投稿日:2025年7月9日

高機能化を叶える各種アクチュエータの特性比較と制御応用

はじめに

製造業において、アクチュエータは「動かす力」の源泉として、多岐にわたり応用されています。

ものづくりの現場を知る者として、アクチュエータによる高機能化は、生産効率や製品品質の向上のみならず、将来の製造現場の変革につながる本質的テーマといえるでしょう。

本記事では、電動、空圧、油圧など代表的なアクチュエータの特性や比較を、現場目線で具体的な事例とともに解説します。

さらに、制御技術と組み合わせた進化の可能性、アナログ思考が根強い現場でどのように導入や最適化を進めるべきかまで掘り下げていきます。

バイヤー志望の方や、サプライヤーの立場で顧客志向・現場志向を深めたい方、すべての製造現場担当者に参考となる内容を目指します。

アクチュエータとは – 現場の「動き」を作る原動力

アクチュエータは、入力された信号(主に電気、空気、油圧)を物理的な動作へと変換する機構部品です。

分かりやすくいうと、「制御信号を“力”や“動き”に変換して現場を動かすしくみ」です。
たとえば工場の搬送ライン、ロボットアーム、成形機、プレス機械など、あらゆる「ものづくり工程」に不可欠な存在です。

近年はIoT化による可視化や、AIと連動した高度な制御も相まって、「ただ動かす」の領域を超えて、現場価値の向上に資するキーパーツとして再評価されています。

昭和的な機械からAI制御ロボットまで

昭和の時代は油圧・空圧が主流でしたが、労働環境改善や精密化ニーズの高まり、さらに生産の変動対応や環境負荷低減の観点から、現代では電動化・スマート化したアクチュエータも急速に普及しています。

この流れは、従来の「いつもの製造方式」に固執しがちなアナログ志向の業界にも確実に波及しています。

主要アクチュエータの種類と特徴

現場でよく使われるアクチュエータの種類ごとに、基礎特性と選定ポイントを整理します。

電動アクチュエータ – 精密制御と省エネの先駆け

電動アクチュエータは、モーター駆動により直線や回転運動を正確に制御できます。

近年ではサーボモーターやリニアモーターなど高性能化が進み、数ミクロン単位の位置決めや、高速・高頻度の動きにも対応可能です。

強み:
・精密制御が圧倒的に得意(位置・速度・加速度のコントロール)
・クリーンルームや食品工場など環境厳しい現場にも適用しやすい
・制御盤のIoT化や無人運転、トレーサビリティとも親和性が高い
・消費エネルギーが少なく、CO2削減や電気代削減に寄与

課題:
・大きな推力・トルクが必要な用途では、モーターや駆動部の大型化でコストが増す傾向
・衝撃荷重に対しては比較的弱く、耐久性にも選定ノウハウが求められる
・耐環境性(粉塵・水分・耐爆など)は注意が必要

現場では、自動化ラインの搬送、組立・検査装置の細かな位置決め、搬送ロボットのジョイントなどへの実装例が増えています。

空圧アクチュエータ – スピーディで低コスト、定番中の定番

空気圧を動力源としてシリンダーやロータリーアクチュエータを動かすのが空圧方式です。

強み:
・応答性が速い(短時間でON/OFF動作が可能)
・耐環境性が高く、油圧よりクリーン
・大量生産で部品コストが比較的安価
・シンプルな構造でトラブルシュートがしやすい

課題:
・止まる位置の精度は電動や油圧より劣る傾向(中間停止・定速運転が不得手)
・圧縮空気の発生・維持にエネルギーコストがかかる(配管・圧縮装置のメンテも負担)
・摩耗部品が多く、シール性の劣化に注意

食品、繊維、軽作業の自動化など、簡便な繰返し動作やグリッパ用途などによく使われています。

油圧アクチュエータ – 重荷重のプロフェッショナル

油圧アクチュエータは、流体圧力を活かして大きな力を出せることが最大の特徴です。

強み:
・非常に大きな荷重やトルクの発生が可能
・無段階制御や衝撃吸収にも強み(サスペンション用途など)
・耐久性が高く、建設機械、産業機械の重負荷仕様によく用いられる

課題:
・油漏れリスクがあり、クリーン度が高い現場には不向き
・定期的なオイル交換などメンテナンス負荷
・配管設計やポンプ圧力制御のノウハウが必要

金属加工ライン、プレス装置、建築機械や大型成形装置に欠かせない存在です。

アクチュエータ選定の現場的視点 – 比較の基準と落とし穴

「どのアクチュエータがベストか?」の問いに、現場で20年以上関わってきた実体験から断言できるのは、「万能な選択肢は存在しない」ということです。

最適解は必ず「用途」「現場の制約」「期待する機能」「メンテ方針」など、複数項目を多面的に比較して決まります。

現場あるある – 仕様重視だけでは選定に失敗

現場目線で気をつけたい主な視点をまとめます。

1. 実負荷の変動幅(最大値・最小値)を確認せずに過大設計や過小設計になっていないか
2. 導入やメンテナンスでの“手間コスト”や運用現場の熟練度を無視していないか
3. 消耗品(シリンダー用シール、エアのフィルター等)のランニングコストをシミュレーションしているか
4. 現場環境(粉塵、水分、温度、騒音、クリーン度など)への適合性を検証しているか
5. 生産変動や製品多様化への将来的な柔軟性を残しているか
6. サプライヤーのアフターサポートや納期体制の信頼度を評価できているか

このように数字・性能カタログだけでは見えてこない現場課題を、バイヤーもサプライヤーも絶対に軽視できません。

なぜアナログ現場は変化に慎重なのか

特に、昭和から続く成熟工場では「これまでのやり方」が大きな力を持っています。

新規導入=リスク、不具合時の原因特定が難しい、現場スタッフの操作教育が面倒・・・こうした現実的な“心理的ハードル”が抵抗感の源泉です。

バイヤーとしては、技術的な優位性だけでなく「現場で誰がどう扱うのか」「導入後のケア体制」「現場教育のコスト」「不具合時の迅速な復旧マニュアル」まで踏まえた提案が求められます。

サプライヤーは、“現場に密着した改善提案”を武器にできますし、実際の現場課題を理解できれば継続受注や新規開拓にも有利です。

制御応用技術でアクチュエータの価値を最大化

単なる「駆動装置」から、「制御・解析・品質保証」へとアクチュエータの役割は大きく広がっています。

スマート制御で広がる機能

・サーボ制御やインバータ制御との連携で、数ミクロン単位の高精度位置決め
・加速度制御による“滑らかな動き”や“荷重追従”で品質ばらつき激減
・IoTセンサーと組み合わせて稼働状況や異常検知の自動化(予知保全)
・AIによる動作最適化、自律制御ロボットと一体運用

たとえば、電動シリンダーの動作をデータで監視し「負荷急増=異物」「繰返し位置ずれ=摩耗進行」を早期警告するといった仕組みは、現場の保全コストを大幅削減できます。

空圧でも、エア消費量のモニタリングやリモート制御、エコ運転の最適化が注目されています。
油圧現場では「電子制御バルブ」が応答速度や同調制御の性能を刷新しています。

多機能化・複合化アクチュエータの台頭

産業用ロボットやAMR(自律搬送ロボット)では、位置情報、セーフティ、自己診断、通信機能を内蔵した「インテリジェントアクチュエータ」も普及中です。

これにより、「現場データを活用した生産の最適化」「遠隔メンテナンス」「異常時の自律復旧」など、従来の“見えない問題”への対応力が格段に高まっています。

まとめ – アクチュエータの進化が現場をどう変えるのか

アクチュエータは、単なる部品として見られがちですが、生産性や品質、競争力向上の“触媒”となる重要な存在です。

この時代を生きるバイヤーや現場担当者には、単に新しい方式を追いかけるだけでなく、アナログとデジタル、それぞれの強みを熟知した“最適提案”が求められます。

サプライヤーとしても、現場の「困りごと」「こうなったらいいのに」の“本音”に寄り添い、アクチュエータの多機能化・スマート化で一歩踏み込んだ提案力こそ競合優位性を生み出します。

現場改革の出発点は、地味に思えるアクチュエータの選定・活用から始まることが多いものです。

これまでの「なんとなくの選択」を脱却し、次世代のものづくり現場にふさわしい“本質価値”に目を向けてみてはいかがでしょうか。

今後の展望と現場力の底上げのヒント

ますます多様化する製造現場において、アクチュエータの進化は終わりを知りません。

新しい技術を使い倒すには、現場・購買・サプライヤーが三位一体となった「現場をよくするための本気の議論」が不可欠です。

ぜひ、今日から“現場のアクチュエータ”に一歩踏み込んだ関心を持ち、価値あるものづくりの進化につなげてください。

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