブル低減が進まないのか:業界の昭和的体質
製造業は「モノづくり日本・匠の技」のイメージが色濃い業界です。
ただし、こうした伝統の裏で、アナログな職人芸のみに依存した状態もいまだ根強く残っています。
技術革新が叫ばれ、IoTやAIの自動監視も普及してきましたが、グランドパッキンの調整・監視は「温度・漏れ量・摩耗」など、人間の五感と経験則に左右されがちです。
IT化・自動化の導入コストやリターンの分かりづらさも相まって、徐々に置き去りになっているのが現状です。
現場の声を経営層が「見過ごす」構造的な問題
グランドパッキンは「当たり前の消耗品」「多少の漏れは仕方ない」「古い設備だから…」と流されがちです。
しかし、現場で生産ロスや歩留まりの悪化、火災リスクや環境リスクなど、見えないコストが巨大化しています。
経営層と現場のコミュニケーション断絶によって、改善イニシアティブが十分発揮されない点も、令和の今なお根強い課題です。
漏れトラブルを防ぐ現場目線の具体策
では、グランドパッキン方式で漏れトラブルを極力減らすにはどうしたらよいのでしょうか。
30年超の現場経験から、次の4点を強く推奨します。
1. 標準作業手順(SOP)と「見える化」
グランドパッキンの締め付け、交換手順、適正トルク値、および定期点検項目などを、明確なマニュアル+写真・動画で「見える化」しておくこと。
ベテランの感覚任せから脱却し、定量的管理を徹底します。
工夫としては「トルクレンチの導入」「漏れ量チェックシートの活用」「軸径ごとの基準資料の掲示」などです。
2. 適切なパッキン材選定とメーカーとの連携
流体の腐食性・温度・圧力・軸速度に応じて、最適なパッキン材の選定を必ず行いましょう。
メーカーや商社と連携し、サンプルテストや潤滑剤の最適化なども相談することで、適合不良を防げます。
「安さ優先」「昔からこれ」といった思い込みは厳禁です。
3. メンテナンス周期と交換履歴の一元管理
漏れや摩耗が起きる前に、「予防交換」を徹底するのがポイントです。
いつ・誰が・どの個所を作業したか、一元的な記録を残すことで、トラブル部位の見逃しや担当者ごとの作業バラツキも減らせます。
近年ではクラウド管理システムも安価で導入可能なため、取り組みのハードルは下がっています。
4. 部品精度と芯出し品質の見直し
設備更新の際は、グランド部の精度(軸径公差、表面粗さ)や、据付時の芯出し精度までしっかりこだわりましょう。
どんなにパッキンが高性能でも、軸の偏心やラフな取付では意味がありません。
設備設計者・保全担当・現場作業者の三位一体の連携が不可欠です。
バイヤー&サプライヤーが押さえるべきトラブル視点
購買担当、サプライヤー担当は「単なるコスト比較」だけでなく、グランドパッキン運用の現場起因リスクまで理解しておくべきです。
パッキン選びの際、耐久性・摩擦係数・潤滑相性・交換性など、見えないトータルコストも議論対象に加える視点が広まっています。
工場側の現場ニーズをしっかりヒアリングし、「現状維持が安全」というバイアスを崩せる提案力が問われる時代です。
一方サプライヤーは「なぜこのパッキンでなければならないのか?」を具体的根拠とセットで提案することが信頼獲得の第一歩です。
今後の業界動向:アナログからデジタル監視への転換期
IoT技術やセンシングの進化によって、「漏れ発生をリアルタイム監視」「締め付けトルクの自動記録」など、デジタルとアナログの融合が急速に進みつつあります。
従来の「昭和の現場感覚」と「令和のデータ活用」のハイブリッド化が、今後の主流となるでしょう。
製造業界としては、こうした時代の変化を柔軟に受け入れ、現場主体で積極的に新技術を模索する推進力が求められます。
まとめ:新しい地平線を切り拓くために
グランドパッキン方式を取り巻く「漏れトラブル問題」は、昭和から連綿と続くアナログ管理の象徴でもあります。
現場目線での具体策、デジタル監視との融合、サプライチェーン全体での問題共有が、これからの製造業には不可欠です。
技術と経験、ヒトとデータが新しい知恵を持ち寄ることで、製造現場の生産性・品質・安全は次の地平線を目指すことができると、私は確信しています。
皆さまもぜひ、現場の声を活かしつつ、新たな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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