投稿日:2025年10月25日

飲食店がオリジナル商品を作るときに陥りやすい「味覚の勘違い」とその回避法

はじめに ― オリジナル商品開発で陥る「味覚の勘違い」

飲食店が独自のオリジナル商品を作る動きが近年ますます活発になっています。

ECの台頭やコロナ禍による非接触需要の高まりもあり、店頭での提供だけでなく、自社商品としての販売が新たな収益源となってきています。

しかし、ここで数多くの現場で目にする失敗があります。

それが「味覚の勘違い」です。

この落とし穴に気づかず、せっかくの商品が「売れない」「リピーターがつかない」「そもそも流通にのらない」といった悩みに直面する飲食店が後を絶ちません。

そこで今回は、製造業界で20年以上、調達購買と品質管理の現場に携わってきた経験を生かし、オリジナル商品開発における「味覚の勘違い」とその回避法について、現場目線で徹底解説します。

「味覚の勘違い」とは何か

お店の味=お客様の味覚ではない

飲食店が自店で提供する料理の味をそのまま商品化する際、陥りがちなのが「自分たちの味がそのまま市販商品でも通用する」という勘違いです。

店舗で食べる「最高の味」は、環境・雰囲気・出来立て・スタッフの話術など、総合的な体験によって補強されています。

しかし、オリジナル商品として店外で消費されるとき、お客様は味そのものだけで評価します。

このギャップを軽視すると、“現場の美味しさ”が“売れる味”に変換できず、失敗に終わるのです。

厨房の経験値バイアスに注意

味に対する自信は、長年厨房で腕を磨いてきた飲食店オーナー・シェフほど強くなります。

ですが、業務用調味料や素材で鍛えた舌と、市場の味覚は必ずしも一致しません。

多様な顧客層が求める味覚を知らずして、独りよがりな商品を作ってしまうケースが多発しています。

工場生産で起こる味覚の変化

原材料・調理機器・作業環境の違い

店内調理と工場生産では、原材料の調達スケールや品質管理体制、そして加熱・冷却などの調理工程がまったく異なります。

店舗で出せていた味の再現は、規模の経済やオートメーション化の部分最適に阻まれることがあります。

具体的には、以下の問題が発生します。

・業務用の加熱機器と工場のスチームコンベクションでは食感や香りが変わる
・冷凍耐性や保存方法により、味が劣化しやすい
・ロットごとの微妙な味の違いが出てしまう

このような“製造ギャップ”を理解しないまま「店の味を忠実に再現!」と謳っても、現実的には難しい場合が多いのです。

原価率と味覚のバランス

飲食店では「味が最優先、コストはギリギリまで努力」という発想が強く働きます。

しかし、量産やOEM委託となれば、原価率を意識した設計が必要不可欠です。

高価な素材や手間のかかる工程は、製造現場からの「コスト・オペレーション上のNG」を受けやすくなります。

この結果、試作で「思った味にならない」と悩みがちですが、これは味覚に“製造業的制約”が加わったことで初めて直面する現実なのです。

バイヤー/サプライヤーの視点で考える「売れる味」とは

市場調査が示す“売れる味”の傾向

小売やECサイトのバイヤーの多くは、データやトレンドを見て「売れる味」を分析しています。

例えば、「万人受けする中庸の味」や「明確な地域/テーマの尖った味」が売れ筋になる傾向があります。

どちらも共通しているのは、
・“お客様の行動データ”を反映して設計されている
・売り場(流通チャネル)にフィットした味にアジャストしている という点です。

つまり、店主の“こだわり”だけが前面に出た味ではなく、「市場や流通の要請とバランスした味」に調整することが、地道なヒット商品につながります。

バイヤーが警戒する「味覚の独りよがり」

小売バイヤーやEC担当者が恐れるのは、「これはお店の看板ですが、一般のお客様には難しいかもしれません」という商品です。

なぜなら、卸や仕入れでは返品や売れ残りのリスクを最小化したいからです。

「店で絶賛された味」「常連に大人気」という主張だけで説得しようとせず、データをもとに“お客様にどんな価値を提供できるか”まで説明した方が、バイヤーの信頼を勝ち得ます。

味覚の勘違いを避けるためにやるべきこと

社内の「味見サンプル会」に潜む罠

オリジナル商品の試作時、店舗スタッフや家族・知人だけで「試食会」を開くケースが多いですが、これは一種の“身内バイアス”の温床となります。

本音が言いにくい環境や、「美味しい」と言わなければいけない空気感が「味覚の勘違い」を加速させます。

中立の第三者モニターを活用する

もっとも有効なのは、ターゲット顧客層に近い外部モニターによるブラインドテストです。

・性別・年代・エリアなど異なる属性のモニターを集める
・比較商品(競合品)と一緒に利き味テストを実施
・忖度なしのフィードバックをもらう

このステップで得た“ガチな意見”を商品設計に生かすことで、味覚のズレをかなり防ぐことができます。

バイヤーやサプライヤーと早い段階で協業する

商品完成後にバイヤーやサプライヤーへ“売り込み”をかけるケースが大半ですが、実はマーケットに強い流通担当者たちと早い段階からコミュニケーションをとる方が成功確率は格段に上がります。

・この商品がどんな売り場に合うか
・パッケージや語り口でどんな差別化を図るべきか
・店舗味のどの部分を活かし、どこを妥協するか

こうしたディスカッションを製造・流通のプロと一緒に行うことで、市場とズレのない商品開発が実現できます。

業界の動向と今後の展望

「昭和型の勘と経験」から「数値と科学的裏付け」へ

日本の食品製造業はいまだに「職人の勘と経験」や「現場感覚」を重んじるトーンが根強く残っています。

しかし、消費者の嗜好が多様化し、かつ購買行動がスマホやECを中心とした“データドリブン”にシフトしている今、小さな現場バイアスはすぐに大きなロスにつながります。

今後は、以下のキーワードが“売れるオリジナル商品開発”のカギを握ると考えます。

・試食モニター、デジタルフィードバック、AIによる味覚分析の活用
・サプライチェーン全体の視認性と協業による価値創出
・工業化=味の劣化ではなく、情報と技術で味の進化を追求する姿勢

現場発アイディアから“価値ある商品”へ進化させるには

店主やシェフの「現場の想い」は唯一無二の商品ストーリーの源泉です。

その魂を「売れる商品」として流通させるには、自分の味覚だけで完結するのではなく、“市場の声”とのハイブリッド化が必要です。

製造業の現場で言えば、

・中小企業やスタートアップなら「開発-設計-生産-販売」の一気通貫風土を活かす
・大手なら「バイヤー/サプライヤーと共創するオープンイノベーション体制」を構築する

というようなアプローチが推奨されます。

まとめ ― 「味覚の勘違い」を味方につける発想転換

飲食店発のオリジナル商品開発で陥りやすい「味覚の勘違い」は、単なる失敗要因ではなく、課題解決型イノベーションの入口でもあります。

自店の“こだわり”を否定するのではなく、

・現場の味覚×市場のニーズ×製造の制約
・店舗体験×サプライチェーン全体の知見

という視点で“本当に売れる・愛される味”へと進化させることが、中長期的な事業成功へつながります。

昭和の成功体験にしがみつかず、「ラテラル思考」で新たなマーケットと味の交差点を探りながら、ぜひチャレンジしていただきたいと思います。

そうすることで、日本の飲食業界・製造業界全体の価値拡大にもつながるはずです。

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