投稿日:2025年12月16日

海外からの輸入リードタイムを読み誤る企業の特徴

はじめに:なぜ輸入リードタイムの読み違いが起きるのか

日本の製造業は、国内外の多様なサプライヤーとの関係を築きながら、高品質・高効率なモノづくりを続けています。

しかし、グローバル化・調達先の多様化が進む中で、「海外調達品のリードタイムを読み誤る」という失敗に直面する企業は後を絶ちません。

特に、長年アナログな調達・購買習慣が根強く残る業界や、昭和から変わらぬままの現場では、計画の遅延や余剰在庫・生産停止といった深刻な事態を招くことがあります。

本記事では、海外からの輸入リードタイムの読み違いがなぜ起きるのか、どんな企業に多いのかを実践的な目線で分析します。

また、バイヤー志望・サプライヤー案の立ち位置の方にも役立つ「本音」や「業界のリアル」も交えて、リードタイム管理の新たなヒントを考察します。

輸入リードタイムとは?基本を再確認

リードタイムの定義

リードタイムとは、必要な資材や部品、製品などを発注してから自社に届くまでの期間を指します。

「船便=3週間」など一律ではなく、商流・物流・法令・サプライヤー現地の事情などさまざまな要素が絡み合います。

輸入リードタイム算出の流れ

発注
サプライヤー側の生産・調整
通関・積込み
国際輸送(海上・航空)
日本側で通関・搬入
自社への納品
このすべてに隠れコストや「見えにくい時間」が発生しやすく、計画の前提を誤ると後工程に重大なリスクとなります。

リードタイムを読み誤る企業の実態

1. 現場と調達部門の距離が遠い

昭和以来の組織体質が色濃く残る企業では、調達部門と生産現場の情報共有が分断されがちです。

たとえば、現場では日々の生産遅れや部品不良・歩留まり低下に直面していますが、調達部門は「カタログ通り」「取引先が言う納期通り」で予定を組んでしまうケースが多々あります。

調達が本当の現場事情を知らずに「旧来の感覚」で輸入リードタイムを計画することで、大幅なズレが生じやすくなるのです。

2. 過去データに頼りすぎる

グローバル調達の最大の落とし穴の一つは、「去年も大丈夫だったから今年も大丈夫」という思い込みです。

震災・パンデミック・戦争・コンテナ不足・港湾ストライキなど、昨今の国際社会は波乱要素に満ちています。

例えば、中国や東南アジアからの調達の場合、旧正月や独自の祝日、突然のロックダウンや気象災害にリードタイムが大きく左右されます。

過去実績(アベレージ値)だけを鵜呑みにすることで、急激な変動リスクを見逃してしまう企業が後を絶ちません。

3. サプライヤー依存度が高すぎる

信頼のおけるサプライヤーであっても、彼らの情報のみを100%信じてしまうのも危険です。

特に海外取引では文化・商習慣・約束認識にズレが多く、納期回答の「〇月〇日着」は「船積日」を指すのか「日本到着日」なのか曖昧なまま話が進むことも珍しくありません。

国内と同じ感覚で発注・調整していると、想定より大幅に遅れた「届かない」問題に発展します。

リードタイム誤認がもたらす“現場崩壊”の現実

生産計画・納期遅延の連鎖

リードタイムを読み誤った場合、調達部材や部品が計画通り工場に届きません。

1日遅れるだけで、その日予定していた生産ラインが停止し、後工程・最終組立の納期遅延にも連鎖。

顧客への信頼は下がり、現場では「なんで納品が間に合わないのか」と調達部門と製造現場がギスギスしはじめます。

過剰在庫・余剰コストの発生

逆に、前回の遅延トラブルを恐れるあまり「とりあえず多めに発注・前倒し発注」を繰り返すと、今度は在庫過多・保管コストの増加、キャッシュフロー悪化を招きます。

たとえば、船便なら1年以上先の需要分まで「念のため」発注し、結果として数千万円分の在庫滞留が経営を圧迫…という悪循環も起こり得ます。

クレーム・信用失墜リスク

納期遅延は取引先からのクレームへと直結します。

近年、大手メーカーではSDGs(持続可能な調達)・コンプライアンス重視が進み、調達遅延やトラブルを起こしたサプライヤーには「ブラックリスト」入りなど厳しいペナルティが科されるケースも増えています。

アナログ体質の企業にありがちな落とし穴

紙の台帳管理から抜け出せない

今なお、調達管理を紙・エクセル台帳やFAXで行っている企業は少なくありません。

情報参照や緊急対応のスピードが遅れやすく、「誰が・いつ・どこで」調整したか分からなくなるため、リードタイムのズレが表面化しないままトラブルに直結します。

属人的な調達ノウハウ

「○○さんに聞けば分かる」「ベテラン担当者がいれば大丈夫」

こうした属人依存は引き継ぎミス・ノウハウ消失を招きがちです。

加えて、海外サプライヤーは人事異動・経営環境の変化も極端に早く、日本流の「顔が効く」は通じません。

現場の“読み”だけに頼る危険性

現場ベテランの「長年の勘と経験」は確かに貴重です。

しかし、グローバルサプライチェーンが複雑化した現在、その読みは通用しない局面も増えています。

情報のアップデートと多角的なシミュレーションなしには、大局的な判断を誤りかねません。

リードタイム見積の精度を高める実践手法

サプライヤーとの情報交換会開催

年に数回、オンラインも併用したサプライヤーとのJoint MTGを実施することで、現地の製造状況や物流トラブル、法規制動向をリアルタイムで把握できます。

また「納期回答は日本着?積出し日?」など用語の意味をすり合わせる文化作りも有効です。

リスクシナリオ型の計画見直し

最悪ケース(例:港湾ストライキ発生、天候悪化による船便遅延等)を盛り込んだリードタイム管理が必須です。

「この部品納入遅れたら、Aラインは止まるが、B製品には転用できないか?」「航空便への切替えコストはいくらか?」など、シナリオごとに事前にシュミレーションを行いましょう。

システム導入と現場教育の両輪

SCM(サプライチェーンマネジメント)システムやEDIを活用し、調達依頼・受入・納品すべてを「見える化」することが望ましいです。

ポイントは、システム導入だけに頼るのではなく、現場担当・調達部門への実践教育とセットで進めること。

「システムは使いこそが命」です。

サプライヤーの立場から見たバイヤー像

サプライヤーから見て、優秀なバイヤーほど「現場目線・マクロ視点・リスク意識」の三拍子が揃っています。

また、トラブル時には感情的な糾弾よりも、「次から同じことが起きないためにはどうするか」をサプライヤーとPDCAサイクルで話し合う姿勢がとても評価されます。

逆に、昭和的な命令型・責任転嫁型のバイヤーは、サプライヤー側も「本音で話さない」「正直な情報を出したくない」と感じるので注意しましょう。

まとめ:アナログからの脱却と新たな地平へ

海外からの輸入リードタイム管理は、昭和的な“勘”や過去データに頼ったアナログ管理では乗り越えられません。

現場感覚・システム活用・多角的な情報収集・サプライヤーとの本音の対話、そして常に「最悪」を見越したシナリオ作りが、21世紀の製造業には求められています。

今後、AIやIoTの技術進化とともに「リードタイムの見える化」や「需要予測の高精度化」がますます進むでしょう。

古い体質からの脱却を恐れず、新たな地平を自ら切り拓いていくこと。

これこそ、日本の製造業に求められる真の競争力の源泉だと、現場経験者として強く実感しています。

現場と調達、サプライヤー、全員が一丸となり「現実的なリードタイム管理」を進めていきましょう。

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