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日本企業が海外に輸出するときの“誤解されがちな品質アピール”

目次
はじめに:日本企業の「品質アピール」に潜む落とし穴
日本の製造業は、世界でもトップクラスの品質管理と高い技術力で知られています。
実際、私が現場で長年働いてきた経験からも、現場の細やかな気配りと改善への意欲は、他国と一線を画すものがあります。
ところが、それらの強みを海外の顧客にアピールする際、「誤解されてしまう品質アピール」が少なからず存在することをご存じでしょうか。
この記事では、昭和の時代から脈々と受け継がれてきた日本的「品質信仰」が、グローバル市場ではどのようなズレを生みやすいのかを、現場の実感と共に解説します。
また、バイヤーの視点や、サプライヤーとしてバイヤーの期待にどう応えるかについても触れながら、これからの日本製造業が取るべきアクションを探ります。
品質アピールでよくある“誤解”~日本と世界のギャップ~
「高品質=選ばれる」は本当か?
日本の製造業界では、「高品質こそ正義」「いいものを作れば売れる」という価値観が強く根付いています。
これは、1950~1980年代の高度成長期やバブル経済期、そして「メイド・イン・ジャパン」が世界を席巻した時代の成功体験からきているものです。
確かに、JIS規格や厳しい社内基準による品質管理こそが、信頼とブランドを生み出してきました。
しかし、現代の海外市場では事情が異なります。
多くのバイヤーは「自社に必要な品質かどうか」「サプライチェーン全体としての最適かどうか」で評価してきます。
たとえば「性能スペックが過剰でコスト高」「アメ車や家電の規格に合っていない」など、“品質の良さ”が必ずしも満足につながらないケースも珍しくありません。
よくある海外での認識のズレ
– 日本側:世界最高の品質を納期厳守で実現します
– 海外バイヤー:必要十分なスペックで、納期に間に合い、コスト競争力があればOK
このように、「最適化」の視点や「機能品質」と「コスト品質」のバランスが、しばしば日本と海外でズレてしまうことが多いのです。
日本企業が無意識にやりがちな“誤解されるポイント”
1. “スペック自慢”だけでは伝わらない
たとえば、図面上で0.01㎜単位の高精度、10年トラブルなしの耐久性、複雑な検査工程や全数検査の徹底…。
現場の努力の結晶そのものですが、海外のバイヤーから「その精度、本当に必要?」「オーバーエンジニアリングでは?」と問われることが増えています。
バイヤーは「自社のエンドユーザーにとって“十分”で“リーズナブル”か」を重視します。
つまり、無用にハイスペックだと「価格が高い」「納期が長い」など、かえってネガティブになりやすいのです。
2. 品質に対する“考え方”が違う
日本では「工程保証(そもそも問題が起きないように)」という文化が強いです。
しかし、多くの海外企業(特に欧米)は「製品保証(問題が起きたときにどうするか)」という考え方が中心となります。
つまり、重大な問題さえ避けられればOK、残りは保証やアフターサービスの枠組みできちんと補償すればよい、という経営判断が一般的です。
何があっても「絶対に不具合を出さない」ことに時間とコストを費やしがちな日本の現場とは、根本の思想が異なっていると言えます。
3. アフターサービスやトレーサビリティの意識差
日本のサプライヤーでは「納品したら終わり」という旧態依然とした考えがまだ一部に残っています。
また、修理や保証へのノウハウ提供、データベース化したトレーサビリティなど、海外では標準化されているサプライチェーン上の連携が、日本では手薄な場合も。
「作ったものの性能」だけで十分なアピールになるとは限らず、「買った後の安心や使い勝手」も含めて評価される時代になっています。
バイヤーの本音と現実~何を求め、どう考えているか
コスト・納期・品質バランスの最適化
バイヤー側の会議に同行したとき、必ず重視されるのが「コスト・納期・品質」の3要素のバランスです。
彼らは「予算」と「工程スケジュール」という厳しい制約の中で製品選定を行っています。
極端な話、「多少リスクがあってもコストが抑えられれば、そのリスクも計算に入れた上で取引する」という判断を下すことも珍しくありません。
品質一点突破ではなく、いかに「トータルコスト」を下げられるか、逆に「トラブル時のコスト増や信用低下をどれだけ抑えられるか」の観点が強くなっています。
「適正品質」=最も合理的な品質水準
バイヤーの実務では、“必要な水準”を明示し、それを満たしていればOKという合理的な指標が求められることが多いです。
特に自動車、電機、半導体などグローバル規格のある領域ではスペックの“上積み”も査定ポイントにならず、「なぜそのスペックが必要なのか」の説明責任も発生します。
つまり、「どうすれば相手先の要望にジャストフィットするか」を読み解き、自分たちの強みを翻訳して伝える“提案力”が日本企業にはますます必要とされているのです。
サプライヤーの同質化と差別化
アジア諸国や新興国メーカーの急成長によって、「品質レベルの同質化」が進行しています。
中国、インド、東南アジアでも「世界標準の品質管理手法」の導入・定着が進み、もはや日本だけのアドバンテージではなくなってきました。
そんな中、「品質自慢」だけだと簡単に代替されやすくなります。
むしろ、現地の事情に合わせた「柔軟なカスタマイズ」「迅速な対応」「現地調達力」など、プラスαの付加価値こそが評価されるようになっています。
競争力をつける“新しい品質アピール”のポイント
1.エンドユーザーの価値・バイヤーの悩みを徹底把握
まずは「現地が何に困っているか」「どんな価値観を持っているか」を徹底的にヒアリングしてください。
彼らの“困りごと”や“製造ラインの制約”を理解し、自社の強みがどのように役立つかを言語化することが大切です。
たとえば、単に“精度が高い”“長寿命”を訴求するのではなく「故障率減で、年間保全コストが○%低減」「突発トラブルの作業時間が1/2に短縮」など、“現地担当者にとって明確なメリット”に変換してアピールするのが有効です。
2.“工程の見える化”や“適正保証”をセットで提案
「最終製品の保証」以上に、工程管理やトレーサビリティの“可視化”をアピールしましょう。
・不具合履歴の公開や改善活動のデータ化
・納品後の追跡保証
・オンラインでの品質説明会や定期リモート監査
など、仕組みそのものを「サービス」として打ち出すと、海外バイヤーから高い信頼を得られます。
3.“日本流ものづくり”のストーリーを再定義
昔ながらの“良いものをコツコツ作る”だけでなく、
・納期や仕様変更へのフレキシブルな対応
・ISOやIATFなどグローバル標準との連携
・現地パートナーと協働する姿勢
など、“今の時代に合わせて進化している”日本流ものづくりのストーリーが重要です。
伝統技術に頼るだけでなく、「現場の暗黙知」を言語化し、デジタル化・標準化まで踏み込めば、さらにグローバル企業の競争相手との差別化ができます。
今までの品質アピールの「アップデート」が求められているのです。
進化する品質アピールが、製造業の未来を切り開く
日本の製造業が海外進出する際、「品質の高さ」に誇りを持って伝えることは間違いではありません。
しかし、その伝え方が「一方通行」や「時代遅れ」になってしまえば、せっかくの長所も十分に評価されません。
これから大切なのは、“相手の土俵”で自分の強みを語れる力を持つことです。
「なぜこの品質が、目の前のバイヤーの利益や課題解決につながるのか」
「なぜ日本メーカーと取引するとサプライチェーン全体が強くなるのか」
その理由までを具体的なエビデンスで示すのが、今求められている品質アピールです。
サプライヤーの立場の方も、自社の現場力を言語化し、海外バイヤーと対等にコミュニケーションできる力をつけていくことが重要になるでしょう。
それが、“昭和の伝説”ではない、“これからの日本の製造業”をつくる鍵となるのです。
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