投稿日:2025年9月1日

不正アクセスで受発注システムが改ざんされた際の補償問題と対処

はじめに:製造業を襲う新たなリスク「不正アクセス」

製造業といえば、長きにわたり安定した産業基盤を支えてきた日本の屋台骨です。

その一方で、デジタル化の波に乗り遅れ、「昭和の手法」から脱却できない工場や企業もまだ数多く存在しています。

近年、このようなアナログ傾向が根強い製造業界をターゲットにネット犯罪、特に「不正アクセス」による受発注システムの改ざんといった、深刻なセキュリティインシデントが増加しています。

では、不正アクセスによって受発注システムが改ざんされた場合、どのような補償問題が発生するのでしょうか。

また、どのように備え、どう対処すべきか—現場経験に根ざした観点で徹底解説します。

受発注システムの不正アクセスとは何か?

典型的な被害パターン

多くの場合、不正アクセスはサプライチェーン全体に影響を及ぼします。

たとえば、次のようなケースが代表的です。

  • 偽の発注情報が混入され、実際に存在しない注文が発生する
  • 受注内容が書き換えられることで余計な在庫や納品ミスが発生する
  • 納期情報が改ざんされ、信用失墜や取引停止にいたる

これらは、製造現場で即トラブルに直結します。

特に、受発注が自動で連携された一気通貫型システムの場合、異常に気づくのが遅れることが多く、大規模なサプライチェーン全体へ悪影響が連鎖する可能性すらあります。

日本の中小製造業にはまだ“穴”が多い

「うちは中小企業だから大丈夫」「従業員が数十名の町工場なので狙われない」といった油断が、実は一番危険です。

なぜなら、セキュリティ意識が低いシステムこそ、攻撃者にとっては“格好の標的”となります。

昭和時代から使い続けているアナログ運用、パスワードの共用、古いバージョンの業務システム——これら全てがリスク要因となります。

不正アクセスによる被害と補償の論点

納品遅延・品質不良・損害賠償リスク

実際に受発注システムが改ざんされると、納品遅延や誤出荷、さらに致命的な品質不良すら発生しかねません。

これにより、納品先から損害賠償請求を受けるリスクが現実的になります。

契約によっては「遅延損害金」「逸失利益」「間接的損害」まで補償対象となる可能性があるため、自社の契約書をしっかり確認しておくことが不可欠です。

システムベンダーとの関係——補償責任の所在

不正アクセスの原因が自社端末の管理甘さであれば自社責任ですが、システムベンダー側の脆弱性が原因の場合、どうなるのでしょうか。

契約によって、ベンダーがどこまで補償してくれるか(または補償対象外か)は大きく異なります。

「不可抗力」「責任範囲除外」などの免責条項が盛り込まれていれば、実質的に自社で全て背負わねばならないケースも少なくありません。

ここを曖昧にせず、契約時点で明確化しておくことが、現場目線で最重要のポイントです。

社会的信用低下の“見えない損害”

サプライヤーの立場であれば、「信用の失墜」が最大のダメージとなります。

たとえ技術的・金額的な問題が解決しても、「あそこの会社はセキュリティが甘い」という烙印が一度押されれば、受注減や取引停止という長期的な損害につながるでしょう。

こればかりは金銭で補償しきれません。

不正アクセスの対策:現場流の即効性あるアプローチ

まずは「マニュアル運用」も用意する

システム障害や不正アクセス発覚時、最も恐ろしいのは「パニック」状態に陥る現場の混乱です。

これを防ぐには、紙やFAXなど古典的なオペレーションにも“すぐ切り替えできる手順”の整備が不可欠です。

現場への周知と訓練こそが、デジタルリスク時代の安全弁となります。

アナログ業界こそ「二重チェック体制」を徹底せよ

自動化の進んだ業界ほど、人間による二重チェックがおろそかになりがちです。

しかし、受発注や伝票発行の段階で、「本当にその発注は正しいか」「誰がその注文を入力したか」を手作業でも点検してください。

とくに締日、月初などはヒューマンエラーや異常入力が発生しがちなので、狙い目となります。

エンジニアまかせにしない「情報の見える化」

システムベンダー任せ、情シス担当任せでは、現場の本当の実態を把握できません。

実際にシステムを毎日使う購買担当、生産管理担当、出荷担当が、どの部分にリスクがあるかを“見える化”できているか。

日報やトラブル記録をデジタルとアナログの両面で残してください。

この積み重ねが、いざという時の攻撃検知や被害の最小化につながります。

サプライヤーとバイヤー間の情報共有と信頼醸成

「うちは取引先じゃないから…」と受け身に回るのではなく、サプライヤーとして積極的にバイヤー側へ情報や対策提案を発信する姿勢が、信頼構築の第一歩です。

取引先から「セキュリティ対策の現状や改善提案はありますか?」と問われた時、具体的な回答や行動計画を準備できていれば、大きなアピールポイントとなります。

サイバー保険という新たな備え方

保険による“最終防衛線”の活用

いくら対策をしても、ゼロリスクにはできません。

そこで近年注目されているのが、「サイバー保険」です。

これは不正アクセスによる情報漏洩や業務停止、損害賠償など、一般の損害保険ではカバーできない範囲を補償してくれます。

契約条件・免責事項などをしっかり確認した上で、取引規模やリスクに合った保険商品を検討しましょう。

導入企業には「サイバーリスク管理してます」という客観的な安心材料ができ、バイヤーからの信頼獲得にも大きなプラスです。

まとめ:現場主義で冷静に、かつ積極的な“攻めのセキュリティ”を

受発注システムへの不正アクセスは、決して他人事ではありません。

むしろアナログ運用が多い、昭和的な製造業現場こそ、デジタル移行時代の“新たな弱点”となっているのが現実です。

万が一改ざん被害が発生した際は、契約・補償・信用といった多面的なダメージを即座に想定し、冷静かつ迅速にアクションすることが非常に重要です。

そして、その被害を未然に防ぐには、

  • システム障害時用のマニュアルバックアップの整備
  • 二重チェック・情報共有による人間系セキュリティ
  • 契約書や保険による書面でのガードライン
  • サプライヤー/バイヤー間の連携と信頼構築

という地道な総合対策が不可欠です。

業界自体が変革期にある今だからこそ、現場目線のリアルな課題認識と“攻めのセキュリティ”意識で、新しい時代のリーダーとなっていきましょう。

そして、この記事が一歩踏み出す勇気と、明日からの現場改善のヒントとなれば幸いです。

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