投稿日:2025年12月16日

在庫精度が低い企業ほどリードタイムが伸び続ける理由

はじめに:在庫精度とリードタイムの関係を正しく理解する

製造業の現場で「在庫の正確さ」がどれほど重要か、日々痛感されている方も多いでしょう。
しかし、その在庫精度がリードタイムと密接に結び付いていることまでは、意外と明確に意識できていない現場も多いのが実態です。

こうした課題は、特に昭和的なアナログ管理が色濃く残る企業ほど根深く、現場の混乱や納期遅延を引き起こす温床となっています。
本記事では、製造業の現場目線から「なぜ在庫精度が低いとリードタイムが伸びるのか」その理由を掘り下げます。
また、アナログ管理から抜け出すための具体的な改善ポイントや、調達・生産管理・バイヤーとサプライヤー双方の視点も交えつつ解説します。

在庫精度の低さがリードタイムに与える直接的・間接的影響

製番管理と現物管理の錯綜による所在不明

在庫精度が低い現場によく見られる現象が、「現物が見当たらない」「棚卸しと実在庫が合わない」という日常茶飯事な混乱です。
実際、私もかつて工場長を務めていた際、棚卸し差異がひと月で1割を超えたことがありました。

本来ならすぐ生産に回せるはずの部材が見つからない。
結果として、即納できるはずの製品が「次の棚卸しまで保留」となり、1日2日と無駄にリードタイムが延長されていきます。
これは「捜索コスト」「待ち時間の増大」という形でリードタイムに直結するロスです。

誤発注・過剰発注の連鎖反応

在庫精度が低いと「在庫があるはずなのにない」「ないはずなのに余っている」という逆転現象が頻発します。
担当者はリスク回避のため、いつも多めに発注しがちになり、これがさらに在庫過多を招きます。

一方で、見かけ上在庫が十分でも、いざ必要なタイミングで「実は欠品」というケースも発生。
納期遵守のためには、調達リードタイムを一律で長めに設定せざるを得なくなり、すべての製品でリードタイムがだらだら伸びてしまいます。

計画精度の低下が生産全体を歪める

生産現場は「計画通り」に回ることがもっとも効率的です。
在庫精度が保証されていないと、生産管理部門は「予定通りに部材が揃う保証がない」ため、不確定要素が増えます。

こうした環境下では、どうしても「バッファ在庫を多めに持つ」「進捗管理を甘めに設定する」など、守りの姿勢にならざるをえません。
結果、本来はもっと短縮できるはずのリードタイムが、組織防衛本能によって“自ら”引き延ばされてしまうのです。

サプライヤー・バイヤー間の信頼低下による納期遅延

バイヤーとしては「御社は在庫管理が甘い」とサプライヤーに認識されてしまうと、納期遵守のリスクを見越して余計に“前倒し”または“安全マージン”を要求されます。
結果、調達リードタイムが本質的な生産・輸送リードタイム以上に伸び、全体の納期が長くなる悪循環に陥ります。

これは企業同士の信頼醸成にも大きな悪影響を与え、競争力の低下にも直結します。

なぜ在庫精度が改善されないのか?昭和的アナログ管理の残滓

現場現物主義の落とし穴

「現場を見ればすべて分かる」「帳簿より現物が正しい」という考え方は、日本の製造業が世界に冠たる現場力を醸成した背景でもあります。
しかし、その思想を過信したあまり“現物合わせ” “記録後回し”が常態化し、在庫管理のデジタル化が進まないケースが多く存在します。

私自身、かつては現場リーダーが「在庫台帳より俺を信じろ」と豪語していた時代を知っています。
が、その自信が過剰になると“不明品”や“ロス品”の温床となります。

部分最適と属人化が精度をむしばむ

アナログ管理が長く続く現場では「Aさんがいないと何も分からない」「Bラインだけは自前システムを動かしている」など、部分最適や属人化が進行しがちです。
これが組織全体での在庫精度向上の大きな障害となります。

また、伝票処理や入出庫記録が後回しにされることで、現場とシステム上の在庫に常に“ズレ”が生じます。
後でまとめて記録しようとすると、実際の在庫とのギャップがさらに拡大します。

「不問に付す文化」が改善を阻害する

在庫差異や棚卸しミスがなあなあにされる文化も、精度向上を阻みます。
「多少の誤差は仕方がない」「次の棚卸で調整すればいい」と問題の本質に目をつぶっていると、いつまでも現場は混乱から抜け出せません。

私の経験則では、上層部がこの“数字のズレ”を軽視している組織ほど、必ず現場の在庫精度も低い傾向があります。

在庫精度を高め、リードタイムを短縮するための実践的施策

1. 入出庫記録の即時化・見える化の徹底

在庫精度向上の第一歩は「帳簿在庫=現物在庫」を保証することです。
そのためには、入出庫作業を現物の“直後”にシステムへ反映する仕組みが不可欠です。

最近では、モバイル端末やハンディターミナルを使ったリアルタイム記録も広がっています。
これにより現場と事務方の認識を完全一致させ、誤差の温床を断つことが可能となります。

2. 定期棚卸しより循環棚卸しへのシフト

年に数回だけの大棚卸しは、結局「全部を一度に把握する」ための隠れた非効率であり、“帳尻あわせ”を生み出します。
そこで、ABC分析などを基に出庫頻度の高いアイテムほど優先的に「循環棚卸」を行う方式を推進しましょう。

これにより誤差の早期発見が可能となり、現場の負荷は分散して減少します。
結果、日常的な在庫精度の維持とリードタイム短縮が図られます。

3. 在庫管理システムへの投資と教育

アナログからの脱却には「仕組みと人の両方」をセットで改革することが重要です。
たとえば無料や安価な在庫管理アプリから始めて、小さな成功体験を積み、段階的に全社展開する手法も有効です。

また、新しい仕組みを導入する際は“現場の意義付け”と“使い方教育”まで丁寧に行い、「使い捨て」「やらされ管理」にならない工夫が求められます。

4. 属人化の打破と手順書・マニュアルの徹底

「この人だけがやり方を知っている」を許容しない組織文化づくりが必要です。
現場標準手順や標準作業フローを文書化し、定期的な見直しと現場レビューを重ねましょう。

同時に、現場担当者自身が主体的に改善アイデアを出し合うことで“自分ごと化”を促し、形骸化を防ぎます。

5. 異常在庫・欠品アラートの自動化

在庫差異が“溜まる前”“致命的欠品が発生する前”に異常値のアラートがシステムから自動通知される仕組みを導入しましょう。

こうすることで、初動対応のスピードが格段に増し、欠品によるリードタイムの延長を未然に防げます。
未来のリードタイム短縮は「問題の早期発見」から始まります。

バイヤー・サプライヤーが知るべき“リードタイム短縮”の本質

バイヤーにとっての在庫精度が示すパートナーシップへの姿勢

バイヤーが在庫精度を高められない企業は、サプライヤーや社内の他部門から「管理能力がない」「無理な追加発注の温床」と見なされやすくなります。
逆に言えば、在庫精度の高さは自身の責任範囲の厳守、サプライヤーへの迷惑最小化、「取引先から頼られる」証にもなります。

発注精度が高まり、急な変更や無理な数量調整が減ることで、サプライヤー側の計画も安定。
長期的な信頼構築や価格交渉でも優位に立つことができます。

サプライヤーが知るべきバイヤー現場の「在庫精度と心理」

現場で働くバイヤーは「発注ミスを絶対に避けたい」「在庫切れでラインを止めるわけにいかない」という、強いプレッシャーの中で日々判断を迫られています。
在庫監査や棚卸精度が低いと、「安全在庫を多めに持つ」「発注タイミングを早めにズラす」などの“防衛的な調達”に偏りがちです。

サプライヤー側から見て「あのバイヤーはなぜいつも急な発注をしてくるのか?」と疑問に思う際には「そもそも在庫精度の問題」であることを理解すべきです。

この認識があるだけで、納品側からデータを共有する、アドバイスをするなど協調的なコミュニケーションに繋げられるでしょう。

まとめ:在庫精度こそがリードタイム短縮の出発点

製造業における“リードタイム短縮”は、単なる「納期短縮」や「調達の早出し」だけでは本質的に実現しません。
その土台を成すのが「在庫精度の高さ」に他なりません。

現場の混乱・誤発注・計画ずれ・サプライヤーとの摩擦……。
これらの元凶の多くは、帳簿と現物のズレ=在庫精度の低迷に起因しています。

現場・調達・管理部門が一丸となり、在庫の“正確な可視化”と“現場主導の改善”を進めることが、ひいてはリードタイム短縮の唯一の近道です。

昭和的な現物主義や属人化にメスを入れ、データとリアルを一致させる仕組みを地道に作りこんでいきましょう。
その先にこそ、製造業全体の競争力向上と、皆さん自身の仕事のやりがい・誇りが見えてくるはずです。

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