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産業医サービスを契約しても相談が増えない職場の共通点

目次
はじめに:産業医サービス契約の意義と現場のギャップ
近年、働き方改革やメンタルヘルスへの関心の高まりを受け、多くの製造業が産業医サービスの契約を進めています。
従業員の健康管理や労働環境の改善は企業にとって重要なテーマであり、生産性向上や人材定着にも大きな影響を与えます。
しかし、「産業医サービスを契約したものの、従業員からの相談件数がほとんど増えない…」という悩みを持つ工場や職場は少なくありません。
特に昭和気質が色濃く残るアナログな現場では、産業医の重要性は理解しているものの、期待したほどの効果を実感できていないのが実情です。
この記事では、製造業現場で20年以上培った経験をもとに、現場目線で「なぜ相談が増えないのか」「どうすれば相談しやすい職場になるのか」を徹底的に深掘りし、今後の産業医活用のヒントを提供します。
産業医サービス導入の目的の再整理
制度導入=ゴールではない
多くの企業では「産業医サービスを契約した」という事実自体を成果として捉えがちです。
しかし、制度の導入はあくまでスタートラインであり、従業員が実際に産業医や保健師に相談し、健康課題や職場課題を解決してこそ初めて意味があります。
本来の目的:健康経営とリスク低減
産業医サービスの真の狙いは以下の2点に集約されます。
– 従業員の身体的・精神的な健康保持・増進
– 健康課題やリスクを早期発見し、深刻化を防ぐ
この観点から見れば、「相談が増えない」という状態は、まだ制度が十分に機能していないサインとも言えるのです。
相談が増えない職場によくある“5つの共通点”
製造現場で長年働く中で、相談件数が伸びない職場にはいくつかの共通する特徴があることに気付きました。
以下で、特に重要な5つのポイントを掘り下げます。
1. 相談が「悪いこと」と認知されている文化
古くからの製造現場あるあるですが、「悩みや不調を公にする=根性が足りない」「弱音を吐くのは恥」といった雰囲気が根強く残っています。
– 周囲の目が気になる
– 上司から「我慢が足りない」と捉えられる
– 他の社員に負担をかけてしまうと感じる
などの同調圧力と遠慮が、相談への第一歩を阻んでいるのです。
2. 産業医サービスが「見える化」されていない
どんな制度も「知らない・よく分からない」では活用されません。
掲示板に月1回の産業医面談の日時がひっそり張り出されているだけ、相談窓口が分かりにくい、どんなことを相談できるのか説明不足…。
これらは全て相談件数の低迷につながります。
3. 産業医や保健スタッフとの心理的距離が遠い
現場に寄り添う産業医であれば、雑談や休憩時間のコミュニケーションなど“顔の見える関係作り”も心がけます。
しかし、多忙や人事との関係性などから「ただの来客」にとどまってしまう産業医も多く、従業員から見れば話しかけづらい存在=“壁”になっているケースが少なくありません。
4. リーダー・管理職の認識と姿勢
現場に強い影響力を持つ現場リーダーや班長、課長クラスが
– 「産業医相談なんて意味がない」
– 「現場の話は現場で解決しろ」
といった態度を見せていると、若手や新入社員の行動意識に大きなブレーキがかかります。
5. 相談内容の漏洩懸念・守秘義務への不信感
製造業現場でよく聞くのが「相談した情報を人事や上司が知ってしまうのでは」という声です。
この背景には、
– 守秘義務の説明が不足している
– 実際に過去に情報が漏れていた疑いがある
– 産業医と経営層の距離感が近すぎる印象
など、不安や不信感が根底に存在しています。
昭和からの価値観と日本の“ものづくり現場力”の課題
“我慢強さ・現場魂”は悪なのか?
なぜ、これほど「相談しない文化」が根強いのでしょうか。
“ものづくり日本”を支えてきた昭和型現場には、困難や厳しい状況を仲間と力を合わせて乗り越える―という美徳や、自己犠牲の精神が脈々と流れています。
確かにこうした価値観は高度経済成長期を支え、素晴らしい現場力を実現してきました。
しかし、その一方で「声を上げた人が損をする」「問題は現場で何とかしろ」という固定観念が、現代の健康リスクや多様な生き方が求められる時代には足かせとなっているのも事実です。
変わる現場、多様化するリスク
現代工場では、
– 高齢化するベテラン層
– 外国人労働者や非正規社員の増加
– 職場のデジタル化や自動化で人間関係が希薄化
– コミュニケーション機会の減少
など、新たな課題に直面しています。
現場職長の一存や、過剰な自己犠牲だけでは、もはや健康維持と組織の持続的成長は難しい時代と言えるでしょう。
相談しやすい職場・本当に機能する産業医サービスとは
ここからは「相談が“自然と増える”職場」へ変えるために、具体的にどのような取り組みをすべきか、経験に根差して提案します。
1. 制度として“使いやすさ”を追求する
– 「こんなことも相談してOK」と幅広く事例を明文化する
– スマホやタブレット、匿名Webフォームなど、現場実態に沿った相談窓口を用意
– 実際の相談事例(もちろん匿名で)を社内報や朝礼で定期発信し、成功例・対応例をシェア
2. 現場に根付いた産業医・保健スタッフのアプローチ
「工場の現場に1日入り込んでラインワーカーともさりげなく雑談する」など、顔が見える関係・心理的ハードルを徹底的に下げる取り組みが重要です。
業務に支障が出ない範囲での個別面談、休憩時間の巡回、現場の「ちょっとした困りごと」にも応じられる柔軟性が必要です。
3. 管理職・リーダー層への徹底的な意識改革
「相談は現場で解決」の美徳を捨てきれないリーダー層にこそ、産業医サービスの目的や重要性を丁寧に説明し、“相談を推奨する側”へ巻き込みます。
– 管理職研修で産業医との連携事例を共有
– 相談件数が増えるほど「良いマネジメント」の評価につながる仕掛け
– 若手リーダーからの成功体験の場づくり
現場の空気が変われば、自然と相談件数も増えていくのです。
4. “守秘義務”と安全性の徹底説明
– 産業医自身が現場で直接「守秘義務」を繰り返し説明
– 情報の取り扱いルールを文書・ポスター化し可視化
– 年に一度は従業員アンケート等で「安心して相談できるか」を確認
こうした“見える化”によって、相談への不安や嫌悪感を着実に解消します。
5. 工場の現場特性を踏まえた柔軟な制度設計
現場作業のシフト制や、外国人スタッフ向け多言語対応など、“現場から見た不便”を丹念に聞き出し、対策を講じることが成功のカギです。
サプライヤー/バイヤー視点から見た産業医サービスの真価
サプライヤーとして製品を納入する立場の場合、納品先で健康課題による長期欠勤や生産トラブルが生じれば、受注や納期にも影響します。
バイヤーとしてはパートナーである取引先の現場力・健康経営に注目しています。
その観点からも、産業医サービスが“名ばかり”ではなく、活発に機能しているかどうかは大きな評価軸です。
信頼できるパートナー作りのためにも、お互いの現場での課題や取り組みを積極的に情報共有し、「健康×生産性」の両立に協力する姿勢が求められます。
まとめ:アナログな現場こそ、“相談”の文化が競争力に
製造現場は人と人との信頼、現場力こそが最大の資産です。
「産業医サービスを契約したのに相談が増えない」という課題に直面した時こそ、
– 制度の“本当の使いやすさ”
– 現場リーダー層の意識
– 見える化・安心の徹底
を改めて見直し、現場ならではの知恵と工夫を加えていくことが重要です。
古き良き「我慢の美徳」だけでなく、新たな時代の「相談する力」が、今後の製造業・ものづくり現場の真の競争力となるはずです。
現場の皆さんが「相談は当たり前」「健康課題も現場改善対象」の意識を持つことが、これからの製造業発展の大きなカギとなります。